首謀者ハイライン王子
帝国は、荒れ地の南の広大な穀倉地帯を治めている。その城は、穀倉地帯の中を流れている巨大な川の氾濫防止工事をして更にその近くに高い城壁を築いた巨大な町の中心にある。高い塀の中に閉じこもれば、自分の身が安泰というのは、中世では当たり前のことだ。国という漢字は、壁に囲まれた中に玉と書く。そのまんまの城下町だった。
川から水を引いて下水にしているし、上流から水道を引いて、飲み水も確保している立派な城下町を見下ろして、帝国の豊かさを知った。城の中に井戸が無数にあるので、水道は市民のもの、城は、井戸を独占しているのだろうなと思った。水道の水が、そのまますぐ飲めるとは限らないということだ。
城の周りには一段と高い塀があり、その後ろには後宮がある。城は、高くても3階建て。それが、今の建築技術なのだろう。普通、偉そうなやつは、高いところにいるもんだ。だから、三階建ての建物に侵入した。
中央の広間を覗いてみると謁見の間。そこに王様がデーンと座って、謁見者の貢物を貰っていた。中には貢物以上のお土産を貰っている者がいる。その辺の基準が分からんと思いながら、ハイライン王子を探す。
中庭で、ぼーっとしている若者がいる。ダダっ広い中庭なので、隠れるところがない。聞く耳の感度をあげることにした。聞く耳の指向性を上げるまでうるさいのが難点だ。
ギャルゲワギキ 「・・・王子、地政学の先生がお待ちです。お急ぎください」
おっ、当たりかな
「良い、戦は将軍に任せればいいのだろう」
「地政学は、基礎学問でございます。戦に使えるだけではございません経済にも政治にも使えます。ハイライン王子が、世継ぎでございますぞ。他の王子に、治世をお譲りになるおつもりですか」
「そんなわけはない。馬鹿どもに任せてどうする」
「では、お行きなされ」
「慌てるな、少し待てと伝えよ」
ホイ、当たり。偉そうにしているけど、こいつ、本当は、暇なんだろうな。
たまたま誰もいなくなった。ちょっとからかってやろう。
キューーン「よっと」
「何やつじゃ」
「お前、勉強嫌いだろ。そんなんで上に立てるのか?」
「誰にものを言っている控えろ」
「ばっかだなあ、おれは、家臣じゃないぞ。敵だ」
ドガドカ。
簡単に気絶した。
オレはハイライン王子を担いで、ガブがいるキャンプ場に戻った。戻どってみると、木をある程度切ったので移動している。これも大変な苦役だなと上空から見下ろした。
「おーいガブ、木は、おれが、アイテムボックスに入れるぞ。途中加工する分だけ、持って移動してくれ」
「おおっ、そういう事か。すまん」
「毎日来るんだ。おれも働くよ」
「それで、この方か」
「特別扱いするなよ。おれは、午後の仕事があるから帰るな」
ガブが、困った顔をしていたが、日が暮れると、いろいろ仕事ができない。そのまま置いてきた。
次の日行ってみると、案の定、ハイライン王子を特別扱いしていた。ゼインまで、そいつの側にはべっている。
「ガブ、特別扱いするなと言っただろ。罪を償わせられないだろ」
「最初のガツンを頼む。わしじゃあ、気が引ける」
仕方ない。おれは、なんか良く分からないで、目をキラキラさせている王子の所に行った。
「王子様、暇は潰せたか」
「昨日の貴様か。ゼインから事情は聴いたぞ。私を城に返さないと大変なことになる」
「地政学を学んでいたんじゃないのか。ここは、北の最果てだ。帝国が、ここに進軍して到達するには、何年掛かると思う」
「さあ、十日か?」
「ハイライン王子、30年は、掛かります」
「バカな、すぐ私を帰せ」
「それで、侵略した罪はどう思っているんだ」
「帝国が版図を広げるのは、自然の流れだろう。それがどうした」
「はー、馬鹿につける薬はないか。お前は、おれの捕虜だ。おれは、ドワーフたちの王だからな。おれの領地を犯したお前は、死を持って償ってもらう。その前に、我が親民にした弾圧の数々を体験するんだな。まず、落ち木広いだ。出来なかったら、飯抜きな。ガブ、ミトマト。おれの言うことを聞け。こいつの言うことを聞くな」
「分かった」
「仕方ないだ」
「さあ、働け」
「なにを言っている」
バシン。
こういうのは、叩いて教えるしかない。
「私を殴ったな」
バシン。
「働けと言っているだろ。一番つらくない仕事だぞ」
バシン。
「止め、止めろ」
バシンバシン、ドカッ〈ケツを蹴った〉。こんなカンフー映画あったよな。
「分かった、働く、働く。だから蹴らないでくれ」
「ゼインお前もだ。働かないと飯抜きな。ガブ、ミトマト、聞いたな。忙しいのに、手を焼かすなよ」
そうは言ったものの、酒を一樽、大目に出しといた。カブたちへの迷惑料だ。
こいつらは、3日ぐらい抵抗していたが、さすがに腹が減ったのだろう。渋々働きだした。
ガブ達は最初、王子たちが何もしないのに3食出していた。それがおれにばれて怒られ、一食二食と抜き。最後は、間食のみ残して1日食事を抜いた。さすがに、これは、堪えたみたいで、素直になった。働かざるもの食うべからずだ。
一か月後、綺麗な服がぼろぼろになった王子を帝国の城に戻した。王子は、ドワーフより赤人族の飯がうまいなどと変なことを言っていた。
「まあ、地政学を勉強して、おれらを攻略できるか、試すんだな」
「次は、お前を死ぬほど、こき使ってやるからな」
減らず口をたたく王子さんだ。
この日、ドワーフたちが、クワやカマの柄を作りながら、オークの町に到達した。オークの町は、この1カ月で、緑豊かな農園に変貌していた。まだパンの実は、半年分の備蓄しかない。しかし、オークたちの顔は、希望に満ちていた。
最初、こいつ等を全員を食料にしようと思っていたが、こうなって良かったと思う。
オークの家に遊びに行くと、ハルク族のウラとシミに料理を習ったオークの奥さん方が腕によりをかけてご馳走をふるまってくれる。最近は、少し何言っているか分かるようになる。
オークの奥さん方に、「旨いかい」と聞かれて、「めちゃメタ旨い」と、笑顔で答えた。
オークの奥さん方も、良い顔で笑うんだ。
旨い飯を作る人は、おれにとっても、開拓村のオークたちにとってとても大事な存在だ。苦しい苦役を楽しいものにしてくれる。やる気を出させてくれる活力源だ。
こういう食事が、おれは嬉しくて仕方ない。オーク達も、おれが、食事を共にしてくれるのが、とても嬉しいみたいで、グループを作って、今度は、うちに来てくださいと誘ってくる。ずっと他種族に差別されていたオークたちだった。おれみたいに一緒に食事をする人などいなかった。それが、相当嬉しかったようで、毎日引っ張りだこだ。
それでも夕飯は、ハルク族とワイドオーク族とドワーフ、赤人族の主要メンバーと共に必ず食べた。工事の進捗状況などを聞くという仕事的なものもある。
気が付いたら、ずいぶん種族も増えたなと思った。
最近、別の種族が、この町を訪ねるようになった。
「キビト殿、鬼人族が、攻めてきました」
「なんだって、ワーグたちも呼んでくれ。防衛するぞ」
砂漠で鬼人族を待ち構えていると、ヘロヘロの鬼人たちの族長が白旗上げてやってきた。
「すいません。我々も、ここに住まわせてください」
ざっと見て120人はいる。
「いいけど、お前らも働けよ。『働かざるもの食うべからず』。これが、我が国の国是だ」
「分かりました。分かりましたから何か食べさせて下さい」
そこからは、女たちの仕事だ。そしてその家族も後からやって来た。
こうして、国がどんどん大きくなる。おれは一向に楽にならないが、みんなの笑顔を見て、まあいいかと思う。
そろそろ、水路の仕上げに取り掛からなくてはいけない。ワイドオークは家の建築。ハルク族は、牧畜を広げ、ドワーフは、機材を作りまくる。赤人族は、何でも器用にこなし、調度品などを作り出した。
久しぶりに、オアシスの主。コドシとミヨ夫婦が訪ねてきた。おれたちは、町を見下ろす丘の上で、この町をちゃんとした国家にするという話を始めた。




