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ビッグズババン

もう土曜日になる寸前で更新するスタイル。

 ヴォァアアアアアアォオオオオオッッ!!

 気合い一発、角付きの怪獣が空気を揺らし、ダルマ型のロボットはバランスを崩して倒れ、ロボットから、拡声器によって年季の入った濁声がばら撒かれる。

 「ビッグズババンはこの程度では負けはしない! 掛かって来い!」

 どうやら、ビッグズババンというのはこの達磨型のロボットの名前らしい。

 その言葉を理解してるのかしていないのか、嘲笑か咳払いかわからないが怪獣はグッグと喉を鳴らす。“立てないではないかお前は”、そうバカにでもしているかのように。

 「なめるなッ! チェンジッ・タンクモォードッ!」

 パイロットの怒号と共に、ビッグズババンの身体が持ち上がった。

 それもそのはず。 車をジャッキアップするようにキャタピラによって機体が持ち上がっている。…が、“それだけ”だった。

 「ビッグズババンの第三の姿、ズババンタンクッ!」

 もう一度確認しよう。

 その“変形”は背中にキャタピラが生えただけで終了。

 傍目から見ると、倒れたダルマの背中にランドセルのようなキャタピラがくっついただけ。寸足らずな手や足もそのままで。

 「……?」

 怪獣には、今の変形を理解できていない。

 今の変形に意味があったのか? それとももっとしっかり変形するのか? そんな疑問が怪獣の大きな頭蓋の中の小さな脳に満ちた。

 その瞬間だった。

 「ゆくぞッ!」

 ズババンタンクの右腕のガトリングガンが唸った。

 怪獣は盾を前面に構えて弾丸を逸らし、受け流された弾頭は周囲の建物に突き刺さる。

 しかしながら身を護る盾は目隠しになり、突撃してきたズババンタンクへの対応を遅らせることとなった。

 「ズババン・スタッグビートル・アタック!」

 背部キャタピラで激走したビッグズババンは、プロレス技・カニバサミの要領で足で盾ごとヤギアタマを抱き込む。

 スタッグビートルとはクワガタ虫のことであるが、足で敵を押さえ込む姿が、アゴで敵を挟むクワガタに見えなくも無い。

 「うおおおおおぅっ!」

 別にパイロットが叫んだからといって、マシンのパワーが上がるわけでもないだろうが、鉄脚によってより強く締め付けられ、怪獣の全体が喘ぎ声のように軋めく。

 怪獣の筋線維が握られたアルミ缶のようにへこみ、背骨は情けなく圧し折れた。勝利宣言の代わりいうばかりのタイミングで、地面から何かが生えた。

 生えてきた“それ”は、直立したズババンよりも縦にも横にも大きく、電柱のように装飾も無くただ真っ直ぐな円柱。

 先ほど女店員と無銭飲食男が避難したものだが、あのときよりもはるかに高くそびえている。

 「早くハッチを開けろ。 足のモーターがガタ付いてる」

 鉄扉が唸った。 ビッグズババンは駐車でもするように一度切り返してバックで入り、それを合図に鉄扉は閉じ、床が落ちた。

 落ちたというのはそのままの意味で、エレベーターのように下降しているのだが、そのスピードには『降りる』という表記は似つかわしくない。

 純粋にまっすぐ、重力に従ってただ下へと直進するだけ。落下すること十数秒、轟音ひとつ伴って着地した。

 落下時間と速度からしてここは地下数百メートルの地中だが、鉄扉が再び開いた向こうには明るかった。

 ズババンでも這えば移動できるような広さの空間と、揃いのツナギを来た中年の男女と若い男女の計四人。怪獣の血臭すらかき消す様な、油とタバコの匂いが立ち込めていた。

 「だぁーっ!? またやりやがったなッ! ビッグズババンに変形機能なんてねぇッっつただろうがよぉおおお~~!」

 中年男は、足でヤギアタマを抱えたままのズババンを見て涙声を上げた。

 絶叫と同時にビッグズババンの胸部のハッチを蹴り開けて、一人の男が現れた。

 針金を思わせる銀髪は薄暗い空間でも光り、青いマントが風になびく…否、それはマントではない。

 雨風をしのぐための汎用ビニールシート、いわゆるブルーシート。その男は、裸の上半身にブルーシートなんぞを巻き付け、堂々と人型機動兵器を運転していたらしい。

 「ビッグズババンは俺の兄弟も同然、兄弟のことは俺が一番分ってる」

 「オメーがビッグズババンの兄弟なら、俺はパパだッ! ビッグズババンはてめぇだけのもんじゃねぇんだぞ、蛮!」

 「お前のモノでもないだろうが」

 「やかましい! 黙って俺に謝れ!」

 戦闘中のハイテンションとは打って変わって、ビッグズババンのパイロット――蛮――は、エキサイトするオッサンとは対照的なまでに沈着だ。

 オッサンと同じツナギを着た他の三人は、気にも留めずビッグズババンにワイヤーを張り、表面に器具を設定する。

 「ガトリング砲のバレルが折れてるか…やっぱりパーツが足りねぇよ」

 「ジュウロウタもさっさと点検しておくれよ。 ガレドライヴはあたしらじゃ扱えない」

 どうやら点検を始めているようだが、当の中年男・ジュウロウタは不満そうに蛮を睨み付けるが、そのときだった。空間の中にその声が響いたのは。

 「緊急通達があります、各班の責任者は至急操縦室まで来て下さい。 緊急事態です」

 蛮とジュウロウタと呼ばれた二人の男は、今までの諍いは何だったのか、走り出し、油臭い部屋を抜け、長い通路を通り抜けたその先には、カンフールックの小さな背中。

 「緊急通達……なんだと思う? ジュウロウタ?」

 「さーな。各班長が全員参加ってことは、医療班のドクターイエローも一緒か? あいつしか医療班はいねーわけだし」

 カンフールックの子供とジュウロウタの会話中、三人の背後から足音が響いてくる。妙に甲高く一定でないリズムの足音。

 追走してくるのはガリガリに痩せた白衣の男、男は体格に似つかわしくない猛スピードで走ってた。

 「よお、ドクターイエロー、久しぶりだな。また痩せたか?」

 「やあ、ジュウロウタ…君はまた太ったね」

 「身体が資本!」

 壁面はコードで埋め尽くされた部屋。

 軽口を叩きつつ、地上でカレーを売っていた女店員、無銭飲食をしようとした客のふたりが座っていた。

 「これで全員かい? 代表メンバーってのは」

 「ええ、全員です。調理班の蛮料理長。

  整備班のジュウロウタさん。

  医療班のドクターイエロー。

  風水班の緑一リュウイチちゃん……あ、私は調理班の込中さくらです」

 無銭飲食男の問いを受け、店番店員:さくらが更々と紹介する。

 そのとき、カンフールックの子供は退屈そうにあくびをひとつ。

 ブルーシートを着ているのが蛮、ツナギを着ているのがジュウロウタ、白衣がドクターイエローなので、こいつが緑一だろうと無銭飲食男は認識した。

 無銭飲食男は大きく息を吸い、全員を見渡してから口を開いた。

 「俺の名前は、列効弓軌れっこう きゅうき。 東京から来た」

 「トーキョー? 国だっけか? それ」

 「県ですよ、ジュウロウタ」

 ジュウロウタの質問を、ドクターイエローが是正する。

 この整備員は浅学ではあるが、青春を戦争と共に過ごしてきた彼の世代にはそう珍しいことではない。

 知っている県といえば、自分の住んでいる岩手県と南端・北端の沖縄と青森ぐらいである。

 (戦前まで最北端だった北海道は、戦時中に色々あって日本の国土ではなくなった、ということも彼は知らなかったりするが)

 「東京から…岩手までとは。何百キロ有るかはド忘れしましたが近くはありませんね…徒歩ですか? それとも馬かバイク?」

 「二日ぐらいはバイクだったが、ガソリンが切れてからは三か月掛けて歩いた。助けてくれ、俺の町が…危ないんだ」

 よく見れば、伊達やファッションとは思えないほどに擦り切れた服にコケた頬はその話に説得力を持たせていた。

 初見で悲壮感を感じさせないほどに燦々と光る量の瞳がなければ死体に間違えてもおかしくないほどに弓軌は疲れ、汚れていた。

 そして弓軌は、驚くべき言葉を口にするのだった。


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