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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅳ・魔女と祓魔と幽霊船 

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⑨判断ミス

 悪霊が祓われた後、あたしは船内に戻った。ヴェガスたちももう平気そうでよかった。

 ……でもその後、さすがに気が昂って寝つけなかったよ。



 寝不足の朝。

 それでもあたしは朝から忙しく働いた。一日中料理をしてる感じだけど、食べることは大事だもん。

 誰かが昨日のことをファーガスさんに報告したらしくて、あたしはファーガスさんに薄ら寒い笑顔で説教されたけど。


 本日の昼食は野菜と鶏肉の水煮。豆もたっぷり入ってて栄養満点。こうしてたくさんの量をよく煮込むと旨味が出るし、トマトとオレガノの風味がよく合う。それをパンに乗せて食べるの。


「じゃあ、ちょっと行って来ます」


 あたしは切り分けたパンと煮物を皿に乗せ、船長室へと向かう。今日もパルウゥスのところはマルロに譲った。ヴェガスが言うには、マルロなりにがんばっているって話だから。



 お昼はディオンが船長室にいるとは限らない。船内をうろうろしていることが多いみたい。

 そういう時は黙って置いておけということらしいんだけど、その日は船長室にいた。


「あら? いたんだ?」


 あたしが扉を開けて開口一番に言うと、窓辺に立ってたディオンが顔をしかめた。


「船長が船長室にいることがそんなに不思議か?」

「あはは、でもお昼はいないことが多いじゃない」


 そう言ってごまかすと、あたしは昼食を机の上に置いた。

 その途端、ディオンは振り返ってぽつりと言った。


「もう平気なのか?」

「え?」


 あたしがきょとんとして首をかしげると、ディオンはバツが悪そうにつぶやく。


「昨晩のことだ。尋常じゃない取り乱しっぷりだったぞ」


 そりゃ、あんなの体験したことないし仕方ないでしょうが……。

 あたしはそう苦笑した。


「びっくりしたけどね。それにしても、エセルにもびっくりした。あんなことできるなんてひと言も教えてくれないから」

「あいつは島の教会の息子なんだ。子供の頃はどっちかと言えば真面目なくらいだったんだが、今となってはああだ。神父の父親のことを毛嫌いして家にも寄りつかない。ある程度の歳になって常に船に乗り始めたのも、父親から離れたいからだったのかも知れない。聖水なんかも俺がヤツの父親のところへ行って分けてもらっているからな」


 真面目なエセルなんて想像できない。なんであんな成長しちゃったんだか……。

 お父さん嫌いって、神職なんてお堅い職種だから真面目で口うるさくて、エセルの方が窮屈になって反動であんな風になっちゃったのかも。それが一番納得できる考えだった。

 家がイヤ、親が嫌い――あたし、人のこと偉そうには言えないけどね。


「ふぅん。家、継がないんだ? 一体何があったんだかね」


 あたしがぽつりとつぶやいても、ディオンはそれ以上話してくれる感じじゃなかった。

 ただ、小さく嘆息してる。


「あいつはああ見えて自分のことを話すのが嫌いだからな。そうそう話さないだろうが、変に訊いたりするなよ。どうなっても知らないからな」


 なんか怖いこと言われた。

 うん、不用意に踏み込むことはしないけど……。

 エセルって、よくわからなくて面倒で厄介。それだけは事実かな。


 考え込んだあたしをディオンは何かじっと見ていた。その視線に気づいてあたしが顔を向けると、ディオンは眉根を寄せてつぶやいた。


「昨晩のことはオレの判断ミスもある。悪かったな」

「へ?」


 あたしは思わずぽかんと口を開けてしまった。今、なんて言った?

 そんなあたしの態度に苛立ったように、ディオンは少し口調を強めた。


「お前が寝ている間に処理してしまえば問題なかったのに、わざわざ起きて来るから悪いとも言うが」


 おお! さっきのは空耳かと思うくらいの変わり身。でも、聞き間違いじゃないはず。

 一応気にしてくれてたってことかな。そう思うと、あたしも表情は和らぐ。


「ヴェガスたちが苦しそうだったんだけど、幽霊船が出る時っていつもそうなるの?」


 ディオンは意外そうに目を瞬かせた。


「パルウゥスたちが?」


 あ、気づいてなかったんだ?


「うん。悪霊の声が聞こえて来たら様子がおかしくって、何か敏感に感じ取っちゃってるみたい」


 ディオンは甲板に出て念のために舵を握ってたから気づかないのかも。操舵席のそばにはパルウゥスたちへ声を届ける管があって、そこから指示を出すだけだもん。もしかすると、ヴェガスたちはディオンの指示があるときはそれでも無理して来たのかも。


 ディオンはそうか、と小さくつぶやく。

 次からはもっと配慮してくれるようになるんじゃないかな。なんだかんだ言って、ディオンはパルウゥスたちを大事にしてるから。


 その後、漕ぎ手座に数人の船員が送り込まれた。この二段櫂船バイレムの普段は使ってない上段の漕ぎ手座で彼らは黙々と漕ぐ。船員のみんなにも他の仕事があるから数時間のことだったけど、疲れてるパルウゥスの負担を軽くしようとしてくれたディオンの配慮に、あたしは素直に感謝した。


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