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7話「決着は人の手で」

「ショータ様……わたくしはあなた様を信じておりますが、人の手で魔王を倒すというのは……」


 ユニスの端正な顔立ちに不安そうな色が現れる。

 信じたいが信じきれないといったところだろう。

 彼女ですらそうなのだから、シュガールが信じないのは無理からぬことだった。


「うん、何もシュガールと戦って勝つと言っているわけじゃない。人のせいでシュガールが魔王になったのなら、人の手によって魔王じゃなくなることもできるんじゃないかな」


 ユニスは分かっているとばかりにうなずく。


「ええ、それならば戦いを終わらせることもできるでしょう。人は罪を認め、シュガールもこの世界と戦う理由がなくなる。さすがショータです」


 彼女の頬は朱色に染まって声には熱がこもる。

 それに対してシュガールは侮蔑と憐憫の色をもって笑う。


「まさかそのようなことを言い出すとは……君はこの世界の者を信じすぎてはいないか? 結局、奴らは君一人だけ危険な地へやるような輩だろう? 数千年経っても相変わらずではないか」


「そうかもしれない。だけどやってみなければ分からないじゃないか。信じてぶつかってみないと、永遠に分かりあうことなんてできないよ」


 翔太はまっすぐにシュガールを見すえ、真剣に話すと魔王の表情が真顔になる。


「かつてのカルカッソン人は罪を犯したのはそうなんだろう。今もまたそれを知らず、デーモンの戦いには勇者頼みだというのも否定はできない。しかし、シュガールよ。あなたはこの世界の民が過去の罪も知らずに生きているのはかまわないのか? 罪を認めさせて償いをさせたいと思ったことはないのか?」


「カルカッソンの輩が認めるはずがないではないか……」


 シュガールの語気は弱くなっていた。

 かつて神であった強大な存在が、神器を持っているとは言えただの人間に圧倒され始めている。

 これは別に奇妙なことではない。

 シュガールは元々死と裁きの神だ。

 翔太のようにまっすぐな心を持ち、純粋に人の善性を信じる者を優しく見守ってきた存在である。

 カルカッソンの人々に怒り絶望し、災厄をまき散らす存在と化しても神だったころの気持ちは完全に失われたわけではなかったのだ。

 

「くっ……」


 小さくうめき声をもらす。

 

「シュガール。そなたは元々、ショータのような人を庇護してきたではありませんか。悪を容赦なく裁いてきたのもその為でしょう?」


 シュガールの心境を正確に見抜いたユニスがそう声をかける。


「このショータは異世界の者であり、あなたが憎むカルカッソンの者ではありません。その言葉を頭ごなしに否定するのもどうかと思いますが」


「うっ……」


 メルクルディとしての言葉は正論であり、魔王は言葉に詰まった。

 そこに光明を見出して彼女はたたみかける。


「罪に対しては誰よりも厳格でしたが、それ以前に誰に対しても公正だったのがあなたではありませんか。あなたはかつて神だったころに持っていたものを全てなくしてしまったのですか?」


 シュガールは目を閉じて深々とため息をついた。


「……分かった、いいだろう。この世界から失われたと思っていた愛と真心を持つ勇者よ、その意気とメルクルディに免じて、もう一度だけこの世界にチャンスを与えよう」


 そこで言葉を一度区切ると目を開く。


「だが、それには私の試練を受けてもらおう。そしてショータの参加を禁じる。ショータが人の罪を話して認めるように説得すれば、あるいは人々は過去の罪を認めるかもしれぬ。しかしそれでは贖罪にはなりえない」


「ではどうしろと?」


 翔太がたずねるとシュガールは威厳に満ちた口調で言う。


「裁きの神シュガールの名の下に試練を与えよう。それを乗り越えればカルカッソンが存続するに値すると認め、私も神々に裁かれようではないか。それでどうだ?」


 逡巡の色を浮かべて視線をさまよわせる彼に、ユニスはそっと助言する。


「……ショータ様の気持ちを最大に汲むなら、これは受けるしかありません」


「分かった」


 彼女の言葉を聞いて彼の表情が引き締まった。


「ではこれよりはじめよう。我が試練を。カルカッソンが残るか否か、運命の闘いを」


「その前にルールをきちんと説明しなさい、シュガール。不公正は私が許しませんよ?」


「分かっているメルクルディ」


 シュガールは翔太が気づかなかったほどごくわずかな間、いまいましそうな表情になる。

 舌打ちはせずに説明を始めた。


「これから私はカルカッソンの民に先祖の罪を見せよう。七割以上の者が先祖の罪を認め、滅びた種族に一言を詫びればクリアとする」


 思ったよりは理不尽な中身ではないと翔太は思う。

 むろんカルカッソンの人々がそう簡単に認めるかどうかあまり自信はないのだが。


「救うに値する者どもであれば、むやみに他種族を滅ぼすことに心を痛めるはずだ。そうではないか?」


 翔太は答えられない。

 何かを言うべきかもしれないが、カルカッソンの民を信じていないことになってしまうのではないかという懸念が強かったのだ。


「いいでしょう。私とショータはそなたのそばで運命の結果を見守ります。ショータもそれでよいですか?」


 ユニスの顔に女神の言葉。

 異なる二者の様に惹かれ反射的にうなずく。

 今は最善の結果を信じて祈るばかりだ。


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