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21話「ディバインシールド」

 ただ周囲を癒すだけばかりではなく、悪しき者の存在を知ることもできるという神器ディバインハート。

 それをサラヴァンのように首飾りとしてはめた翔太は、力を引き出せないものかと思っていた。

 

(それさえできればディバインソードと組み合わせて、各地のことが分かるだろうな)


 いちいち各地を回る手間が省けるし、デーモンの気配を見つけ次第、そちらへ急行できる。

 剣と効果を組み合わせると言うよりも、実のところ敵の探知はディバインハートの役目なのかもしれない。

 そう考えれば、剣の探知が阻害されてしまっていたのも納得はできるのだ。


「勇者様、どこから向かわれますか?」


 問いかけてきたランディの声で、意識が引き戻される。


「なるべく遠くからお願いしたい」


 彼はそう答えながら知覚の網を広げた。

 今の彼が探知できる範囲は二百ヘクタールほどにまでになってはいるが、それでもルーラン全体には遥かに及ばない。


(ええっと、百ヘクタールが一平方キロメートルでいいんだっけ?)


 ルーランは小国と言えども、十万平方キロメートルくらいはあるという。

 そうすると単純計算で五万回くらいは探知をしなければなるが、それでルーラン人の安否が確認できるのならば安いものだ。

 馬車が動き出してからディバインハートの方を確認してみると、ランディのいる付近では白い点、それ以外に時折ある反応も白い点ばかりという結果になる。


(これは俺に敵意のない人の反応なんだろうか?)


 ディバインブレードを使ってみてもデーモンの気配がない為、おそらくはそうなのだろうと思う。

 彼に対して敵意があるかどうか知らせてくれるのであれば、かなりありがたいと感じる。

 ディバインハートの力なしでも国境砦の時のように、剣の探知方法をかいくぐる手段がないわけではないからだ。

 ランディという騎士が操る馬車に乗った翔太は、ルーラン国内を一とおり見回っていく。

 アルプコートや国境砦といった、かつて一度は通過したところもだ。

 その結果、ルーラン国内にデーモンが残っていないことが判明する。


「おお。それでは我が国を襲ったデーモンは全て、撃退されたということですか」


 馬車を止めて翔太にそう教えられたランディは、喜びで顔じゅうを輝かせた。


「たぶんそうでしょうね。三巨頭を復活させるのに十二将クラスが来ていなかったらしいのが、少し不思議なのですが」


 彼としては首をかしげざるを得なかったが、三巨頭を復活させたところで引き上げたのだと言われては反論が思いつかない。

 サラヴァンはラドゥーンなどよりも遥かに強かったのはたしかだ。

 十二将など足手まといだからいらない、と上位者に言われてしまえば帰るしかないだろう。


「いずれにせよ、勇者様のおかげでこの国は救われたのです! 勇者様こそ真の伝説です!」


 ルーランの騎士は自分のことのように喜んでいる。

 それに水をさすのも野暮な気がした為、翔太は黙って彼の賞賛を聞いていた。

 しかし、あまりにもそれが続くとさすがに辟易してくる。


「ひとまず王都ルーランへ戻りましょう」


「御意!」


 彼がそう提案すると騎士は喜んで賛成してくれたので、内心ほっとした。

 王都から遠い場所を優先的に回っていた為、当然現在地は王都から最も近い場所である。

 神器の加速を使えばあっという間であった。

 馬車が戻ってきたのに気づいた一人の騎士が、建物の方へと走っていく。

 それを見ていた翔太は馬車の速度を落とし、ランディに止まるように指示をする。

 城の壁の近くに降りた彼は「ようやく戻ってこれた」と思う。

 神器の力を使っていた為にそこまで実際の時間は経過していないはずだから、本人にも不思議であった。

 そのことについて深く考えるよりも早く、ジェフロワ王自らユニスと共に迎えてくれる。


「勇者様、いかがでございましたか?」


「他の地域で変わったことはありませんでした。デーモンは全て撃破できたと言えるでしょう」


 翔太は「自分とは交戦せずに引き上げたデーモンがいるかもしれない」と、あえて言わなかった。

 今すぐに言わなくてもよい情報だと考えたからである。


「おおお! 本当にありがとうございました」


 王は大いに喜び、改めて彼に礼を述べた。

 それを受け取った彼は今後について相談してみる。


「そうですね。できれば今晩くらいは泊まっていただければと思うのですが、いかがでございましょう?」


 ルーラン王の提案に翔太はうなずく。

 これから今すぐクローシュに戻らなければならない理由はないし、できれば彼もそろそろ休みたい気分だった。

 それに誘われたのに拒否して、そそくさと立ち去ってしまうというのは、王に恥をかかせたことになるかもしれない。

 そう危惧したというのもある。


「ありがとうございます。国が救われた喜びを共に味わい、真の勇者様と出会えた感謝を捧げたいと思っておりました」


 ジェフロワはそう言って満面の笑みを浮かべた。

 この国が救われたという点については、もちろん翔太もめでたいと思う。

 デーモンが発見されただけではなく、勇者に対して敵意を持っていそうなルーラン人は一人もいなかったことも地味に嬉しい。

 これは王には言いにくいことではあったが。


「担当の者にご案内させましょう。希望のお部屋はございますか?」


「できればジョンやユニスの近くがいいですね。そういうことはできるのですか?」


 翔太は思い切って訊いてみる。

 同性であるジョンは同室になることができても、ユニスは異性でそれも王女だ。

 断られてしまうかもしれないと思っていたのだが、ジェフロワはあっさりと認める。


「その方がよいかもしれませんな。ただ、ジョン殿と同室になってしまう可能性がございます。なにぶん、家屋を失った民が少なからずいるもので」


 王都に住んでいた民もまたサラヴァンに贄にされていただけだった為、命は助かった。

 つまり住みかを失った難民が大量に生まれてしまったのである。


「雨露をしのぐ為に無事な建物を解放しております。それ故、皆様にはご不便をおかけするやもしれませぬ」


「それは仕方ないことでしょう」


 難民を王城に収容するから我慢しろと言われていると気づいた翔太は、自分たちが我慢するのは当たり前だと言いユニスも同調した。


「ではそのようにいたしましょう。真に民を想う仁徳の勇者ショータ様とユニス王女に、民に変わって礼を申し上げます」


 ジェフロワは重荷を下ろせた人夫のような顔をしている。

 

「明日になれば復旧工事がはじまります。民にはしばらく不自由をさせてしまいますが、命が助かっただけでも幸いですからな」


 そう話す王の瞳はとても優しく、民思いの君主だと手に取るように分かった。


(復旧工事か……木や石で建てるのかな)


 そこまで考えた翔太はふとひらめく。

 ディバインシールドは豊穣の女神ヴァンドゥルディの神器であり、大地の力を宿す。

 彼が土の中に移動して窮地をまぬがれたように。


(さすがに家を建てるのは無理だろうけど、せめて材料を用意することはできないかな)


 そこまでいくとどうしても試してみたくなってしまった。

 ルーランの人々は命が残っただけでも喜ばしいと、納得しているのは分かる。

 だが、彼はそれだけでは納得できなかったのだ。

 

「すみません、少しだけ試してみたいことがあるのですが」


「何でしょう?」


 ジェフロワ王は怪訝そうに首をかしげたが、彼のアイデアを聞くと破顔して賛成してくれる。


「なるほど。それは盲点でした。ダメで元々、勇者様さえよろしければ、お願いしてみてもよいでしょうか」

 

 王の許可をとったことで彼は実行に移す。

 

「ディバインシールドよ、我に力を貸し与えよ……」


 正式な詠唱を知っているわけではない。

 ただ、脳内にイメージを描き、それを言葉に変えるのだ。

 彼がイメージしたのは岩や石、木材など家屋の建てるのに使えそうなものが集まる姿である。

 できれば王都に住む人々が必要とするだけ、あわよくば外壁を修復するのに使える量を。

 彼の願いが通じたのか、白い盾から光がほとばしってルーランの大地へと飛んでいく。

 そのあまりのまぶしさに翔太とユニス以外の面子は、目を閉ざしたり手でかばったりする。

 光が消えさると、彼らの目の前には建材として使えそうな石と木材が多数鎮座していた。


「おお……奇跡だ」


「ヴァンドゥルディ様のお恵みじゃ」


「勇者様の奇跡だ」


 ルーランの人々からは大きなどよめきが起こる。

 翔太としてもまさかここまで上手くいくとは思っていなかった為、喜びよりも驚きの方が大きかった。


「勇者様」


 ジェフロワに声をかけられて振り向いた彼は、ルーランの人々が彼に向かって跪いていたことを知る。

 唖然として硬直してしまった彼をよそに、王さえもが民に倣って両膝をつく。


「真の勇者様に心から感謝を捧げます」


「あ、いや……」


 一国の統治者にまで跪かれてしまった場合、どうすればよいのか彼には分からない。

 とっさに助けを求めてユニスを見たが、彼女は微笑むばかりであった。

 次にジョンを見てみると、彼の顔には「さすが勇者様」と書いてあったので助け舟は期待できそうにない。


「あの、ジェフロワ陛下、お顔をあげてください」


 仕方なしに呼びかけてみたが、国王を含むルーラン人たちはしばらく微動だにしなかった。

 感謝を捧げられるとはこういうことなのだろうと理解はしたものの、これだけの人数が自分に両手と両膝をついて額を地面にこすりつけていると落ち着かない気分になる。

 ある意味、彼は大物になる資格がないのかもしれない。

 再び彼がユニスを視線に送ってみると、ようやく彼女はジェフロワに話しかけた。


「ジェフロワ陛下、いつまでもそうしているわけにはいかないでしょう。貴国にとって今は一分一秒が金貨千枚に匹敵するかと存じますが、いかがでしょう?」


「それはそうですな」


 王都を再建しなければならないし、国境砦が攻め落とされた手当てもしなければならない。

 彼らはいつまでも勇者に感謝の気持ちを捧げてはいられない立場であった。

 ジェフロワはようやく立ち上がると、他の人々も彼に倣う。

 その後、王はてきぱきと指示を出していく。

 ないとできなかった必要な資材が供給された為、事態が動き出したのだ。

 それらが終えた後、改めて勇者たちは王城へと招かれる。


「お待たせいたしました」


 そう詫びられたが、翔太は「気にしないでほしい」と伝えるにとどめた。

 自分たちをもてなすよりも街の再建を急ぐのは当然のことである。

 彼はそう思うのだが、他の人々は「理解のある勇者」に改めて感謝したのであった。

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