2
し、刺激が強すぎてめまいがする……。
あの人と話せたことも、あの人がキモ男のお姉さんだったことも、あの二人が一つ屋根の下だったことも。
夢か?
だけど、話せたことは現実だと確信したい。
ただ、受け入れられない現実もあり……。
僕の初恋はBダッシュしてスリップしてるんだ、あれか。
それにしても素敵だったなぁ。
笑顔も声もスタイルも……。
スタイルはよかったけど……素敵の中に入れてしまうと、僕は全身をなめ回すように見てた変態みたいじゃないか?
見てない見てない。
どこが凸凹だったとか全く見てないぞ!
ま、いっか。
スタイルなんかどうであれ、あの人は僕にとっての完璧女子なんだ!
あんな先輩がいる高校生活が始まるっ。
めっちゃやる気起きてきたー!
それはそうと、余韻に浸っていてはクラスの団欒時間に取り残されてしまう。
スキップしたくもなる気分だが、落ち着け落ち着け。
せっかくの高校デビューなんだから、慎重に行動しなくては、だ。
教室はよろしくタイムで賑わっていた。
僕も早く参加しなくてはひとりぼっちになってしまう。
ぼっちはやだやだ。
と、思ったが、インドア男子な僕には、女子に何て声かけたらいいか分からない。
高校デビューって、実際何すればいいんだ?
ぶっちゃけ分からんっ!
「ねぇねぇ、芹沢くんだよね?」
「僕?……うん、そうだけど……」
「やっぱり?弥ちゃんだよね?顔は変わらないけど、めっちゃ身長伸びてたから最初分かんなかったよー」
し、失敬な。
誰が元チビだ、誰が。
「えっと……」
「小三まで同じ学校だったんだけど、転校しちゃったから、覚えてないかなー?」
「あー、ごめん、分かんないや」
「まぁ私、陰薄かったから仕方ないよねー、大丈夫大丈夫!気にしないでねー」
「あ、うん……いや、僕も陰薄かったけど……」
「あー、違うよ!弥ちゃんはかわいくて人気あったじゃん?」
じゃん?
知らないんだが?
しかも弥ちゃんって。
「昔はさー、背低くて女の子みたいな顔しててさー、女子の中でファンクラブ作ってたりしてさ、交換日記に今日の弥ちゃんコーナーとかやってたんだよねー!」
だよねー?
知らないんだが。
そんなことあったのか?
「そ、そうなんだ?全然知らなかったよ、陰で弥ちゃんとか呼ばれてることもだけど」
「そうそう、でさ、身長あったら子役モデルできるくらいかわいかったんだけどさー」
なんかさっきからチビネタ突っ込んでくるんだが、これは僕が突っ込むべきとこなのか?
致し方ないが元チビは認めよう……、だが、今はチビとは言わせないぞ。
「めっちゃ身長伸びたよねー」
「まぁ、ギリ170だからチビは卒業だと思うけどな」
「うんうん、それに痩せてるし美形だし、美少年って感じになったよねー!」
び……しょうねん?
美少年?
嘘っ!
え、え、え、僕って美少年キャラだっけ?
いやいや、インドアだし引きこもりだし……あ、同じか。
それにモヤシだし……って、うるさいな。
顔のことなんて誰にも何にも言われたことないぞ?
確かに、昔はよく女の子と間違えられて凹んでたけど……。
「そ、それは褒めすぎだろ……、美形だったらとっくに彼女とかいるし」
「あれ?香田さんて彼女じゃないんだ?なんかさっき、結構仲良さげに話してたからそうなのかなーって」
「え?」
「お互い呼び捨てじゃなかった?弥ーって言ってたしさ?」
「あぁ、凪沙……さん?あいつは保育園からの腐れ縁なだけだよ」
いかんいかん、中学の時もそうだったけど、下の名前で呼び捨てしてる関係イコール彼氏彼女だというレッテルみたいのあったし、気を付けなきゃだな。
「彼女いないのもったいないねー!今度みんなで遊びにでも行って親睦深めようよ!弥ちゃんならかっこいいから、すぐ彼女できるよー」
え、かっこいい?
彼女できる?
すげー!
これってまさに高校デビューってやつだー!
「あ、いいね、それ決まったら誘ってくんないかな?」
「うんうん、やろやろー!楽しみだねー」
た、楽しすぎるっ!
こんな簡単にリア充になっていいのか?
怖いくらいなんだが……?
え、いや、違うだろ。
美少年だのかっこいいだの言われて調子に乗ってたけど、僕に彼女なんて必要ないじゃないか!
そうっ、愛しのあの人がいるのだからっ!
いや、でも、美少年だのかっこいいだの言われるのは信じられないけど嬉しい話だな。
だが、世の中の美少年ファンよ、すまない!
僕には心に決めた人がー……っ!
「何ニヤニヤしてんの?キモっ」
「……またお前かよー、あぁ一気にクールダウンだ……」
「は?何言ってんの?さっきから聞いてれば美少年とかかっこいいとか言われてニヤニヤしちゃってさー!キモいんだけどー!」
「うるさいっ、ニヤニヤとかしてねーし!だいたいお前がこうやって話しかけてくるから、いつもいつも誤解されてるんだからなっ!いい迷惑だよ」
「……は?何よ」
「……何だよ」
ぱっちーーーん。
「……ってぇ、何すんだよ!」
「いつもいつもですって?よくそんなことあたしに言えるわね!あんたが泣いてた時、誰が側にいた?ぼっちで寂しい時は?落ち込んでる時は?あたしが迷惑ですって?それならいい加減あたしに頼るのやめてよね!」
痛ってぇ……。
でも、何も言えねー……。
恩着せがましい言い方だが、逆に言えば恩返ししなくてはならない存在なんだ。
口は悪いが、やってくれることはいつも僕を助けてくれていた。
女の子女の子言われるのが嫌でメソメソしてるといつも何も言わないで側にいてくれたし。
保育園の時なんて、僕が砂場でメソメソしていると、嫌なやつらに説教するヒーローだったし。
小五にもなって家のカギをなくして泣いてた時は親が帰ってくるまで一緒にいてくれたし。
中学の体育で足を骨折した僕の給食も行き帰りのカバンも、いつもいつも凪沙が持ってくれて……。
細かいこと思い出したらきりがないくらい、気が付くと僕の面倒をみてくれてた。
いや、僕が面倒かけてたんだよな。
凪沙には恩ばっかりなのに、近くにいすぎていつも忘れてしまう……。
こうしてビンタくらってから我に帰る。
遅いんだよ、それじゃ。
僕の頬以上に凪沙の手は何倍も痛いんだから。
謝んなきゃ、謝らねぇと、謝れよ、早くっ!
「……おい、凪沙」
おおおおおお、おいはないだろ弥っ!
なに言ってんだ僕は!
「何?文句あるなら聞くけど?」
「いや、その……」
あぁ、こういう時に気の利く言葉を出せるヒーローになれない自分が情けない……。
違うんだよ、謝りたいんだけど、何て言ったらいいか分かんないだけなんだよ。
すげぇ気まずいんだけど、やばい、何て言えば……。
「あー、香田さん!みーっけ」
……タイミング激悪だよ、キモ男くん……。
これでもう、君の株は上がらない、てゆうか一つもない。
「……何?」
「あれ?何か怒ってるの?」
出たっ、怒ってる人に怒ってるのと聞くバカが。
さすが空気読めないキモ男だよ、君は。
「うん、ちょっとこいつにムカついてただけ。何か用?」
「あ、そうなんだ?仲良さそうだと思ってたけど、いるよねー、女心が分かってないやつ!もうっ、かわいそうな凪沙ちゃんっ!俺がなぐさめてあげるよー?」
「でしょでしょー?あたしめっちゃかわいそうでしょー?分かってくれるの葉山くんだけだよー!なぐさめいらないから一発殴らせてー?」
「え、えー?冗談だよねー?殴るのなしなしっ」
「あははっ、本当に殴るわけないじゃん、冗談通じないなー、あはは」
え?
は、はあ?
何この状況!
僕としたことが、凪沙に謝って機嫌直してもらおうとしてたのに、あんなキモ男に凪沙のご機嫌もってかれるなんて!
ちくしょう、もうどうにもならないじゃないか。
もう、凪沙が何日かして機嫌治るの待つしかない。
あぁ、何日かかるだろうな。
「あ、ごめんねモヤシくんじゃなくて芹沢くんていうんだ?ごめんごめん、モヤシとか言っちゃって」
「あははっ、だから弥の地雷だから何回も言っちゃ怒るよー!ねー、弥」
「え?」
「あははっ、ほらぁ、固まってんじゃーん!葉山くん少しは空気読んでよねー!」
わ、笑ってるし……。
話しかけてくれてるし……。
いや、モヤシネタで笑ってんのは今回は置いておくとして。
「俺ってよく空気読めって言われるんだよねー、ごめんね、芹沢くん」
「え、あ、……いや、別に」
「あははっ、許してあげなよー!キモいけど悪いやつじゃないって」
「キモいはないよねー、キモいはー!」
二人、めっちゃ楽しそう……。
なんだこの孤独感。
社会から拒絶されてます?
「あは、笑いすぎたー!ごめんね、弥っ」
「え?」
「別に弥がモヤシだなんて思ってな……ぷっ」
思ってるじゃねーか。
吹いてるし。
もう、何でもいいよ。
笑っててくれるなら。
「そうそう!弥が騒いでたあのボーカルの人、葉山くんのお姉さんなんだってさ!すごいよねー!よかったじゃん弥ぅ、お近づきになれるかもよー?」
はっ!
美少年からのビンタからの流れで忘れてたけど、そうだった!
あの人の弟……。
弟……。
「見すぎっ見すぎっ!葉山くん見てもお姉さん出てこないからっ」
多分、今僕の目からビームが出ていたんだな。
じぃーって。
「あ、芹沢くんてうちの姉ちゃんのこと好きなんだ?」
「……そ……っ」
そう!なのか、そうじゃない!なのか、どっちを言ったらいいのか分からないくらいのぶっこみ。
弟の前で言っておくべきなのか?
いや、言わないよな?
「じゃあ、うち来る?姉ちゃんの素見たら引くよ、きっと、ははっ」
なななななんだと?
素っ?
素ってなんだ?
素じゃないのか?
今朝のも、さっきのも。
素、見たいーっ!
「もちろん、行くっ!」
「うん、いいよー!じゃあ姉ちゃんにも言っとくね、芹沢くんのこと」
「ちょちょ、僕の何、を?僕まだ好きとか言ってないしっ」
「あぁ、違う違う、美少年がうちに来るよって」
「え?いや、僕は美少年とかじゃないからハードル上げないでもらいたいんだが……」
「そんなことないよ?男から見ても結構美少年って感じだけどー?それに、姉ちゃん大好きだからさぁ、美少年が」
「……え?」
「喜ぶと思うよ?本当に来てくれるならだけど」
え、な、何?
待て待て待てっ。
美少年好き?
いやいや、こいつの勘違いかもしれない。
美少年好きだってことも、僕がそのラインに値しているかも。
でも、だとしたら……、さっき、会って話した時はそんな風には見えなかったし、てことは、どちらも勘違いってことかい?
でもでも、たら、れば、も、ある?ある?
「凪沙っ!」
「何っ?急に大きい声ださないでよー」
「僕、美少年?」
「……は、はぁ?それはぁ……」
どっちでもいい、早く答えろ!
いや、できればイエスで。「傷付かないからっ正直に言えっ!」
「……えーっとぉー、まぁ一般論なら、ね、一般論」
「一般論ってどっち?」
「あたしにそゆこと聞くかなあ?ねー、葉山くん?」
「凪沙に聞いてるんだけど?」
何をもったいぶる必要があるのだ!
早よ、言え!
「えーっ!うぅ……、美少年、なんじゃない……?多分……」
「マジで言ってんの?」
「……うん」
「本気?」
「もぅっ、しつこいなー!美少年だよっ弥は!」
「よぉーっしゃあっ!」




