第七話「運命が動き出す」
「運命が動き出す」
今日は寒い。
どうやら外は雨が降っているようだ。
冷暖房完全完備の城内も、さすがに隅から隅まで暖めることはできないらしい。
もっとも、彼らが寒いのはどうやら体だけのことではないようだ。
彼らの目の前を大きな棺がゆっくりと進んでいく。
騎士団の全員が今日は仕事を休んで、この式に出席した。
彼らはわざと棺を見ないようにうつむいたまま、黙って彼女を見送った。
その瞳に、うっすら涙を浮かべている者もいる。
それもそのはず。この葬儀は、彼らを昨日まで率いていた団長、マリアの葬儀だからだ。
誰もがこの人の死を受け入れることができなかったが、一番ショックを受けていたのが、命に代えても絶対守ると誓った人にたった6ヶ月で先立たれてしまったナイトだった。
その悲しみは、はかりしれないものがあった。
マリアと過ごした日々は、とても楽しい思い出ばかりだったが、それでも今、彼らの心を埋め尽くすのは悲しみだけだった。
葬儀が終わっても彼らの悲しみはおさまらなかった。
「なんで・・・、なんで・・・あの人がこんなことに・・・??」
一人の騎士が、かすかに聞こえるような声でつぶやいた。
その問いにゴールドが珍しく力ない声で答えた。
「わからないな・・・。でも、あんな完璧な人でも嫌われることがあるんだね・・・。僕は守りきる自信あったのにな〜・・・。それにしても、僕が団長になるのを見ててくれるっていってたのに、僕が団長になる前に逝っちゃうなんて・・・薄情だよね!!」
ゴールドはそこまで言い終わると、トイレに行くといって逃げるようにその場を去った。
ゴールドの様子をみたロッドが、ナイトの姿がないのに気がついた。
あいつ・・・、どこいったんだろう??と気にはなったものの、今はそっとしておいてやろうと思い、その場にとどまった。
3日後・・・
葬儀の日とはうってかわって、快晴だ。
快い太陽の光に皆の心もほんの少し晴れた。
大人というのは皮肉なもので、悲しいことが起きてもそこにとどまり続けることができないのだ。
ゴールドやロッドをはじめとする騎士団の皆は意気揚々と練兵場にきた。
「やっほ〜♪今日もガンバロー!!」
ゴールドはいつものハイテンションで彼らに挨拶した。
「おう。ゴールド。お前は何があっても元気だな〜。」
ロッドはため息混じりに返事をした。
しかし、言動とは裏腹に、ゴールドの明るい態度に安心感を覚え、内心ホッとした。
そのとき、練兵場の扉が開く音とともに、ナイトが現れた。
「おお、ナイトか!!3日も現れないからもう来ないのかと思ったぞ。」
ロッドはさっきの気持ちの尾を引いているせいか、明るくナイトに話しかけた。
しかし、ナイトからの返事はなかった。
結構大きな声で話しかけたのだが・・・、聞こえなかったのだろうか・・・??
疑問に思いながらもロッドはもう一度彼の方をたたいて話しかけてみた。
「おい!!聞いてるのか??」
「・・・・・・俺にさわるな・・・。」
どういうことだろうか。確かに以前もどこか大人びていたところはあったが、ここまで冷たい口調ではなかった。やはりマリアが亡くなったことがよっぽどショックで話せないほどなのか。しかしそれにしては表情がいつもと変わらない。
ナイトはたった3日のうちに心がロボット化していた。