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5話「デーモン壊滅」

 十二将たちは名乗ることもなく攻撃をしてくる。

 女性のような顔形をしたデーモンが水色の泡ブレスを吐き、赤胴の獅子顔が火を吐く。

 水も漏らさぬ連続攻撃にさすがの翔太も防御に徹しなければならなかった。

 決死の攻撃とはかくも激しいものか。

 翔太は冷や汗をかきながらそう思う。

 ディバインシールドの白い聖なるバリアがなければ、何十回死んでいるか分からない。

 そう感じるほど敵の攻勢は激しく間断なく、鬼気迫るものがあった。


(敵もそれだけ必死なんだな)


 勝たねば魔王の手によって消されてしまうという運命に同情の余地はあるのかもしれない。

 だが、勇者自身にはそのような余裕は微塵もなかった。


「どうした、勇者。守ってばかりか? この腰抜けめ!」


 遠くからレオナールの嘲弄が聞こえてくる。

 よく聞いてみればその声には焦りが混ざっていた。

 十二将の波状攻撃で勇者を倒す算段だったのが狂ったせいだろうか。


(魔王の力によって生み出されるデーモンを救うということがどういうことなのか、よく分からないが負けられないっ!)


 世界を救うために、魔王さえも救うために。

 そう想うと体の奥底から力がわきあがってきて、ディバインブレードの柄をぎゅっと握りしめる。


(ディバインシールド、ディバインハート、ディバインブレードよ、俺に力を)


 彼の心の声に応えるかのように三種の神器が白く輝きはじめた。


「いかん! 逃げろ!」


 切羽詰まったレオナールの叫びが響いたが、十二将がそれに従うよりも早く翔太の反撃が放たれる。

 展開されている光のシールドをすりぬけた巨大な光の激流が十二将たちを飲み込む。

 勇者自身ですら目をそらしたほどの輝きは相応の威力をともなっていた。

 十二将六名は一撃で倒されたのである。


「おのれ……まさか神器の力を同時に発動できようとは」


 レオナールはうめく。

 茫然自失になりそうな己を必死で叱咤しているような声だった。


「三巨頭を倒し、七本槍六体を倒した俺の力を認めようとしなかったのがお前の敗因だな」


 翔太はあえて言葉を突きつける。

 戦意喪失してくれた方がやりやすいと考えたからだ。


「何が……何が俺の力だ。神の手先となり、神に尻尾をふるだけのイヌめが!」


 ところがレオナールは心が折れるどころか憤激する。

 

「異世界人の貴様には分かるまい。神に力を与えられ、者どもに持てはやされるだけのサルが! 貴様が一体自分の力で何をした? 全て誰かのおこぼれであろうが!」


 デーモンの言葉は見えない毒針となって勇者の心を貫き、侵食するはずであった。


「その通りだ。俺はまだ何かをなしたわけじゃない」


 レオナールにとって計算違いだったのは、翔太がはっきりとそれを認めたことである。


「俺が何かをなすのはこれからだ。それへの第一歩がお前たちを倒すことだ。覚悟してもらおう」


「くっ……」


 勇者の声からはゆるぎない意思が伝わってきてデーモンはたじろぐ。

 この男は神器を使いこなすだけではなく、己の弱さや至らなさを認めて受け入れる心の強さまで持っている。


(こ、こんな奴、私にどうしろと言うのだ……三巨頭か魔王様の管轄ではないか)


 レオナールには打つ手を見つけられず、じりじりと後ずさりしてしまう。


「本心から降伏するなら、命までとるつもりはないと言いたいんだが。残念ながら全てのデーモンを倒さなければいけないらしいのでな」


 翔太は本当に申し訳なさそうに話しかける。


「き、貴様……どこまで知っている? 誰がしゃべった?」


 レオナールは激しく動揺して声を上ずらせてしまった。

 いっそのこと命乞いしようかと考えていたのに退路を塞がれた気分だったのである。


「サラヴァンがな」


 彼は何となくパスカルの名を出すのは避けた。

 三巨頭の名前を出した方がよりショックを与えられるのではないかと感じたのもある。


「くうう……」


 レオナールは忙しく眼球と口を動かす。

 悔しいのかそれとも嘆きたいのか。

 あるいは両方だろうか。


「み、認めぬぞ。私は認めぬ。貴様のような異邦人に、何も知らぬイヌ風情に変えられるものがあるはずない!」


「知らないからこそ変えられる場合もある。俺はそれを信じて進むまでだ」


 あくまでも翔太を否定しようとするレオナールの胸をディバインブレードが貫く。

 

「くそ……見ててやるぞ……シュガール様の中から……お前が泣き叫ぶのを……」


 恨みがたっぷりこもった捨て台詞を残して七本槍最後の一人は散る。

 ただの負け惜しみとも思えない。

 魔王の実力は果たしてどれほどのものであろうか。

 ここまで順調にきた翔太も楽観する気にはなれなかった。

 軽い疲労を感じた為、しばらく腰を下ろして休むことにする。

 本来は危険地帯のようだが、これまで何もなかったのだから神器の加護を信じようという判断だった。

 持ってきていた水を飲みつつ、周囲を見回す。

 青とも紫ともつかぬ不気味な色が多数を占め、墓場よりもおどろおどろしい雰囲気で満ちている。


(けど、いよいよだ)

 

 レオナールが倒れた今、百六のデーモンを撃破した計算になるはずであった。

 残っているのは復活していないという三巨頭の二体のみである。

 サラヴァンとパスカルの言葉を信じるのであれば、先に三巨頭を何とかしないといけないのだろう。

 しかしながら、復活するまで待つ気にはなれない。

 第一、デーモンをほぼ全て倒されてしまった魔王がおとなしくしているとはかぎらないではないか。

 それを考慮すればここは進むしかなかった。

 

(守護三神の加護を信じるか……)


 この世界の民が救うに値するか確かめろと言ったディマンシュ神も、いまだ見ぬ残り二神もどうやら彼の行動に反対するつもりはないらしい。

 でなければ何らかのアプローチによって、彼の止めようとするはずだ。

 翔太は立ち上がり尻の部分を軽くはたく。

 それからまっすぐに歩き出す。

 レオナールがいた先にあった黒い扉を両手で開けた。

 彼の眼前には細く曲がりくねった下へと続く道が現れる。


(まだ最下層じゃないんだよな)


 シュガールとはまだ遭遇していないのだから当然だが、彼は自分に言い聞かせる形で確認したかったのだ。

 もう一度気合を入れなおすという狙いもある。

 無意識で魔王を警戒している証と言えるが、本人は気づいていなかった。

 魔王シュガール。

 この戦いの元凶であり、デーモンたちを作り出したという首魁。

 サラヴァンやパスカルの発言を信じるならば、この魔王は何らかの被害者でありカルカッソンの民こそが加害者だという。


(それが事実だとしても、今を生きている人たちは無罪だよな)


 先祖の罪を子孫にかぶせるのはよくないと翔太は思っている。

 もちろんそのようなのは綺麗ごとにすぎないのだろうし、魔王は納得できないに違いない。

 

(いや、納得できないのは人間もか?)


 魔王は倒すべき存在として認知され、誰も疑っていないのが現状であろう。

 それを変えるの彼の役目と言えるのではないだろうか。

 魔王だけが一方的に譲歩しろというのは正しくない気がする。

 ディマンシュ神もだからあのような発言をしたのではないか。

 細い道をゆっくりと歩きながらそう思っていた。

 やがて目の前に青白い光をうっすらと放つ扉が目の前に立ちはだかる。

 明らかに雰囲気がこれまでとは違う。

 この先に魔王がいるかもしれない。

 翔太はごくりと生唾を飲み込んでから扉に手を伸ばした。

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