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4話「天間星ケツアルコアトル」

 クラーケンのパスカルとの戦いは一瞬で終わる。

 以前の戦いで封印されずに生き残っていた十二将とは言え、このデーモンの実力はそこまでではなかったようだ。

 神剣で胸を一突きですんだのである。


「見事だ……勇者よ。真実を求める者よ。いまだ残りの三巨頭は復活しておらぬ。貴様の道は剣山そのものかもしれぬ。心して……進め」


「ああ。お前やサラヴァンの想い、決して無駄にはしないと誓わせてもらおう」


 光の粒子のようになって散ったデーモンに翔太は決意を固めた顔で告げた。

 彼らを倒すということはそういうことなのだろう。

 彼はそう思いつつ歩を進める。

 彼の進撃は順調で出てくるデーモンたちを次々に倒していく。

 だが、それが勇者に違和感を与えた。


(まるで戦力の逐次投入だな)


 愚策とされることをしてきているのは、デーモンが戦術が知らないからだとは言いがたい。

 七本槍を使った奇襲、そしてそれによる彼の反撃を見抜いていたという者がいるのだから。


(何を企んでいる? ……時間稼ぎか?)


 彼が戦ったのは全て下級デーモンだ。

 七本槍は壊滅状態で三巨頭の残り二体の復活していないと言っても、まだ十二将クラスが残っているはずである。

 彼らが出てこないのは何か理由があるのか。

 広場で立ち止まりしばし考え込む。


(思えばパスカルの言葉も変だな。三巨頭が復活していないのと、俺が行く道がけわしいと言ったのに何か関係があるのか?)


 全てのデーモンを撃破するのが条件なのだから、三巨頭を復活させて倒さなければならないということだろうか。

 もしそうだとすればたしかに面倒だ。

 サラヴァンはデーモンが見つけただけで残りはどこに封印されているのか手がかりがまるでない。

 だからと言ってデーモンたちが復活させるのを待つという道を選ぶ気にはなれなかった。

 それをやるとどれだけ被害が出てしまうのかさっぱり見当もつかない。

 

(魔王を一気に倒すのが理想……だが向こうもそれを承知だろう)


 できれば七本槍の最後の一体を倒しておきたいところだ。

 しかし、魔王に代わってデーモンの指揮をとっているのであれば出てこない可能性が高い。

 そうなってくると逃げるための時間稼ぎではないかという疑惑が浮かんでくる。

 

(最悪なのは……留守中に攻め込まれることだな)


 考えなかったわけではない。

 だが、勇者がいないところを攻めてデーモンはどうするというのか。

 ルーランが攻められたのはサラヴァンの封印を解くという目的があったはずだ。

 カルカッソンの民に目にものを見せたいという復讐心は否定できないのが厄介には違いないし、決めつけない方がよい。

 ただ、パスカルが何も言わなかったことから心配する必要はなさそうである。

 あのデーモンは信じられた。

 実のところ心に影を落とす不安を拭おうとしているのだが、本人は自覚していない。

 四十のデーモンを倒したその先の広場では、あるデーモンが待っていた。


「おのれ……勇者め」


 その男型デーモンはレオナールである。


「死へいざなう香気も腐敗の岩土も全く通用しないとは……三種の神器を完璧に使いこなしているのか」


 その目は憎悪に燃えていて、突き刺すと言うよりは叩きつけるという表現の方がふさわしいほど荒々しかった。

 そのデーモンの言葉を聞いた翔太は初めて己が非常に危険な場所に来ていることを悟る。


(神器を扱う練習を真面目にやって正解だったということか)


 ホッとしているとデーモンは金切り声で名乗りをあげた。


「我こそは天間星ケツアルコアトルのレオナール、七本槍の筆頭なり! 勇者め、名乗れ!」


「七本槍の筆頭だと……」


 翔太は軽く目をみはる。

 できれば見つけて倒したいと思っていた目標が、まさか自分から出てくるとは思わなかったのだ。

 彼はもちろん「七本槍筆頭」が自称だとは知らない。


「俺はショウタだ」


「ショータか。貴様のせいで私の野望は終わりだ……七本槍の筆頭になり、さらに四巨頭に昇格するつもりだったのに!」


「いきなり怒鳴りつけられてもさっぱり分からんぞ」


 本来彼は人の話を途中でさえぎるような男ではなかったが、いきなり怒鳴られ恨み言をぶつけられては平常心でいられなかった。

 レオナールは舌打ちして説明する。


「私はシュガール様の信用を失った。貴様を倒さなければシュガール様の糧にされてしまう」


「魔王の糧?」


「そんなことも知らないのかっ!」


 レオナールは激高した。

 あくまでも異世界人であり勇者にすぎない翔太が知っている方がおかしいのだが、それに気づけないほど怒り狂っている。


「我々は死ぬとシュガール様の元に還る……改めて生み出されるかはシュガール様のお気持ち次第! 記憶や性格は消されてしまう可能性がとても高い! 貴様に分かるか、私の気持ちがっ!」


 デーモンを倒すと肉体が粒子のようになり散る現象が発生する理由が今ようやく分かった。

 

「あれ、それだとデーモンがカルカッソンの人を憎むということはつまり、シュガールが恨んでいることなのか?」


「私の話を聞けえええええええええええ」


 レオナールは絶叫して翔太の思考をさえぎる。


「そうだ、シュガール様の怒り、憎しみ、悲しみ、絶望こそが根源! 全てのはじまり! だが、私は恨んでなどいない。おかげで私が生まれ落ちることができたのだからな! しかし、勇者ショータよ、貴様だけは別だ!」


 デーモンは血走った眼で彼をにらみ、鋭くとがった爪を突き付けた。


「貴様さえいなければ我が野望は完成していたのだ! 貴様は私に死んで詫びなければならない! 貴様はここで朽ち果てるべきだ、我が野望のためにな!」


「逆恨みの気がするが」


 翔太はたまらずぼそりとつぶやく。


「黙れ! そして死ね! 七本槍の力! 見せてやる!」


 レオナールの体から殺気が漏れ出したため、自然と彼は剣を抜いてかまえる。

 そこへ彼の後頭部を目がけて大きな岩が飛んできた。

 展開されたディバインシールドのおかげで事なきを得たが、完全な不意打ちである。


「ち、意外と抜け目ないやつ……」


 そう言って翔太の背後からデーモンたちが六体姿を現す。


「誰が一対一だと言ったかな? お前たちも勇者を倒さなければシュガール様に皆殺しにされるぞ! 死ぬ気でかかれ!」


 レオナールはそう叫ぶと同時に後方へ跳躍する。

 仲間をけしかけておきながら自分では戦わないつもりようだ。

 それでも他のデーモンたちをレオナールを卑怯だとなじることなく、決死の形相で翔太に戦いを挑む。

 その必死さから彼らにあとがないのは事実なのだろう。

  

(ここが正念場だ)


 翔太も気合を入れなおして応戦する。

 そうするのはレオナールの思惑通りなのだと承知していたが、ここまで必死な者たちは無視するのは怖すぎた。

 必死の想いで彼らを倒してひと息つくとそこに新手が現れる。


「そいつらは十二将たちだ! 先ほどの雑魚どものようにはいかぬぞ!」


 天間星のデーモンの嘲弄交じりの叫びが響く。

 たしかに先に倒した者たちとは気迫や殺気が大きく違うし、速さもパワーも違う。

 一対一ならば恐れるに足りない相手だが、数が多く肉を切らせて骨を断つと言わんばかりの攻勢は手を焼く。


 


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