表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅳ・魔女と祓魔と幽霊船 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/191

⑰物言いたげに

 赤くなった頬を撫でつつ、エセルはニコニコと言う。


「特別って意味、わかった?」

「うるさい」

「好きってことだよ?」

「う・る・さ・い!」


 あたしが凄んでもエセルは笑ってた。

 まったくもう、ちょっと気を許すとすぐこれだ。

 あたしはドスドスと足音を立てながらヴァイス・メーヴェ号に戻った。背中からエセルのクスクス笑う声がしたけど、腹が立つから振り向かなかった。


 でも、これでエセルのことが少しだけ理解できたような気がした。

 エセルは、お父さんと好きだった女の人に絶望して、そしてああなった。女性にだらしなかったお父さんのとばっちりを受けてるみたいなものなのに、自分もやっていることは同じ。

 女の人に酷薄で、実は自虐的。それでいてどこかで救いを求めてる。

 あんなだけど、女なんてみんな同じだっていう自分の考えを否定してくれる誰かを探してる。


 ――ん? それがあたしとか言う?

 いや、今はそこまで考えるの止そう。頭が破裂しちゃうから。



 船に戻ると、甲板の上にはゼノンがいた。

 マストを背にして甲板に座り込んで小銃を磨いてる。なんとなく、ぼんやりと。

 でも、いつもなら大砲の整備と一緒にするようなことだし、甲板でじっとしていることも珍しいかな。


「どうしたの? ディオンを待ってるの?」


 あたしが声をかけると、ゼノンはハッとしたように顔を上げた。


「ミリザ……」


 あたしはそのままゼノンのそばに歩み寄ってマストを囲むように隣に座った。

 自分の気持ちを整理するようにしてあたしもつぶやく。


「ねえ、ああして見張ってたくらいだから、テルシェさんは危険な人だってゼノンも思ってたの?」


 すると、ゼノンは少し返答に困ったみたい。頬を掻きながら渋々言う。


「彼女がというか、俺たちは島の外では何が起こるかわからないと思ってるから、念には念をと言うところだよ。特にミリザが絡むと時々とんでもないことになるし、俺もディオンも意見は一致したんだ」


 とんでもないことって……。

 とは言うものの、思い当たる節はなくもないんだけどね。


 まさか、あたしの心配じゃなくてテルシェさんの心配してたなんてことないよね?

 あたしが機嫌を損ねて薬を譲ってもらえなくなったら困る、とか。

 あたしはひとつため息をつくとゼノンに訊ねる。


「じゃあ、ゼノンから見てテルシェさんってどんな人?」

「え?」


 ゼノンにしてみれば、なんでそんなことを訊ねられるのかもわからなかったと思う。唐突でごめんね。


「どんなって……すごい調薬の腕を持った人だよ」


 あたしの質問に真面目に答えてくれた。でも、ちょっと無難なことを言われた気がする。

 ただ、ゼノンを困らせたくないからこの話題はもう止めておかなきゃ。


「うん、そうだよね」


 でも、ゼノンはじっとあたしの顔を覗き込むようにして見た。


「何か心配事?」


 あ、気を回させちゃったかな。あたしは苦笑してごまかす。


「いや、その、テルシェさんってすごく綺麗な人だから、男の人には魅力的に見えるんだろうなって」


 あたしがそう言うと、ゼノンはほっとしたみたいだった。


「ああ、なんだ、そんなこと?」


 それから、すごく爽やかに笑った。


「彼女に負けないくらい、ミリザも魅力的だよ」


 ……さらっとそういうことが言えるゼノンの方がある意味エセルより厄介だ。


「そう? ありがと」


 一応お礼だけ言っとこ。

 それからゼノンは無言でじっとあたしを見て、それから静かにつぶやく。


「ところで、エセルは?」

「さあ。そのうち戻って来るんじゃない?」


 頬っぺたの手形が消えた頃にね。

 あたしが素っ気なく言うと、ゼノンは小さく嘆息した。


「いつもはほとんど顔を出そうとしないのに、今回に限っては自分から来た。エセルもよっぽどミリザが心配だったんだね」

「一応心配してくれたみたいだけど」


 淡々と話すあたしをゼノンは不思議そうに見ていた。かと思うと、そっと視線を外して小銃を再び拭き始める。視線を小銃に向けたまま、ゼノンはつぶやいた。


「これで島に帰れる」


 用事はこれで全部済んだんだよね。なんだろうな、ひと月も経ってないのに、かなり長く離れていたみたいな気になる。それだけあそこが居心地のいい場所なのかも知れない。


「うん、そうだね」


 あたしがそう答えると、ゼノンはすごく柔らかな声音で言った。


「拳銃の授業も再開しないとね。本当は毎日でもしないと腕が鈍るから。ああ、拳銃もたまには分解して油を差したりメンテナンスしないと。それも今度教えるよ」

「ありがとう。あ、そういえば一回だけ撃ったよね」


 悪霊相手に錯乱して発砲した。ゼノンは思い出したのかクスクスと笑った。


「あれを数に入れちゃ駄目だろう?」

「やっぱり?」


 ごまかすように笑うと、ゼノンは再びあたしに目を向けて、それから何かを言いたげに、それでも何も言わずにいた。あたしが首をかしげると、ゼノンは苦笑した。


 うん、なんだったんだろ?

 まあ、また必要だったらちゃんと言うよね?

 そう思ってあたしは追及しなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング ありがとうございました! cont_access.php?citi_cont_id=901037377&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ