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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅴ・宝と命と恋心

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②秘密の地図

 このヴァイス・メーヴェ号に喧嘩を吹っかけた海賊船は、この船の船長がディオンだって知ってて襲ったみたい。

 ディオンは女王陛下のお気に入り。『女王の恋人』と呼ばれるほどの。

 だから、その海賊たちは少しばかり見栄えがするだけの優男だって、その船を襲撃することで女王の鼻をあかしてやろうと思ったらしい。

 まあ、そうして返り討ちに遭っちゃったんだけど。


 甲板の上、相手の船の方ね、そこで白兵戦になったけど、危なげない勝利だったって。

 思えば、あたしが乗り合わせた船を襲った時も手並みは鮮やかだったよね。実はみんな白兵戦が得意なんだって。


 ディオンはいつもダガーを一本持ってるだけなんだけど、たったそれだけで素早く相手の懐に飛び込むらしい。ゼノンの狙撃の腕がサポートしてくれるし、エセルはナイフ投げが上手いって自分で言ってた。

 海賊船っていっても、正直いつ掠奪される側になるのかわからない。こういうこともあるんだって思ったらうかうかしてられないよね。



「――で?」


 あたしは夕食で大量に出た洗い物をしながら隣に立つエセルに訊ねる。

 エセルはディオンの指示で舵を取る操舵手なんだけどね、今は助手に任せて休憩中。その休憩中に今日のことを話に来てくれたんだ。

 長くまっすぐな髪をサラリと揺らして、エセルは綺麗に微笑む。……その笑顔が曲者なんだって。


「うん、それでディオンは容赦なく船から戦利品を頂戴したわけなんだけど――」


 あらら、オトシマエ?

 余計なことするからだよ。


「向こうの船長はパッとしない顔を更にボコボコにされて、そりゃあ素直に色々差し出したんだよ? でも、ディオンはそれで納得しなかった」

「ひどい話ね」

「そう、ひどい話。素直に差し出すってことは、一番奪われたくないものをまだ隠し持ってるってな」


 根こそぎ奪うとかひどすぎる……。

 ほんとに、なんでディオンみたいなのに喧嘩売っちゃったんだか。


「それで僕たちは船内で宝探しだ。それで、何が見つかったと思う?」


 エセルはニコニコと楽しげに問う。

 あたしは軽く首をかしげた。


「何って……金目のものでしょ? 宝石か金貨か」

「おや? ミリザって案外ロマンがないね」

「うん、今更気づいた?」

「知ってたけど」


 ああそうですか。

 勿体ぶってたエセルはそこでようやく言った。


「船長が隠し持ってたのはね、宝の地図だよ」

「へ?」


 きょとんと目を丸くしたあたしを面白がるように、エセルは上機嫌で続けた。


「海賊のすべてがアジトを持ってるわけじゃないからね。でも、船の中に隠しておける量には限りがある。自分たちの財宝をどこかに隠して、それを回収する前に船が沈没するなんてこともあるんだ。そして、その宝の在り処を記した地図が他人の手に渡る、と」

「死んでも死にきれないでしょ、それ」

「まあ、亡霊になってさまよってるかも知れないけど、もしいたらちゃんと祓ってあげるよ」


 エセルは操舵手だけど、こんな軽いノリのくせに祓魔師としての顔も持つ。


「それじゃあ、宝探しに行くの? その地図を奪われた船長たちも慌てて探しに来るんじゃない?」

「そこはディオンが、もし向こうでかち合ったら命はないと思えとか脅したからどうかな。本人たちは来ないで情報を売って小銭稼ぐくらいかも。まあ、ライバルはいると思うけどね」


 さすがにそれを聞くとちょっとだけ好奇心が刺激された。エセルはにこりと笑う。


「でもさ、ここで行かないなんて男がすたるだろ?」

「女もすたるから、あたしも行く」


 そんなあたしの反応を見越していたみたいにエセルはヒュウ、と口笛を吹いた。


「言うと思った」

「言うと思ったならなんで教えてくれたの?」


 ディオンは絶対に留守番しろって言うはずだもん。あたしに話すと怒るんじゃない?

 でも、エセルは洗い物を続けるあたしの腰をぐい、と引き寄せた。


「ミリザの気を引きたいからだよ」


 あたしは泡だらけの手で、近づいて来たエセルの顔を押しのけた。


「はいはいはい」

「こんなに好きだって言ってるのにつれないなぁ」


 なんて、泡を拭きながらぼやいてる。

 エセル相手に油断すると、ろくなことがないのはもうすでに学んだんだから。

 あたしがエセルを放置して洗い物を続けると、今度はぴったりと体を寄せて来た。暑いし。

 それでも放っておいたら、


「僕は本気なんだけど?」


 なんて耳もとでささやかれた。ぞわ……。

 その時、厨房に救世主がやって来た。


「ミリザ?」


 涼しげな声であたしを呼ぶのはゼノンだった。やった!


「あ、ゼノン!」


 助かった。あたしはニコニコとゼノンを振り返る。

 それでもエセルはあたしから離れなかった。あたしは肘でエセルを押し戻しながらゼノンに助けを求める。


「ゼノン、エセルが洗い物の邪魔ばっかりするから連れて行って?」

「え、ひどくない、それ?」


 うるさい。

 ゼノンは何か嫌なところに来てしまったと思ったのか、少しぎこちない様子でうなずいた。


「うん……」


 ぐい、とエセルの腕をつかんであたしから引き離すと、もがくエセルを連れて去った。ゼノン、ああ見えて結構力があるから。

 ……ふぅ、洗い物片づけよ。


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