死の砂漠を渡る者
砂漠は、命を吸い取る魔物だ。誰もがそう思っていた。しかし、実際は、人が栄えたところが砂漠化していたのだ。今は、その砂漠の南の荒野が、人々の交差点。商業が栄える場所になっていた。
砂漠は何もない。あっても真っ青な空。ここに美しい女が、朦朧とした意識のなかで、砂漠を渡って、草原に逃げ込もうとしてた。荒野近くの森はもうだめだ。人が荒らした。砂漠の先には、以前ご先祖様が住んでいた森林地帯が広がると聞いている。今はツンドラ地帯になっているがそれがどうした。寒くても森だ。森なら生きていける。
女は、その森を夢見て砂漠を歩いてきたが、砂漠は、命を吸い取る魔物だ。もう動けないと倒れてしまった。誇り高いエルフ族に生まれたのに、このようなことに。ご先祖様に顔向けできない。
「み、水」
そう言って手を伸ばすと、そこには、蜃気楼だろうか、緑織りなす畑が見える。それは、夢のような農村地帯。砂漠の中ではありえない光景だった。
「ぶひっ、行き倒れだ」
「行き倒れだな」
「連れて行こう」
オーク!!!! 私もここまでのようだ。犯され、殺される……………。
女は、そこで気を失った。
目を覚ますと、そこは農家の土塀で出来た一室。土塀の中は、砂漠とは思えない涼しさ。ベットは、土塀の様な固めた土で、実際は、藁敷きなのだけれど、今はそれを横に避けてくれていた。土の床は、ひんやりしていて暑さを緩和してくれる。
起き上がって、枕もとを見てぎょっとした。オークの子供が、目をキラキラさせて私を見上げていた。
「ぷひっ、目が覚めた?」
「え、ええ」
「おかあさーん、エルフのお姉ちゃん目が覚めたって」
「そりゃよかった。行き倒れなんて訳ありだろ。水を飲ませてやりな」
「うん!」
オークの子供は、水瓶から、それも立派なコップに水を汲んで持って来てくれた。
「ありがとう」
「元気になったかい」
お母さんオークが来た。子供は甘えるように、母親の後ろに隠れる。なんだかとっても嬉しそう。
「今、旦那がキビト様を呼びに行ったから、キビト様に事情を話しな。キビト様は、悪いようにしないから」
オークが人の言葉を話している。じゃあ、この人たちは、ハイオーク。オークの王の一族だ。
「お母さん、今日のご飯は、なに?」
「キビト様も、今日は、ここで食べるだろうから、奮発するかね。肉万頭作るよ」
「やった」
「肉入りは、一人1個だからね。後は、野菜をたんと食べるのよ」
「えー」
「えーじゃない。キビト様もそうなんだからね」
最近までキビトは、オークたちの要望で、オーク王バウワと共にツンドラ地帯で、野生の毛長牛の生態調査に出かける日々を送っていた。毛長牛は、思った以上に数が多く、こっちの牧草地帯の収穫さえ整えば大量に飼える。バウワが、数が多いのなら、狩りをしたいというので、二人で数頭狩ってみんなで分けた。とても美味しい牛肉なのだが、貴重な肉でもある。近々、ハルク族とハイオークと、元そこに住んでいたドワーフの遠征隊を作って、ここに野生の牛を持ち帰ろうという話になっている。そのため、キビトは、結局、牧草を育てるために、必死になって働いている。
みんな、肉が食いたい。この一心で、全員、死ぬほど頑張っている。実際、肉の話は、先の話で、最初は、乳牛中心だけどね。
ここのおかみさんより小型のメスのオークがいっぱいやって来た。夕食を作る時間なのだろう。おかみさんが肉万頭の話をしたら歓声が起こった。私も食事をしたい。私の分はあるのだろうか。命を助けられた上に、そんなことを言ったら厚かましいと思われるだろう。でも‥‥‥
グウゥ、グギュ
「あら、あなたもお腹が空いたのね。元気になった証拠よ。でも、ちょっと待っててね。今、作るから」
おかみさんは、真っ赤な顔をしている私に、笑顔で、そう言って、この部屋を出て行った。子供のオークは、女の子なのだろう。食事作りの手伝いをしに、一緒に居なくなった。私は、夢でも見ているのかと一瞬ぼーっとしてしまった。
そこに、今度は、ぬっと鬼人族の女性が入って来た。なぜ鬼人族が?。鬼人族は、一族だけで生きる。そこは、エルフと似たような種族。物凄く真剣な顔をして質問された。
「あなた、エルフよね。耳が長いわ」
「そう、ですけど」
「じゃあ、肉は食べないよね。そうなんでしょ」
「そうですが、切羽詰まったら食べれないことはありません」
「うちは、野菜ならたんとあるけど、どうする?肉まんじゅう」
「本来の食生活ができるのでしたら、それで構いませんが」
「良かった。肉は貴重なのよ。みんなうるさいし。じゃあ、病み上がりなんだから、特別に、スープを作ってあげる」
そう言っていそいそと、いなくなった。どうなっているの、ここ?。
鬼人族と入れ替えに、ハルク族のおかみさんが入って来た。私たちのご先祖種族の人だ。ハルク族は、感情的だし、肉も食べる。でも、その緑の肌を見て、とても安心した。
「私はボイ一家のウラだよ。みんながあんたの話し相手になったやりなよって言うから、こっちに来たんだ。砂漠を超えて来たんだって。大変だったね」
ウラさんに声を掛けられて、張り詰めていた糸が切れた。私は、土壁で出来た堅いベットの上で、泣いた。
Googl地図で、世界4大文明跡を見てもらいたい。すべて砂漠化している。エジプトは、元々草原だったから栄えていた。メソポタミア文明、インダス文明、黄河文明もそうだ。そこを見ると、すべて禿げ上がっていることに気づくだろう。砂漠化とは、人災なのだ。ところが、この中で、黄河文明の旧満州国後だけが、緑に覆われている。これは日本人が入植した後だ。日本人は、こういう荒れ地に、必死になって木を植える。世界でもまれな民族だ。キビトは、この日本人気質を見事に受け継いでいる。




