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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅴ・宝と命と恋心

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⑥反応

 すっごく気まずい。逃げ出したい。

 あたしは強張った顔で立ち尽くしてた。

 ディオンはひとつ嘆息するとぼそりと言う。


「俺に訊くな」


 そ、そりゃあそうだ。


「だよね」


 なんてゼノンも笑ってる。

 あたしはどうしたらいいわけ?

 真剣に困惑してると、ディオンが振り返りざまに言った。


「少しだけ時間が空いた。エピストレ語を教えるから来い」


 平然と、いつもと変わらない口調で言う。あたしはすかさずその言葉に従った。


「う、うん」


 駆け出すと、ゼノンの声が背中にかかった。


「ミリザ」


 無視するわけにもいかなくて足を止めて振り返ると、ゼノンは苦笑した。


「ごめんな。すぐに返事がほしいとかそういうことは言わないけど、俺も本気だから頭の隅には置いておいて」


 ほんとはちゃんと返事をした方がいいんだと思う。でも、あたしを困らせないようにそう言ってくれたんだ。……優しいのは知ってる。


「うん……」


 そうしてあたしはディオンの後に続いた。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、今勉強しても何ひとつ覚えられない気がして仕方なかった。



 案の定、上の空。

 ディオンはちゃんと教えてくれてるのに全然頭に入らない。申し訳ないと思うんだけど、気持ちの整理がまったくつかなかった。


「――だから、ここはπάρα πολύ(※)だって言ってるだろ」※とても


 机を挟んだ正面から呆れ声とため息が聞こえて、あたしはとっさに謝った。


「ごめんなさい……」


 しょんぼりとしたあたしの様子にディオンは更にため息を重ねた。


「今日はもういい」


 やっぱり、呆れてるんだ。うんざりしてる。


「ごめん」


 あたしがもう一度謝ると、ディオンは丸めた冊子で軽くあたしの頭を小突いた。


「何回も謝るな、うっとうしい」


 う、うっとうし――ぃ……。

 あたしの悩みなんてディオンには関わりがない。ゼノンやエセルが絡んでてもそれは同じ。

 ディオンだけは少し離れた位置にいるようなそんな感覚。


 でも、逆に言うなら、ディオンのその関心のなさに今のあたしは心が安らいだ。

 小さく息をつくとうなずく。


「うん、そうだね」


 そう言ったあたしの顔をディオンはじっと見た。なんだろ。

 ……あいつら物好きだな、とか思ってるんじゃないよね?

 それからディオンはボソリと言った。


「明後日から少し海に出る。お前は残っていいぞ」

「宝探し?」


 あたしがすかさず言うと、ディオンは顔をしかめた。


「誰から聞いた?」

「エセル」

「あいつ……」


 チ、と軽く舌打ちする。

 いつもならすかさずついて行くって言うところなんだけど、今回はどうしよう?

 今、エセルやゼノンと一緒に行くのって気まずいかも知れない。離れた時間に気持ちを整理するのもありなのかな。

 多分、ディオンもそうしろって思ってるんだろうな。


 あたしはぽつりと言った。


「ね、その地図見せてよ」


 だって、宝の地図でしょ?

 どんなのか見てみたい。それくらいいいじゃない。


 ディオンは渋々ベッドの下から鍵つきの長方形の箱を引きずり出すと、ブーツの中から鍵を取り出してそれを開けた。中から出て来たのはヨレヨレの羊皮紙。すんごい年季入ってるね。

 その分厚い羊皮紙をテーブルの上に広げてくれた。


 その地図は、思っていたよりも簡単なものだった。

 航海士に描かせたのかな? 手描きのどこかの島だ。でも、精緻に書かれているよりも簡略した線はわかりやすい。大きくバツ印がついた箇所が宝物?


「これはこのパハバロスの更に南にあるククヴァヤ島だな。あれは無人島だ。とても人が住める場所じゃないからな。ほぼ無法地帯だ」


 地図に目を向けながらディオンがそんなことを言う。


「え、そんなところに行くの?」

「まあな。宝のあるなしに関わらず、一度確認しないことには納得できない」


 その気持ちはわからなくもないけど。

 大事な宝の地図をあっさりと見せてくれたのって、ディオンにしては珍しいよね。もしかして、あたしが悩んでると思って心配してくれてる? ――なーんて、まさかね。


「そういうわけで、今回は相当に危険だ。だから――」

「じゃあ行こうかな」

「お前な……」

「危険だったら尚更、サポートも必要でしょ? きっと待ってるだけはもっとつらいから」


 それでもね、大半の女の人は無事を祈りながら港で待ってるんだ。ヴェガスの奥さんのアリスも二人の子供を抱えていつも不安なんだと思う。

 船に乗ることができるあたしは多分恵まれてるよね。帰って来ない船を待つよりは、一緒に危険に身を投じた方がマシだって思える。


 あたしは誰か一人をっていうよりも、みんなが好き。あたしを受け入れてくれたみんなが大事。

 一緒に乗り越えたいって思うよ。


「だから、連れてって」


 あたしは力強くそう言った。

 

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