第十九話「さよなら、またいつか・・・」
「さよなら、またいつか・・・」
彼らの努力の成果なのだろうか。
ある日、ナイトがいつものようにテレパシーを始めようとれいなに近づいた。
彼女も彼の行動に気がついて、自ら近づいていった。
そのときに、彼女は足元にある机につまずいてしまった。
「きゃっ。」
彼女は転んでしまったが、ナイトは彼女の発した音を聞き逃さなかった。
「お前、今、声を出さなかったか??」
彼女もどうも実感があったらしい。
恐る恐る口を開いてみる。
「ナ、ナイト。わ、私、声が出るよ!!しゃべれるよ!!」
その声を聞いたナイトは、声が出るようになった本人よりも嬉しそうに言った。
「よかったな!!これでテレパシーなんか必要なくなったな。これからは直接話せるな。」
「うん!!」
彼女が嬉しそうに答えたと同時にナイトの携帯が鳴った。
電話の主はゴールドだった。
「やあ、ナイト。すぐるちゃんの居場所らしきものが見つかったよ!!見つかり次第連絡入れるから。そんじゃまたね。」
あれから、何時間がたっただろうか。
一向に携帯が鳴る様子はない。
ナイトは小さくため息をついた。
それにつられてか、れいなもため息をついた。
二人とも、電話を待っている今の時間はとても複雑な気持ちだった。
ナイトは、今まで8ヶ月も続いた「彼女のお守り」という任務から開放される喜びがある。
れいなは、長い間、離れ離れになっていた父親に8ヶ月ぶりに会える期待と嬉しさがある。
しかし、二人に共通するのが、悲しみである。
れいなの父親が見つかるということは、同時に、彼らの別れを意味するのだ。
二人の間に今まではなかった、気まずい沈黙が流れた。
この一秒が、一瞬が、二人で過ごす、最後の時間になるかもしれない。
そうわかってはいるものの、別れにふさわしい、イカシた言葉が見つからないのが現状だ。
二人は黙って、静かに連絡を待った。
そのとき、ナイトの携帯のバイブが鳴った。
ナイトは少し躊躇しながらも携帯の受話器をとった。
「こちらナイト。用件を報告せよ。」
電話の相手はゴールドだった。
「ああ、僕だよ〜。すぐるちゃんの居場所がわかったんだ〜。褒めて、褒めて♪今から部屋にすぐるちゃん連れてくから。ちゃんとれいなちゃんにさよなら言うんだよ。」
「ああ・・・。わかった・・・。」
ナイトは、どこか寂しそうに答えた。
電話を切ってすぐ、彼女の父親らしき人物がやってきた。
「れいな。迎えに来たよ。今まで一人にしてごめんな。」
「お父さん!!」
れいなは嬉しそうに、父親の元へ駆けていった。
父親も愛しそうに彼女を抱くと、ナイトへ向き直った。
「今までこの子の面倒を見てくださって、本当にありがとうございました。これからは、私がきちんと面倒見ていきます。」
「そうか・・・。よかったな。」
彼はどこか冷たく返すと、父親にしがみついている彼女を見つめた。
言いたいことは山ほどあるのに、言葉が出てこない。
そんな彼の様子を察してか、彼女が「サヨナラ」の言葉を発した。
「今までありがとう、ナイト。でも、これはバイバイじゃないよ。私は絶対また、ここに来るから。そして、ナイトのお嫁さんになるから!!」
彼女は元気よく宣言すると、彼に微笑みかけ、手を振った。
彼も、その笑顔を見て、微笑を返した。
しかし、やはり、「サヨナラ」の言葉を言うのは、あまりにつらすぎた。
彼は結局何も言えないまま、彼女の無邪気な笑顔をただ、見送っていた。