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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅴ・宝と命と恋心

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⑮海へ

 あたしが意識を取り戻したのは、多分それからすぐ後。

 ペチペチ、とうっとうしく頬を叩くザラついた手と、あたしを呼ぶ声――。


「ミリザ、起きろ。ミリザ」


 ディオンだ。そう認識した時、あたしは小さく呻き声を上げていた。ほっとしたようなため息がすぐそばで漏れた。

 ここは外だ。洞窟の中の薄暗さとは違う。

 うっすらとまぶたを開くと、あたしを覗き込むディオンの顔があった。でも、ここは日陰みたい。表情までは見えない。

 あたし、罠にかかってどこかに落とされたんだった。なんでディオンがここにいるのかな?


「ディオン……?」


 試しに呼んでみた。


「ああ。頭は打ってないか?」


 どこか声の響きが優しい。ディオンが体をずらしたから、あたしもそっと上半身を起こした。手を頭に当ててみるけど、どこも痛くない。


「うん、背中をちょっと打ったけど、なんとか大丈夫みたい」


 あたしがそう答えると、ディオンは珍しく素直ににこりと笑った。


「そうか」


 いっつもそうやって笑ってたらいいのに、なんてこんな状況で思った。


「ディオンはどうやってここに? ヴェガスは上にいるの? 宝物は?」


 矢継ぎ早に訊ねたあたしに、ディオンはひとつ嘆息する。


「ヴェガスにはロープを使って固定した石像を一人で押えてもらって、オレがその隙に下へ降りて来た。ヴェガスにはそこから脱出して船に戻るように言ってある。ヴェガスの能力なら心配要らない。宝は可能なら回収しておいてほしいと頼んだが、まあ無理ならそれでいい」


 こうなると、宝を取りに戻るのも大変だもん。残念だけど、仕方ないのかな……。


「……まあ、ヴェガスよりも問題なのはオレたちの方だな」


 そのひと言に、あたしはドキリとした。


「え?」


 驚いた顔をしたあたしの腕を急にディオンがつかんだ。そうして軽くねじるようにして裏を返した。


「擦りむいてるな」


 ああ、そういえば落下する時に擦ったっけ。でも、大したことない程度。

 ちょっと砂塗れで血が固まってるけど。

 ディオンはリュックを持って降りて来たみたいで、そこから水筒とタオルを取り出すと、少し湿らせたタオルであたしの傷口を拭いてくれた。血は止まってるから汚れを落とすくらいだけど。

 あたしが手を動かすディオンをじーっと見てると、ディオンは何か険しい顔をした。


「なんだ?」

「ううん、優しいなーって思っただけ」


 正直に言うと、ディオンは更に嫌そうな顔をした。


「お前が落ちたのはオレのせいでもあるからな。悪かったとは思ってる」


 ああ、そういうこと?

 あたしは笑ってしまった。


「そうなの? お前が勝手について来たからだって言われたらそれまでなんだけどね」

「それもそうだな」


 ぐ。

 思わず言葉に詰まったあたしに、ディオンはクスクスと笑う。そんな様子にあたしは少しだけ不安が取り除かれるみたいだった。

 ここから無事にみんなのところに戻れるのか、そう考えたら怖くもあるんだけど、ディオンがいてくれたら何とかなるんじゃないかなって自然と思える。


「歩けるか?」


 ディオンに問われてあたしは立ち上がってみた。ところどころはやっぱりぶつけてて痛いんだけど、歩けないほどじゃない。うん、あたし丈夫でよかった!


「うん、大丈夫!」


 ぐるぐると手足首を回すあたしに、ディオンは安堵したみたい。ディオンも立ち上がると、そこから遠くを見渡した。正面にはまた砂の大地が広がっている。ただ、大部分があの岩場でできた陰になってて、差すような日差しからは守られてる。来た道よりはずっと楽そう。

 それから、向こう側には海が見える。うん、突き抜ければこの島から出られるんだ。


 あたしたちが滑り落ちて来た洞窟の穴は後ろにあるけど、もう登ることはできないと思う。あの通路は真下には繋がってなかった。通路はカーブしてた。もしかすると、来た道の裏側に出たのかな。

 これじゃあヴェガスとの合流もやっぱり難しい。でも、海が見えるならとりあえずそっちの方に進めばいいんだ。逆に言うと、そっちしか進める方角がない。


「ディオン、海が見えるね」


 あたしがウキウキとそう言って見上げると、ディオンはそう楽観的なことは言わなかった。相変わらず難しい顔をして辺りを見回している。


「この場所を突っ切れば海岸につける。けどな、ここには――」


 そうつぶやいて言葉を切った。

 何? ここには何があるの?


「ディオン?」


 ディオンは突然リュックの中から水筒を取り出し、あたしの首にかけた。水の残量はそう多くない。それから、タオルをあたしの腕に巻きつける。そうして、残りの荷物――空になった水筒やタオルケット、ロープ、それらの荷物を捨てた。食料はもうどの道ない。ヴェガスの荷物には少しだけ残ってたけど。


「荷物は減らして行く。来い」


 そう言って、ディオンはあたしの腕を引いて歩き出した。それはまるで覚悟を決めたような、そんな様子だった。そうして、数歩進んで砂の上に足を踏み入れた瞬間にディオンは行動に出た。


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