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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
ロードキビト〈吉古神〉
11/43

北のオアシスの魔女の正体

 自分としたら、ちょっと行ってくる感じなのだが、ボイ一家と、バウワ一家、コドシ夫婦も見送りにやって来た。


「キビト殿。本当は、休みを許可する立場ではないのに、すまん」

「実際よく働いている」

「この木の御守りなんだが、兄貴に見せてくれ。信用してくれるから」


 みんなに見送られながら、浮遊を掛けて宙に浮いた。まず、体温を一定に保つウオーム。そして、飛翔でみんなから遠ざかる。空気抵抗を減らすために、エアバリアーを施した。更に何かにぶつかった時の保険にバリヤー。そこで、加速、倍加速、超加速を掛け。遠くを見るために、剣士スキルの燕眼、視野を広げる八方目を使った。


 おれは、ゴオーーーンと、一挙に加速した。

 すごいや、草原しかない


 80キロ先のオアシスの森が見える。確かに、2家族のテントも見える。


 空の旅は、一瞬だった。カイとクイは、何処で油を売っていたんだろ。よく見ると、北のオアシスから南方24Km地点に、テントがいっぱい集まっている所がある。ハルク族が、物々交換しているところだろう。あれも、今回の旅に含まれていたのに違いない。他の一家と単独で交流して、初めて一人前か。分かる気がする。


 そのうちここに、オークが育てた作物を持って行こう。


 交易は、新たな品物を手にするチャンスだ。それは、情報もそうだ。自分がどういうことになっているのか、この世界がどうなっているのか、何か分かるかもしれない。



 北のオアシスの名前は、ないと言っていたが、今は、さしずめ魔女の森だろう。二つあるテントの片方のハルク族が緑色で、本当に、もう片方が青色だった。当然、ザイ一家のテントに降り立った。


 テントに近づくと、若いハルクが出て来たので名前を名乗った。そうすると、大きなテントから、ボイと同じ顔の、でかいハルクが出てきた。


「もう来たのか。カイとクイもやるな」


 あいつら、おれをここに来させろと伝言を受けていたのか。聞いてないぞ。やっぱり、まだまだだ。


「ボイから預かったお守りだ。青肌のハルクにも紹介してくれ。その後で、魔女に話に行く」


「青肌のハルクは、カーン一家だ。青肌は少ない。家主の名前もカーンだ」



 カーン一家の所に行くと、意外にも歓迎された。主のカーンが怒っているのは、森の魔女たちだ。


「本当に人族が来た。これなら、魔女たちも話を聞くだろう」


「魔女も人族だとおもう。小さかったがな。オレとは、少し言葉を交わした。だが、カーンが、なぜ鉄の臭いがするのかと聞いた途端、結界を張ってしまった」


「鉄だぞ、オアシスの水、濁る」


 そりゃそうだ。ここでは鉄より水の方が貴重だ。


「カーンたちは、浄化魔法が使えるんだったよな」


「そうだが、鉄は無理だ」


「そりゃカーンが、怒るの無理ない。事情を聴きに行くよ。大概の結界ならすり抜けられるから、強行突破する」


「そうしてくれ、もう、2週間もあのままだ。今更、遠くから話しかけても応じないだろう」

「オレも、そう思う」


「それで、もし、この問題を解決したら、一つお願いを聞いてもらっていいか」


「なんだ言ってみろ」

「オークの事か。いいぞ」


 ザイに頷きながらカーンと交渉した。


「実は、砂漠で、一族が全滅しそうになったオークを保護しているんだが、食料が足りない。おれは、風魔法のアウレアという成長魔法が使える。それで、パンの種を育てて、そのオークたちを養っているのだが、カーンにも助けて貰いたい。成長魔法は、おれが教える」


「カーン。今、オークたちに恩を売っとけは、後に、穀物を安く売ってもらえるぞ。どうだ、いい話だろ」


「オークは、危険だ。あれは、生態系を狂わす」


「オークの群れに、ワイドオークもいるんだ。彼が王だ。その辺は、大丈夫。ザイに、詳しく話を聞いてくれ。おれ、ちょっと行ってくる」


「おー、頼んだぞ」

「魔女に、話次第では、助けてやると言ってくれ。こっちの事情も頼む」


「わかった」



 久々に羽を伸ばしている気分。魔女が人族だと聞いて、ちょっと嬉しくなった。



 オアシスの森に入って、こりゃ酷いと思った。湧き水が出ている湖を水の結界で覆っている。規模も大きいし、アイテムを使っているに違いない。ここは草原で、砂漠ではない。それにしても、水は貴重だ。特に飲める水は、皆で分け合わなければいけない。独占は良くないと思った。今は、凍土側にこの湖の水が、流れ込んでいるから、そこで、水を飲むことが出来るが、鉄を使うということは、大量に水を使うということだし、その水は、毒のように濁って飲めなくなる。


 水の結界には、水の結界ですり抜けられる。おれは、散歩をするように、この結界をすり抜けた。



 湖のほとりに小屋があった。大きな煙突から煙。あれは、鍛冶屋だな。なんで、魔法使いじゃないと張れない結界を張れるんだ? 行けば分かるか。


 ドンドンドン

 ごめんください。 


 キンコンカンキンコンカン言っていた音が止んだ。


「何者じゃ」

「そうよ何者?」


「何者じゃないぞ。公共の湖を独占しちゃって。それも、水を大した量使っていないじゃないか。毛長牛と羊が迷惑なんだよ」


「知るかそんなこと、わしら、命が掛かっとるんじゃ」

「そうよそうよ」


「じゃあ、今死んどくか?」


 ドガン

 なんかムカつく。


 とりあえず、家を半壊させた。簡単に言うと、ふっ飛ばした。実は、家ぐらい直ぐ岩作りで作れる。だけど、こういう引きこもりタイプの職人には、これが効く。そして、おれは、もう一押しする気だ。世界の境なんて、簡単に変わるんだ。


「ヒッ!」

「ギャッ」


 ドワーフ? 鍛冶屋だもんな


「お前さん、何者じゃ」


「そりゃこっちのセリフだよ。迷惑な爺さんと孫だな。おれは、お前らと、ここを使っている使用者が、話し合えるようにしに来ただけだ。ってわけで、『水玉砕』!」


 そう言って、目の前で、何かを握って見せた。結界のよりどころになっているアイテムは、水結晶。それも、特大のやつだ。おれは、魔法剣士だから、範囲攻撃ができる。アイテムを探して壊す必要はない。


 パッ、ぱしゃ


 青みがかった水の膜が消えて青空を覗かせた。


「じゃあ、みんなを呼んでくる。ちゃんと謝れよ」


「きゃーーー」

「お、お終いじゃ。どうしてくれるんじゃ」


「はぁ、そりゃこっちのセルフだって言ってるだろ。あっと、そうだった。カーンって言う青肌のハルク族の主が『魔女に、話次第では、助けてやると言ってくれ』って、言ってた。2週間も、我慢していたんだ。怒ってたぞー」


「待て、弁償しろ」


「そりゃカーンと話し合ってくれ。そっちも弁償な。話し合いに応じなかったのはそっちじゃないか」


「一族の命が掛かっとったんじゃ。全員死ぬ。お前のせいじゃ」


「何勝手なこと言ってんだ?そんなの、こっちも一緒だろ。悪いけど、おれは、ザイという緑肌のハルク族の所にいる。カーンと話し合え。カーンとお前が、一緒に来たら話を聞いてやる。ホントに、自分勝手な奴だな」


 引きこもりが急に青空の下に出るとこんなものだろう。二人は、脱力して、全く動く気配がない。


 おれは、カーンに、こうなりましたと話して、ザイの所に行った。カーンは、ドワーフだと聞いて、片手をあげておれをねぎらいながら森の中に入って行った。おれは、ザイに、経緯を話しにテントへ。思った通りいい匂いがしていたので、嬉しくなった。ザイの奥さんの料理もうまいに違いない。


「なんだ、もう帰って来たのか」


「あれっすよ、結界のアイテム壊しといた。後は、カーンに任せていいんだろ」


「なるほど、で、どんな魔女だった」


「ドワーフだった。鉄の臭いがしていたのはそのため。そんな感じだったんで、湖は汚染されていいなかったよ」


「湖は無事か、良かった。それにしてもドワーフ。はて、そんなの近所にいたかな」


 ザイというか遊牧民の近所とは、とても広大。


「北の凍土に居ただろ。あんたがキビトかい。お腹減っただろ」


「そうなんですか。ザイ、奥さんなんだろ」


「おお、すまん。嫁のシミだ。ボイの嫁と同じ一家の出だぞ」


「ウラさんの。いつもお世話になってます」


「そうかい。お昼を食べな。テントに入りなよ」


 この世界に来て一番の楽しみは飯だ。飯が美味しいので、ここで、なんとかやっていけている。

 そしてオレは、ついに、ここ〈異世界〉で、日本食の片りんを見た。


 うどんだ。

「シミさん、これ、作れるんですか」


「パンの種からね。つるんって言うんだ」


「つるんと、口に入るからですね。わー、嬉しいな」


 遊牧民風、肉焼きうどんだ。たぶん最高のもてなしなんじゃないかな。肉が分厚いし。それにしても、テントの中を見回すと、カラフルな布がいっぱいある。ボイ一家は、オークと同じになるために、コドシがいるワーグの森にテント一式を預けて、オークの中に入って生活している。だから、ハルク族のテントに入るのは、初めてだ。


 ものすごく、つるんをかっ込んだと思う。いくらでも食べれる。


「さっき、凍土にドワーフがいたとか言わなかったか」

「それなんだけど、子供のころだったかね。郷里に帰るって、居なくなっちゃったんだよ」

「居なくなった?その言い方、引っ越しって感じじゃないだろ」

「そうさ、居なくなったんだ」


「ゲートでしょ」


「ゲート? そんなものが凍土にあるのかい」


「だから、あのドワーフたちも、急に現れたんじゃないかな」


「見たことないぞ」


「ゲートって、遠くの村や町に一瞬で行ける。ドワーフは、そう言うアイテムを作れるんだったっけ。鍛冶屋だけじゃ無理だよな。でも、水結界を作るアイテム使ってたし。う~ん」


「独り言、言ってないで教えろよ」


「ドワーフは、鍛冶屋だろ。多分、鍛冶屋と錬金術師が、共同作業したら作れるかも。どっちも、すごくレベルが高くないと無理だと思うけど」


「錬金術士なんて、都市にしかいないものだろう。こんな片田舎にか」


「昔、居たから、そう言うアイテムが作れたんじゃないかな」


「ゲートねえ、便利でいいねえ」


「そうでもないんですよ。もし敵国が、草原の真ん中にゲートを作ったら、元気いっぱいの侵略者たちが、ここに来て、暴れてしまいます。だから、ちょっとずつしか通れないように作るんです。大きさもそうですよ。毛長牛とか馬は、通れないように作るんです」


「やっぱり楽は、できないねぇ」

「急にオークの軍団に来られても困るしな」

「それもそうだね。それで、あんた、ウラたちがいるところに行くのかい」

「カーンと話したら行こう。キビトも手伝ってくれるんだろ」


「三日休みをもらたんだ。一日は、テント村に行きたい」


「バザールか、いいぞ」


「チャイも飲むかい」


「いただきます」

 男の仕事は、なんとか出来るけど、女の人は、すごいな。飯がうまい。


「キビトも、落ち着いたら、嫁を貰わないとな」


 ブファ


「うちの一家のを貰ってくれるかい」


「一応人族でお願いします。種族を残したいんで」

 だって、娘さんもプロレスラーに見えるんだもんな。


「そうかい、残念だね」

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