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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅳ・魔女と祓魔と幽霊船 

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④港町キクレー

 ディオンのガレー船、ヴァイス・メーヴェ号は魔女のいる孤島へ向かう。

 でも、その前に港町キクレーに立ち寄ることになってる。食品とか仕入れられる時に仕入れないとね。

 王都の港を出て四日、あたしはディオンの忠告通りエセルには必要以上に近寄らなかった。でも、エセルも近寄って来なかった。急に無口になってハスに構えてる。


 うーん、気にならないわけじゃないんだけど、変に声をかけるのもどうなんだろ。

 なんてあたしが思ってるうちに、船は入港する。


 夕日の煌きの中、ザブンと水音を立てて停止した船の甲板で、あたしは大きく伸びをした。

 王都の華やかな港を知った後だと、キクレーの港はびっくりするくらい手狭に思えた。古い町並みの中に歴史が感じられて、いいところなんだけどね。あたしの故郷のヴァローナよりはずっと綺麗だし。すっかり暗くなる前に着けてよかったな。


 夕焼けの海って結構好き。オレンジの光がキラキラ波を染める。

 あたしがぼんやり落ちて行く太陽を眺めていると、船員たちがぞろぞろと甲板に上がって来た。ディオンは船長らしく彼らに向かって堂々と言う。


「出立は明日の正午。それまでは自由行動だ。ただし、この船の品格を落とすような振る舞いがあれば相応の罰は与える。それだけは忘れずにハネを伸ばして来い」


 ディオンの言葉に、みんながわぁ、と歓声を上げた。そうして波止場へ降りるための跳ね橋を下ろし、我先にと船を降りる。そんな彼らに混じって、エセルがふらりと跳ね橋を進んだ。静か過ぎて、いるの忘れてたくらい。

 ……いいのかな?

 あたしはエセルの背中を見送った後、ちらりとディオンを振り返った。ディオンは小さく言う。


「エセルか?」

「うん。いいの? このままどこかに逃走したらどうする?」

「それはない。あいつはちゃんと戻って来る」


 なんだ、ディオンもなんだかんだでエセルを信頼してるんだ?

 あたしがそう思ったことが手に取るようにわかったのか、ディオンはつけ足した。


「抗えないものが誰しもあるからな」

「え?」


 あたしがきょとんとしてディオンを見上げると、ディオンは何事もなかったかのように言った。


「お前はオレとエピストレ語の授業だ。このところあまり進んでないからな」

「そうだね」


 ヴェガスもあたしの先生になり得るんだけどね、ヴェガスがあたしたちの公共語を理解しているのは内緒のこと。だからあたしがディオンに教わる以上にエピストレ語を早くマスターしちゃいけない。だから、あたしはわからないことをヴェガスに訊ねることはあっても、本格的には習わないようにしてる。

 少し離れた場所にいたファーガスさんとマルロにディオンは声を飛ばした。


「ファーガス、マルロ。ミリザは今から授業だ。パルウゥスたちの食事の支度を頼む」


 ディオン直々に頼まれてマルロはご機嫌で返事をしてた。

 それからディオンはあたしをちらりと見下ろした。


「お前が真剣に取り組んでると思えたら、夕食は町で摂らせてやる」

「ほんと!?」


 うわ、珍しいこと言うな、なんて失礼なことを思っちゃったけど嬉しいな。

 ご馳走じゃなくてもいいんだ。他所の町の雰囲気を楽しめるだけで楽しいから。


「はい。がんばります、先生!」


 当たり前だとでも言いたげなディオンの笑顔に続いて、あたしは船内に戻った。



 途中の廊下でゼノンにばったり会った。砲撃手のゼノンは大砲の点検をしてたみたい。いつも真面目で抜かりないよね。お疲れ様。

 あたしたちに目を向けると、穏やかな顔を綻ばせた。


「ミリザ、もしかして今から勉強?」

「うん、久々に」

「拳銃の稽古もしないと腕が鈍るけど、なかなか場所も時間も取れないね」

「そうだね。また島に戻ったらよろしく」


 にこやかに会話するあたしたちの横で、ディオンは待たされている感をかもし出している。そんなに話し込んでないし。せっかちめ。


「行くぞ」


 短く急かすディオンに、ゼノンはにこりと笑った。

 二人の視線が一度ぶつかって、そうしてほぐれた。


 何? 何か言いたげ。意味ありげ。

 ゼノンってば、ディオンも大変だね、とか思ってる?

 まあ、ディオンの貴重な時間を割いてもらってるのは事実だから、そこは強く言えないけどね。あたしのために使った時間を無駄だと思わせないように、あたしはがんばるしかない。

 

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