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閑話

 人が魔界と呼ぶ世界。

 そこには凶報が届いていた。


「地猛星ラドゥーンのアブラハム様、戦死!」


「何……だと……」


「十二将が!?」


 伝令係の雑兵が叫ぶように告げると、その場は騒然となる。

 地賊星バーバリアンと地狗星ブラックドッグが倒されたと聞いても起こらなかったくらいだから、彼らがいかにショックを受けたのかを物語っていた。


「十二将が負けるなんて……」


「そんな馬鹿な」


 無数の影が悲鳴に近い声を出す。

 彼らは皆、十二将に入れない下級存在である。

 十二将が勝てない相手に勝てるはずがない、と絶望しかけていた。


「十二将を倒せるほどの者が、憎きカルカッソンにいるというのか?」

 

 その中で影の一つの声が大きくとどろく。

 その声は憎悪と憤怒で彩られていて、味方ですら思わず震えるほどであった。


「れ、レオナール様……」


 一つの影がなだめるように声をかける。

 それを聞いて冷静になったか、レオナールと呼ばれた者は咳払いをした。


「我ら七本槍も未だ全員は復活できず、三巨頭の方々と魔王様にいたってはまだ神の呪いに阻まれているありさま……現状を打破する為にもカルカッソンに攻勢をかけていかなければならん」


 周囲に言い聞かせるように言うと、レオナールは赤い目をある男に向ける。


「アシルよ、貴様はルーランへ行け。攻め落とせ。エリックはクローシュに行き、誰がアブラハムを倒したのか調べろ。可能であれば排除せよ」


「ご命令、承りました」


 二つの影がレオナールに平伏した。

 うちエリックと呼ばれた者が顔をあげて、上位者に質問する。


「何名か手勢を連れて行ってもよろしいでしょうか?」


「それはかまわぬ。アシル、エリック、吉報を魔王様まで届けられるように励め」


 レオナールは鷹揚に許可を出す。


「ははっ。世界を真実の光で照らす為!」


 アシルとエリックがそう叫ぶとレオナールも応える。


「ああ、世界を真実の光で照らす為にだ」


 彼らが去るとレオナールはつぶやいた。


「本当にアブラハムを倒せる者がいるならば、奴らでは時間稼ぎしかできぬだろう。だが、それでよいだろう……」


 これは他の誰にも聞こえることなく消える。

 無論、意図してのことだ。

 自分たちが捨て駒扱いされることを知った下級デーモンたちは、さぞ動揺するに違いない。

 それだけであればまだよいは、レオナールに対して不信感を募らせて命令を遵守しようとはしなくなるかもしれなかった。

 三巨頭より上が復活できていない以上、復活済みのデーモンたちを指揮するのは七本槍の役目である。

 部下たちの手綱をきちんと握っておかなければならなかった。

 彼は自室に戻ると同時に平伏する。


「シュガール様、臣レオナールが参上しました」


 彼の目の前には三十歳前後に見える、二本の角をはやした男が座っていた。


「……地猛星、地賊星、地狗星が落ちたか」


「御意」


 シュガールは目を閉じたまま、部下たちの死を言い当てる。

 レオナールには信じがたいことだが、魔王は百八のデーモンの現状を全て把握できるらしい。

 

「まあよいわ。朕の力が戻れば、奴らなどいくらでも復活させてやる」


 それこそが魔王の力の一端だという。

 つまりデーモンはシュガールが健在なかぎり、不滅の存在なのだ。

 そこでシュガールは閉じていた目を開き、レオナールを直視する。


「それよりも残存国家への攻撃。三巨頭どもにかけられている、神の楔外しを急げ」


「御意。先ほど、十二将を二名ほど派遣しました。奴らが時間を稼いでいる間に、このレオナールめが実行する所存にございます」


 レオナールはシュガールの反応をうかがいながら、そう発言した。


「ふん。よかろう。神の楔さえ揺らげば、朕の力で復活させられる。そうすれば我が力が戻り、百八の星も全て朕の下に集うであろう。その時が奴らの最期だ」


「御意」


 魔王の発言は彼にとってはとても心強い。

 喜んで今一度頭を床にこすりつける。


「行けレオナール、貴様の役目を果たせ」


「ははーっ。それでは行ってまいります」


 魔王から直々の命令が下されたと彼は大いに奮い立つ。

 ……実のところ、魔王シュガールはすでに復活している。

 レオナールにはよく分からないが、力はまだ戻っておらず、まだ封印されたまま三巨頭と残りの七本槍を解放することができないらしい。

 そこで彼は一計案じ、魔王を自室に案内してその復活を味方にも隠したのだ。

 彼にとって魔王や三巨頭は不可侵の存在であり、逆らったり裏切ったりすることなど想像したこともない。

 だが、他のデーモンたちは違う。

 七本槍は上位者からの寵を競いあう相手でもあるし、十二将以下は己の為に使う道具にすぎなかった。


(このままいけば、俺が一番手柄は間違いない。七本槍筆頭くらいにはして頂けるだろう)


 そう想像するだけで頬が緩んでしまう。

 これまでは七本槍同士は全くの対等だったが、今後は彼が命令を下すのだ。

 その野望を達成する為にも、よりいっそう励まなければならない。

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