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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅲ・宝石と恋人と女王陛下 

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⑱倉庫にて

 酒場の倉庫なんだから当たり前だけど、酒臭い。ブランデーとラムとワインの入り混じった匂いがする。

 そこに閉じ込められると、あたしとマルロは暗がりに二人きりになった。ふぅ、とやっとひと息つける。


「なんか大変なことになっちゃったね」


 あたしがそう声をかけると、マルロはあたしを睨んだ。


「お前が後先考えずに行動するからだ!」

「まあそこは否定しないけど。マルロには残ってって言ったのに、なんでついて来たの?」


 すると、マルロはムッとした。声を低く落としながらも叫びたいみたいだった。


「ディオンに頼まれたからだよ! いざという時は、お前のことをちゃんと守れって」


 え?

 ディオンが?


「あれでも一応女で、お前はいくつだろうと男なんだからなって。ボクを見込んで言うんだって……」


 ああ、マルロがしょんぼりしちゃった。あたしは申し訳なくて慌てた。


「だ、大丈夫、ここからが勝負なんだから。ちゃんと計算の上だから」


 ごめん、ちょっと嘘。

 マルロはすごく疑わしい顔をした。


「計算? つかまったのにか?」

「えっと、あのね――」


 あたしは、あの二人が結託して企んでいるんじゃないかって考えを、自分なりに整理しつつマルロに語った。

 マルロの顔も次第に険しくなる。


「……それ、なんとかしてディオンに伝えられないか?」

「ここからじゃ、ちょっと難しいかもね。それより、あの二人の仲をこじれさせて自滅させた方が早いよ」


 あたしが平然と言うと、マルロは顔を引きつらせてた。


「お前、とんでもないこと言うな? こんなところにつかまってて、具体的にはどうするんだよ?」

「んー、まあ作戦はなくもないから、マルロも上手くやってよね?」


 にこりと笑うと、マルロはとんでもなく不安げな目をした。



      ☠



 あたしは夜になって食事を運んで来たチンピラの一人に、顔をくしゃりと歪めて涙声で言った。


「ねえ、僕たちどうなるの? 船長キャプテンに頼まれて宝石を盗みましたって偽証させられるの?」


 チンピラは肌の凹凸の目立つ顔で嫌な笑みを見せた。


「まあ、無事に生きていたかったらな」


 そこでマルロがふえぇんと声を上げる。……やればできる子だ。


「わかったから、言う通りにするから、ひどいことしないで!」


 二人でさめざめと泣き崩れる。チンピラはやっぱりガキはチョロイとでも思ってるね。


「そうそう、ガキは素直が一番だ」


 フフフ、そうでしょ。

 ちなみに、チンピラは単純が一番だよ?



 さて、チンピラから報告を受けたであろうどっちかがあたしたちのところに来るはずだ。

 来るのは多分、ヘイリーじゃないかな? あの人がチンピラのボスっぽい。

 ディオンだって貴族だけど海賊だもん。ヘイリーも荒くれをまとめ上げてるんだと思う。セラスはいいところの坊ちゃんっぽいけど。


 あたしの予想通り、ヘイリーがやって来た。一人だ。倉庫の外には見張りがいるんだろうけど。

 実はあたし、ダブダブのこのパンツの下には拳銃シャルを装着してる。膝下のギリギリ見えないラインに。あたしたちみたいな子供が拳銃を持ってるなんて思わないのか、調べられることもなかった。それがあるからか、あたしは少しだけ心強いんだ。


「偽証するって? お前らのボスを裏切ってか?」


 ヘイリーは小馬鹿にしたような口調だった。どう言ったらもっともらしく聞こえるのかな?


「特にお前、そんな簡単に裏切るようなヤツがする目つきじゃなかったぞ」


 あら? そうでしたっけ?

 疑われてるな……よし。


「……僕だけなら偽証なんかしない。でも、コイツも一緒だから。友達のためなら仕方ない。船長キャプテンも友達は大事にしろって言ってた。きっと、仕方ないってわかってくれる」


 なんてね。子供らしい勝手な言い分をもっともらしく語った。

 ヘイリーはそれを疑わなかった。あたしとマルロの友情を信じてくれた?


「友達のためにか。まあ、理由なんてこの際どうでもいい」

船長キャプテンに命令されたって言えば、僕たちが死刑になることはないよね? 少し牢屋に入れられてもすぐに出て来れるよね?」


 浅はかな子供を装うあたしをヘイリーはフフンと鼻で笑った。


「ああ、もちろんだ」


 嘘つき。まあいいけどさ。

 あたしは気を取り直して言った。


「僕が証言する内容を教えてよ。後、宝石を一度でいいから見せて。見たこともないのに嘘なんかつけないよ」

「それもそうだな。よし、セラスに言っておく」


 そうして、ヘイリーはあたしたちを倉庫に残して出て行った。あたしはバクバクと高鳴る胸を押えて深くため息をついた。ずっと泣き真似をしてグスグス言っていたマルロがあたしに呆れたような目を向けた。


「お前、よくもまあ口からでまかせをペラペラと……」

「えへへ、頼もしいでしょ?」

「褒めてないし」


 ケッとか言うけど、今はマルロが憎まれ口を叩く元気があることが嬉しかったりする。


「まあ、ここで第一ラウンド。次に備えなきゃね」

「ボクはひたすら泣き真似だろ?」

「うん、真に迫った演技でお願いね」


 再びケッとか吐き捨てるけど、それも大事なんだってば。

 ほら、足音が近づいてきた。ヘイリーよりも静かで品のある音。

 さて、第二ラウンドだ。がんばれ、あたし!


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