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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
ロードキビト〈吉古神〉
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休みは必要さ

 あれから2週間。やっと体が慣れて来た。ハルク族もワイドオークも、まだ使い物にならないけど、ダムドとアウレアが使えるようになった。その日の午後。オークの女と子供たちが大挙してやってきた。


「こうしてみると多いね」


「我々より早い行進でしたぞ。少しでも食料を届けられたのが良かった」


 バウワと腰に手を当てて、やって来た女たちを眺めた。その中から、2人のワイドオークの女が、バウワに走って抱きついた。三人は、ひしと抱き合って泣いた。


「キビト殿、紹介する。トオンとマオンだ。わしの嫁だ」


 二人とも、おれに深々と頭を下げている。


「バウワは、奥さんが二人もいるの?」


「息子は、バガタしかいない。バガタは、トオンが産んだ。マオンの子は、残念だった」


 マオンが、バウワに抱きついて泣た。荒野で、いろいろあったのだと察した。一緒にやって来たワイドオークを見回すと何だか人数が多い。


「ワイドオークの女は何人いる?。他の男が見当たらないぞ」


「50人ぐらいかな。女の子供を入れてだぞ。小さい子供と男の子供は、流行り病で死んだ」


「じゃあ男は・・」


「ここにいる11人で全部だ」


 なんだか落ち込みそうな話だし、事情を聴きたかったが、ぐっとこらえた。それより目の前の食料だ。


「病気は、森の薬草で何とかなる。後で調べるよ。それより悪いけど、女の仕事は、オークにやらせてくれ。彼女たちにも、ダムドを覚えてもらいたい」


「ダムド?」

「畑を拡張する魔法だ。みんな食べられるようになる」

「トオン、やりましょう」

「覚えるわ」



 女が来て、オークたちも、やっと一息ついた。みんな過酷な労働で死にそうだったのに、笑顔かこぼれている。



 ワイドオークの女たちの増殖魔法に対する執念は、男の比ではなかった。荒野での苦しい生活を支えていたのが女だとわかる。元々彼らに、男尊女卑の考え方はない。男が、病気で死にやすいので、女が頑張っていた。それだけだ。薬制作は、薬師もそうだが、錬金術師の仕事。本業を頑張りたいところだ。


 ダムドの上級魔法の上級魔法にダムダムドワンというのがある。食物を増殖する魔法だ。量は多くないが、薬や貴重なワインとかを増殖するのに適している。ワイドオークの女は、筋が良い。そのうち教えようと思う。男どもは、攻撃魔法の土んでん返しに、移行してもらおう。最終的には、岩壁を覚えてもらう。魔物の魔法は、おれが教えるせいで、日本語が増えていく。





 ハルク族のハーン一家は、成長魔法の腕をめきめき上達させていた。彼らは、エルフ族の原始人なのだ。やはり筋がいい。おかげで、畑の面積が広くなっているのと相まって、パンの実が、貯蓄できるようになり出した。


 ハーン一家の主であるボイは、甥の若いクイとムイに言って、他の一家に、ここで、畑を手伝うようお願いしに行ってもらった。あれから2週間たつけど、音沙汰なし。成長魔法を教えないで、伝言を頼んだから、拗ねちゃったかな。


 クイとムイは、二人で一人前。一緒に北東方向に向かってもらった。ここにボイの兄のザイがいる。今ここを手伝えば、将来、オークたちから穀物を安く提供してもらえるのは間違いない。いい話だと思うのだが。


 オークの女たちが来た翌日、二人が、相棒のワーグと共に帰ってきた。野菜の種や、根菜類をいっぱいお土産に持って帰ってくれたので、成長魔法に力が入ることになった。


 ずっと二人のことを心配していた、ウラが、二人を抱きしめた。


「遅かったじゃないか。それで兄さんたちは?姉さんにも会いたいし」


「それが、凍土に近い北のオアシスがあるだろ。あそこに魔女が住み着いたんだ」


「空き家だったオアシスだね。誰が住んでもいいけど、独占は困るね」


「そうなんだ。魔女たちは、おれたちを寄せ付けない。水飲場は、みんなのものだろ。ザイおじさんが説得しているんだけど、閉じこもっちゃって出てこない。湧き水の川は、凍土に流れているから、今はいいけど、冬は、今のようなことが出来なくなるじゃないか。そこに青肌族の一家も来て、本気で怒っちゃって。おじさん板挟みで、ここに来れないってさ」


「青い肌のハルク族もいるんですか?」


「そこに興味を持つかねぇ。青肌のハルク族の得意魔法は、浄化だよ。風魔法には違いないさ。青肌族が怒るってことは、魔女が森で、何かしているってことさ。いい予感がしないね」


「風魔法のハルク族が、森に入れないってことは、違う属性の結界を張っているってことです。おれが話に行きましょうか?」


「駄目だぞ、ここを2週間も空けられないぞ」


「あんた、お帰り。そうだ、クイとムイも、お昼を食べな。相棒にも持って行きな」


「クイとムイが、野菜の種を持って来てくれたんだ」


「そりゃあいい。早速植えよう。クイとムイ、良くやった。これで一人前のワーグ乗りだ」


「ほうとうに!」

「そりゃそうだろ」


 なんだか二人を見ていると誇らしい。二人は、ウラにいっぱいお昼を貰って、相棒のワーグの所に走った。


「今、備蓄はどれぐらいある?」


「三日分だ。後二週間頑張れば、一カ月分になるだろう。その後、一カ月頑張って半年分だ。キビトがいたらだぞ」


「ザイ一家が来てくれたら、もっと、備蓄できるんだろ。そういえば、家畜をオアシスのワーグたちに預けけっぱなしだから、どうとか言っていたよな」


「コドシのワーグ達は、基本、オアシスから離れないだろ。だから、毛長牛や羊達をオアシス周辺に連れて行って草を食べさせるが、遠くに行かないんだ。最初北側に連れて行ったら次は東と、同じ所には連れて行かないが、限界ってもんがあるだろう。おれたちは、ここに、後、1カ月半しかいられない。さっきの話と合わせてみろ。ぎりぎりなんだよ」


「おれさ、6属性の魔法が使える」


「なんだ、藪から棒に」


「この世界だと、火、風、水、土の4属性しか使えないだろ。おれは光と闇も使える。その上、見ただろ。属性魔法を合体させられる。おれだと、2週間の道のりを数時間で飛んでいける。息抜きさせてよ。魔女とちゃんと話して事情を聴いてくるから」


「息抜き?」

「あんた」


「あれっ、そこ? 六属性の話は、驚かないの?」


「キビトを信用しているからな。実際よくやっている。そうだよな、最初は、死にそうになりながら、アウレアを掛けていた。偶に休むことも大事だ。バウワに相談してみよう。兄貴が、ここに来れるのなら、それも悪くない」


「そうだよ、休みは必要さ」


「本当に休んでいいの?」


「野菜を育ててからだ」

「パンばっかりじゃあ、健康に悪いさね」


「やる、すっごく頑張る」

 テンション上がって来たー。



 それから死ぬ気で頑張った。2日後、野菜が大豊作になって、ウラの料理教室が、オークの女どもに大人気になった。これを見たバウワが、休んで良しと言ってくれた。

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