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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅳ・魔女と祓魔と幽霊船 

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⑫頼みごと

 魔女テルシェさんの家の中は、薬草学の研究をしていると言うだけあって梁からたくさんの薬草が干されていた。でも、それを除けばいたって普通のお家だ。でっかい鍋とかそういうものもなかった。別の部屋にはあるのかも知れないけど。


 こまめに磨いていると思われる艶やかなフローリングの上に立って、あたしはそんなことを思った。ファーガスさんもお医者さんだからか、すごく興味深そうに薬草を眺めてた。

 部屋の中央に置かれているのは一輪挿しの乗ったテーブル。そこに備えてある椅子にあたしたちは座らせてもらった。


「今お茶を用意するわね」


 にこりと微笑して背を向けたテルシェさんにディオンがすかさず言う。


「いや、茶はいい。それよりも用件を先に言わせてもらおう」


 テルシェさんが通してくれたこの部屋には火を使えるようなところがない。つまりわざわざ厨房まで行ってお茶をいれて運んで来てくれることになる。そうすると、その合間に喋ることもできないし、確かに時間がかかるかも。

 なんせ、エセルがあの調子だし、ディオンにしても早く戻りたいんだろうな。

 テルシェさんはクスリと笑って席に着いた。


「相変わらずせっかちね」


 そう言われても、ディオンは愛想を振り撒くでもなく淡々と告げた。


「いつもの薬がほしい。半年分ほど」

「その後、お父様のお加減はいかがかしら?」


 薬って、もしかして領主様の?

 あたしが食い入るように聞き入ってる中、二人は会話を続ける。


「ああ、悪くない。あんたの薬が一番よく効くらしい。痛みも随分和らぐってな」


 領主様は船の事故で起き上がることもままならないような怪我をされた。完全に治ることはもうないのかも知れないけど、テルシェさんの薬があると少しは楽になるんだね。

 なるほど、そういう事情ならエセルも嫌だ嫌だと言っても本気で拒否はできない。


「そう、それならよかった」


 テルシェさんはほっとした様子だった。自分の作った薬だもんね。

 美人なだけじゃなくて腕もすごいんだ。


「さすがだな。君たちが代々受け継ぐ製法でこそ可能な技だ」


 ファーガスさんがそんなことをつぶやいた。

 代々受け継ぐって、この島でひっそりとその製法を門外不出として作り続けてるとか?

 ほんとにここ、他の人がいないように見えるけど、テルシェさんは誰から製法を受け継いだのかな。

 でも、そんな込み入った話は聞けそうもない。テルシェさんはニコリと隙なく微笑む。


「ありがとうございます」


 それからテルシェさんはディオンに向けて言った。


「薬の用意はあるのよ。でも、ひとつだけお願いしてもいいかしら?」

「なんだ?」

「島の南の方に生えているアニムスの木の実を採って来てほしいの。もちろん別途お礼はさせてもらうわ」


 確かに、この島はそんなに広くはないけど、テルシェさんが一人ですべての材料を採取するのはすごく大変だと思う。だからこうしてお客さんが来た時、こうやってちょっとしたお願いをするのかも知れない。

 こんな美人の頼みだもん。喜んで引き受ける人ばっかりだと思うよ。

 やっぱり、ディオンも断らなかった。


「わかった。どんな形状だ?」

「木は低木で葉が尖っているの。実の形は、乾かしたものならあるからお見せするわ」


 と、テルシェさんはいったん席を立つ。あたしは小さく息をついた。

 たおやかで優しい印象なんだけど、美人過ぎてちょっと緊張しちゃうんだよね。

 気を抜いたあたしを、ディオンは物言いたげに見た。でも、何かを言う前にすぐにテルシェさんは戻って来た。小さな小瓶に入っている身は黒くって小さくて、胡椒っぽく見えた。

 ディオンはその実の入った瓶をシャラリと振る。


「色は干す前だと黄緑色なの。お願いね」

「ああ」


 返事をするとディオンは瓶をテルシェさんに返した。

 そうしてゼノンに顔を向ける。


「オレとゼノンで行って来る」


 まあ、こうしてテルシェさんにも会わせてくれたし、これ以上のわがままは言わないよ。


「はーい。じゃああたしは船に戻ってたらいい?」


 あたしが素直に返事をすると、何故かテルシェさんはすごくがっかりした様子だった。


「ミリザさん、もう行くの? こうして女の子と話せる機会なんてそうそうないし、すごく嬉しかったけれど、無理を言って引き止めてはいけないわね……」


 確かに、こんなところに来るのは船乗りの男の人ばっかりだよね。同性が珍しいっていうのはわかる気がする。

 あたしはちらりとディオンを見た。


「ねえ、ディオンたちがそのナントカの実を採って戻って来るまでここにいちゃ駄目?」


 そのひと言に、ディオンは一瞬複雑な顔をした。でも、テルシェさんの手前、いつもみたいな暴言は吐けないのかな。渋々言った。


「……好きにしろ」


 途端にテルシェさんは両手を合わせて輝くように笑った。


「うわぁ、嬉しい!」


 そんなに喜んでもらえると照れちゃうけど、なんかテルシェさん可愛いなぁ。

 ファーガスさんも微笑んでいた。


「そうか、じゃあワタシは先に戻ってマルロと食事の支度をしているよ。手が足りないと思えば誰かに頼むから、ミリザは気にしなくていい」


 お、優遇だ。ファーガスさん、心底テルシェさんの腕を買ってるみたいだから、テルシェさんが絡むと甘いんだ。


「じゃあ、すぐに戻る」


 そう言ってディオンが立つとゼノンとファーガスさんも続いて席を立った。ただ、出て行く時にゼノンがあたしをじっと見ていた。ん? 何かやらかさないか心配とか?

 大丈夫だってば。


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