第四話「最強の彗星」
「最強の彗星」
剣と斧が重なり合い、激しい轟音が響いた。
少年は剣士特有のスピードを生かしてゴールドの周りをものすごいスピードで回り、彼の大きな動きの攻撃を外させ、そこに追撃をいれようと考えていた。
それもその筈、少年は斧使い=ノロイというイメージを持っていたからだ。
しかし、その考えは、一瞬にして変わった。
なんと、ゴールドはスピードアタッカーである少年とほぼ同じスピードで動いているではないか。
それどころか、斧を振るスピードまで、まるで空気を振っているかのように軽やかである。
少年はこれはマズイと感じてか、バックステップで一旦間合いをとり、遠めから銃で攻撃し、ゴールドの隙をつこうと考えた。やはりこれだけの強者を相手と対峙するとなると、フェアに戦ったところで負けは見えている。これくらいのズルは仕方ないだろう。
しかし、この作戦もまたもや破られることになった。
少年が間合いを取った瞬間、突然風の刃が彼の頬や手足をかすった。
ゴールドはグラウンド・マジックという特殊な魔法が使える戦士でもあったのだ。
この魔法は詠唱やモーションがないので、かわすのがとても困難である。
これを使わせるくらいならまだ、接近戦のほうがわずかだが勝ち目がある。
少年は仕方がなく一か八かの賭けにでた。
ゴールドの懐に突っ込んでいってすばやい突きを繰り出した。これは下手をすれば命にもかかわる決死の行為である。だが結局少年は入団者審査員の強さに圧倒される形で試合を終えることになった。
ゴールドは彼の突きをも見切っていたのかすばやくその突きを払い、そのまま彼の持っていた剣を遠くに吹き飛ばすと、すばやく彼の喉元に斧の刃を突きつけた。
この時点でもう何をしても彼の斧に阻まれるだけである。
少年は彼が狙っていた最後の効果をしばらくまっていたが、それが起こらないことを確認すると静かに目を閉じ「降参」の意を表した。
それを見たロッドがやっぱりな、といいたそうな表情で掛け声をかけた。
「挑戦者、戦闘不能。勝者ゴールド。」
「なんだなんだ??もう終わり??なんか刺激が全然なかったんだけどぉ〜・・・。やっぱ時間の無駄だったか〜。」
とゴールドがつまらなさそうにつぶやいたのを聞きロッドは、
「ま、まぁ・・・、最近の挑戦者の中ではもったほうだよ。」
と挑戦者をかばった。実をいうとロッドはその少年の強さに心底驚かされていた。ゴールドという「バケモノ」に負けはしたものの、その洞察力や状況判断のはやさには一目おけるものがあったからである。
このまま手放すのは非常に惜しい。
だがそのロッドの心とは裏腹に、少年は落ちた剣を拾ってゆっくりとしまうと悪夢のスタジアムを去ろうとしていた。
しかし、ゴールドが斧をしまおうとすると、「バキッ」という乾いた音が響いた。
それは頑丈この上ないゴールドの斧が根元から情けなく折れる音だった。
きちんと武器の調整はしたのだから、偶然に折れるということは、まずありえない。ということはあの少年によって折られたとしか、考えられないのである。
実はこれこそ試合中、少年が狙っていたことであった。
ゴールドは思わず少年を呼び止めた。
「待ってよ坊や!!これをみてくれ!!僕の斧が、僕の頑丈な斧が根元から折れた・・・。もしあの時これで君を切りつけたとしてもこの状態じゃ意味がなかった。この勝負は君の勝ちだ。」
彼は振り返り、しばらくその言葉の意味がわからなくて呆然とその場に立ち尽くしていたが、ようやく「合格」の文字をかみ締めた。少年は念のため彼に念をおして聞いた。
「・・・ということは、俺がこの騎士団に入団することを許可してくれるんだな??」
「うん♪モ・チ・ロ・ン☆、え〜と名前は・・・。」
「榊騎士だ。これからは俺も一騎士としてこの国のために屈力しよう。」
騎士は名を名乗ったあと手を差し出した。
「ナイトかぁ〜!!ゴツイ名前だな〜。でも、騎士にはピッタリの名前だね。じゃぁこれからよろしくね、ナイト♪」
ゴールドは差し出された手をしっかりと握った。
世界最年少騎士の誕生だった。