最終回
最終回らしいよ。
トリプルシックスを撃破し、無線機でグランドライナーに連絡を入れ、待機すること五時間ほど。
曲げられたエレベーターでグランドライナーのメンバーが上がってきたところで、さくらと弓軌もコクピットから降りていた。
「そっか、やっぱり蛮は戻らないのか…」
「ええ、メモリーが消えたわけでは有りませんが、再起動させる方法がありません」
ドクターイエローは冷徹に事実を言い切った。
涙を流していたのはジュウロウタたち整備班だけだったが、他の者たちも平常を保っては居なかった。
ある者は呆然とし、ある者は不自然なまでに平静を装っている。それはドクターイエローも例外ではなく、日が昇っているというのに唇が震えている。
「…あのときの言葉は…なんだったんだろ…」
最後の一線、あの瞬間、一流になってしまった弓軌は完全に諦めていた。しかし「諦めるな」という言葉に闘志を燃やし、“身体を揺さぶった”。
あの攻防、トリプルシックスは最小の動きで攻撃を避けるためにほんの数度ズラしただけで回避は成功したはずだったが、コクピット内で弓軌が身体を振ったことで極々僅かにビッグズババンも揺れた。
その揺れは大雑把にビッグズババンを揺すり、正確すぎたトリプルシックスの回避を無効化し、致命傷を与えていた。
「…え? あのときって…パンチを打ち合ったときですか?」
「ん? ああ」
「ちゃんと聞こえました? 頑張って大声出したんですけど」
「…え? あれ、さくら…?」
あのとき、弓軌には渋く濁った蛮声、蛮の声に聞こえていた。
女の子らしい可愛らしいさくらの声と、どうして聞き違えたのか、弓軌には今となっては理解できなかった。
「ええ、あのときは負けたくありませんでした…でも、今考えると料理長と救世主さんは…戦う必要が有ったんでしょうか…? 確かに救世主さんのしたことは“今”は許されるべき行動ではなかったと思います。でも…もっと歩み寄る方法を模索することも、時間も、有ったんではないでしょうか…?」
さくらは自嘲するような作り笑顔でそう呟いた。
あのとき、戦いの引き金は弥勒自身が引いたが、蛮は“さくらを守るために”戦いを始めていた。あの戦いの中心にはさくらがいた。紛れも無く。
「どんな理由があろうとも、俺は人間を食べることを良しとする弥勒のやり方を認めるわけにはいかなかった。 それは蛮も同じだったんじゃねぇかな」
「…私、お母さんの肉を食べたんです」
「…え?」
「私のお母さんは、多くのボンガレを作った科学者さんでした。けど軍の食糧難で人間をマルチフードにすることになって…最初は戦力にならない赤ん坊だった私がなるはずだったんです。それを…お母さんが代わりにマルチフードになってくれたらしいんです。
…で、マルチフードになったお母さんを料理長が殺して、それが縁で私を料理長が引き取ったみたいです」
弓軌の中で蛮の言動の多くが合致した。そうか、あのときは言葉はそういう意味だったのか、と。
蛮は、どんな気持ちでその事実をさくらに伝えたのだろうか。娘同然に可愛がっていたさくらに、自分が親の肉を食べさせたことを伝えるなんて。
どんな考えだったんだい? どんな思いだったんだい? どんな決意だったんだい? それを問える男はもう話すことはない。
それでも、弓軌は自身に沈黙を許さない。自分の中の蛮という男の生き様を、さくらにぶつけなくちゃならないんんだ。
「付き合いは短いが、蛮が過ぎたことをウジウジ悩むようなヤツじゃないってことはわかってる。結局、人間は生きるしかないんだ、美味いもの食って、しっかり生きてやろうぜ」
救世主を失い、これから東京都民はどうやって生きていくのだろうか。
人の肉を食べたという十字架は消えることは無く彼らの心の中に残るのだろうか。
誰が悪かったのだろうか、救世主を倒した弓軌か? 倒す力を与えた蛮か? 人肉を食わせた弥勒か? 抗わなかった民か?
それとも、戦争を引き起こした顔も知らない誰かだろうか?
「俺はもう東京都には戻れないし、戻る気もない。それに…グランドダイバーで暮らしたいんだ。蛮が見ていたものを、守ろうとしていたものを見たいんだ」
「…良いんじゃないですか? 料理長が治るまで私は頑張ってカレーを作ります。…だから弓軌さんはビッグズババンをお願いします。きっと料理長もうそう思ってると思います」
そのとき、作業をしていた他のメンバーがさくらたちを呼んだ。そろそろ昼飯にしてくれないか、と。
汎用最終食品 ズババン
完
「おはようございます、天さん」
果てしない暗闇、彼は無線機越しに起きるべき刻を伝えた。
その言葉に従い、ジェラルミンの棺を押し開けて男は永い眠りから覚めた。世界を救うために。
「なんだァ、明王? 俺っちたちが起きるには早いようだけど?」
「天さん、弥勒さんが破壊されたようです。食によって世界を救うという彼の任務は失敗のようです」
「ああ? トリプルシックスに乗ってたアイツか? イレヴンドライブの最新鋭機だろアレ? 誰に負けたんだ?」
「グランドライナーに乗っているゴーディアス一機に敗れてしまったようですね」
「おいおい、なんだそりゃ。怖ぇなオイ。あの機体のスペックは俺たち四天王最強クラスだろ」
情けないようなことを云う男ふたりの会話に、第三の声が割り込んできた。
「あはん、あの子は若かったから仕方ないわよん。次はこの如来ちゃんでいいわよね? ふたりとも?」
艶らしい、というより馬鹿らしい口調で話す女に残るふたりも異論はないらしかった。この女ならトリプルシックスをも破壊した外敵を除去できると確信しているらしかった。
「では、お願いしますよ、如来姐さん」
「はァーい♪ “如来”ちゃん、頑張りまーすっ!」
「俺っちは準備だな、今のままではトリプルシックスを倒すようなバケモノとはアタれねえ。全ては…」
「そう、僕たちの全ては…」
『全ては人界救済のために!』
天、如来、明王。
新たな救世主が、動き出そうとしていた。
汎用最終食品 ズババン
完?
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