従者になった日。
ココは海に面した大きめの公園で親子連れにも人気だ。
海に向かって三段ほどの階段のようなテラスのような造りだ。
今日は祝日なので客もそれなりだがそれほど混んでも居ない。
まあ、のんきな休日だね。
オレが何をしてるかと言うとベンチに座っている。
さっきまで「彼女」がいたんだが「元彼女」に変身して消えた。
折角の上天気な休日だというのになぁ。
デートで散財する前のお別れ宣言だったから財布の中身は無事だが
ハートは大ダメージだね。
なのでボーっと海を眺めている。
好物のうま〇棒をむいてはみたものの食べる気にもならない。
海の女神様はなんにも言わずに慰めてくださいましたよ。
一番海に近い段を小走りに美女が走っていった。
あ!
でも、アレは手を出してはいけない女だ。
なにしろ婚約者で夫なクラスメイトの勇者〔S〕に「殺すゾ!」(笑。)
と宣言されてるからな。
まあ、いくら美女でも元魔王なんて物件は遠くから鑑賞をさせて頂くくらいが
丁度いい。
見るだけはタダだしね。
彼女が走って行った先に〔S〕が居た。
なんで二人とも慌ててるんだろう?
アイツがコッチを見た! なんかヤバイ気がする。
気が付けば〔S〕が目の前にいた。
な、な、な、なんだよ?!
突然ヤツは土下座をした! ええええぇぇぇぇ?!
いや、オレがそう思っただけで土下座じゃあなかった。
ヤツはオレの足の間に手を突っ込んでベンチの下から〔獲物〕を
引っ張り出したんだ。
あ! ヤツの子供だ!
「あー、騒がせてスマン。
コイツが隠密と隠蔽を使って母親から逃げ出したんだよ。悪かったな」
う~ん、まだ三歳にはなってないと思うんだけど。
さ、さすがは勇者と元魔王の子供と言うべきなのか?
「にーに!」
子供がオレに向かってそう言った。
手にはオレのうま〇棒がいつの間にか握られている。
あっ! という間にオレのモノではなくなってしまった。
まあ、食べちゃったものを返せとは言えないよな。
子供だし……
〔S〕は、あちゃー……と言う顔をして弁償すると言ったけど
コイツには異世界に無理矢理な召喚をされた時に連れて帰ってもらった
借りがある。
千本・万本のう〇い棒でも返せる借りじゃあないからなぁ。
気にするな……と言っておくことにした。
家族の散歩のジャマもしたくないので子供に向かってバイバイをしたら
泣き出した。
美女な元魔王ママでもパパ勇者でもダメってどうしたんだ?
「にーに!」
あー、ヤバイ……このパターンはヤバイ……
そのままオレは子守をさせられた。
美女な元魔王ママはなぜかオレを〔従者〕だと断定した。
「もう従者ができたなんてなかなかヤルわね」
「オレも魔王さまの従者をしてたからな。
うん、お前にもきっとできるゾ」(笑。)
あのー……オレの意思は尊重していただけないんでしょうか?
「ソイツはある意味危険人物なんだよ。
ご機嫌を損ねるとコノ世界に危機がやってくるかもしれない。
なかなか気に入った相手が居なくてねぇ。
ココの神様もお手上げで自分で探せって言われたんだ」
魔王と勇者の子供ってそんなにアブナイのか?
親が面倒みてろよ!
「そうなんだけどお前もう職業が〔従者〕になってるから。
コイツに気に入られたんだしスマンが飽きるまででいいから
付き合ってやってくれ」
オレの職業は〔勇者〕だったはずだ!
ホントは魔王どころか魔物とすらほとんど戦ってないけど。
でもステータスを確認したら〔従者〕になっていた……
主人なあの子は「にーに!」と上機嫌だ。
取り扱い注意な危険人物のくせにカワイイじゃあねぇか!
反則だよなぁ・・。
ところでこの子は男の子なのか?女の子なのか?
どっちにも見える母親似の愛くるしい笑顔。
〔S〕に確認したら妙なコトを言う。
「う~ん……まだどっちでもないんだよ。
あの世界の魔族って10歳位にならないと性別が確定しないんだよ。
それくらいまでは両性体みたいなものなんだ。
可愛いから一応女の子ってことにしてるんだけどね」
ア、アブナ過ぎる……
そんな珍品で危険な人物に好かれてるなんてオレまで危険
じゃあないのか?
そうしてオレは〔従者〕になることが決定されていた。
もちろんオレには拒否権は無かった……(涙。)
もちろん勝手に〔従者〕に書き換えられてます。
ホントはちゃんと勇者なんですけどね。
勇者〔S〕君はちょっとイタズラしてるだけなんですけど
従者な勇者くんは当分気が付かないでしょうねぇ。
お気の毒さまデス。