表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/72

エピローグ

「……と、こうして救世主様は神様さえも従えて、世界を守ったのです。めでたしめでたし」


 吟遊詩人はある街の路上でそう語ると、質素な木の竪琴を鳴らす。

 すると熱心に耳をかたむけていた小さな子どもたちがいっせいに拍手を送る。


「ショータってへんな名前だけど、神さまによばれたとくべつなひとだったんだね」


 九歳の黒髪の男の子が言えば、すぐ隣にいた同じ年くらいの茶髪の女の子がたしなめた。


「こら、ショータさまでしょ!」


「伝説の救世主様を呼び捨て……子どもってたまに恐ろしいことやるよな」


「そう言うな。まだ小さな子どもじゃないか」


 それを後ろから見ていた大人たちは小さな声で話しあう。


「今から二百年も前の話なんだよなあ」


「本当にあったのかなぁ?」


「ばか、こういうのはこちょうされるんだよ。とーちゃんがいってた」


 子どもたちはにぎやかに自分の思うまま発言し、立派な白ひげをはやした吟遊詩人はニコニコとその様子を見守っている。

 彼らが聞かされたのはカルカッソンに語り継がれるひとつの伝説だ。

 かつて魔王と化したシュガールが率いる悪鬼たちと人類の戦いがあり、愛の女神の祝福を受けた一人の若者がそれを終わらせたという。

 救世騎士と人々に謳われるその男は、シュガールの罪さえも許し、魔王となったその身も助けたとされる。


「そんな人、本当にいたのかな」


 そう疑問視されても不思議ではないほどの功績。

 特に熱いのがその勇者が降り立ったというクローシュでだ。

 

「時の王女ユニスさまが愛の女神メルクルディさまの化身だったってのはさすがに話を盛りすぎのような」


 麦酒が入った杯を片手にある男が苦笑すれば、その奥方がそれをとがめる。


「あんた、伝承に野暮なことを言うんじゃないよ」


 彼女自身も本気で信じているわけではないのだろう。

 だが、それでもクローシュの王都にある勇者の記念像に毎日たくさんの人が訪れる。

 勇者が右手に持つ剣は悪を討ち、左手でかざす盾は人々を災いから守り、首飾りは全ての生命の友誼を象ったものだと言われていた。

 ……それが真実か否か、知っている者はもう誰もいない。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ