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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅲ・宝石と恋人と女王陛下 

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⑯怪しい

「お前ら、見ない顔だな?」


 いかにもなチンピラがだらしない姿勢でそんなことを言った。ゼノンはそれでも礼儀正しく返答する。


「俺たちは王都の者じゃないから。用があってしばらく滞在してるだけだ」


 チンピラたちは顔を見合わせた。


「道に迷ったのか? それとも、観光のついでか?」


 ちょっと卑屈な目の色をしてチンピラの一人はゼノンを睨む。ゼノンも普段ならやんわりとやり過ごすんだろうけど、あたしとマルロを背に庇ってることと、突き止めなきゃいけない宝石のことがあるから、その目から顔を背けなかった。


「……少し訊ねたいことがあるんだ」


 誠実な態度でゼノンが言った。すると、チンピラたちは嫌な顔をした。


「タダでとか言わないだろうな? 情報料は?」


 コイツら……。あたしがイラッとした時でもゼノンは冷静だった。


「そう持ち合わせがあるわけではないけれど、多少なら礼もするよ」


 そうした丁寧な対応にチンピラたちはゲラゲラと笑い出した。


「持ち合わせの足りない分はそっちのお綺麗なツラしたガキ二人が払うのか?」


 更にゲラゲラと笑い合うチンピラに、隣のマルロがキュッと唇を噛み締めた。馬鹿にされたように感じたんだろうね。

 ゼノンの柔らかい空気は不意にシュルシュルとしぼんで、代わりに怒気をはらんだ身が引き締まるようなものになる。ああ、怒っちゃった。滅多に怒らないタイプって、怒ると怖いんだよ?


「喧嘩を売る時は相手をよく見て売るといい」


 ゼノンは拳銃を服の下に所持してる。もし抜いたら……怖いことになるかも。

 そんな簡単には抜かないと思うんだけど。

 そこから、チンピラたちの動きが獲物を囲むハイエナみたいにゆっくりと感じられた。囲み尽くされる前にゼノンはあたしとマルロに向けて素早く言った。


「少しだけ離れてて」

「うん。気をつけてね」


 スルスルとあたしとマルロは後退する。とばっちりを食わない程度に下がればいいんだけど、どれくらいかな?


 チンピラは三人がかりでゼノンをたたみ込もうとした。サッと一人がつかみかかろうと伸ばした手を、ゼノンはしっかりとつかんで器用にねじり、地面に転がす。一瞬、チンピラの体がふわりと浮いた。でも、その隙に他の二人がゼノンを押さえようとしたけど、ゼノンは足で軽く払った。

 ゼノンは根が優しいし、問題を起こすことを嫌うのか、痛めつけるような喧嘩の仕方はしてない。敵わないとわかってもらえるようにあしらってる。


 負けることはないと思いながらも、ハラハラと見守るあたしの腕を不意にマルロが引いた。


「おい、あれって……」


 ん?

 あたしが振り向くと、こちらを見ていた美青年がいた。道行く人たちは喧嘩なんて日常茶飯事とでも言いたげに一瞥しただけで去って行く。でも、その美青年はじっとゼノンを睨むように見ていた。

 金髪に藍色の深い瞳。シルクのスカーフをピンで留めて、お金持ちっぽい――って、あれがセラスじゃないの!?


「あれが例の人だよね?」


 あたしは慌ててマルロに言った。マルロも強張った顔でうなずく。


「多分な」


 セラスはゼノンから視線を外すときびすを返した。

 あ、行っちゃう!


「マルロ、ゼノンに報告しといて!」

「ええ!」


 戸惑うマルロを残し、あたしはセラスの背中を追う。堂々とじゃないよ、尾行。ここで見失っちゃいけない。今だけは大目に見てよ。

 セラスは路地裏を抜けて行く。でも、独りみたい。お供はいない。

 あんな身なりのいい人が下町で独り歩いていたら絡まれそうなものじゃない? あたしたちですら絡まれたんだし。


 木箱の陰に潜みつつ、セラスの行く先を探っていると、あたしの後ろには追いついたマルロがいた。


「あれ? ゼノンは?」


 すると、マルロはムッとして顔を強張らせた。


「まだ決着がついてない」

「黙って来ちゃったの?」


 あたしが思わず言うと、マルロは更に目をつり上げた。


「だって仕方ないだろ! ボクだってディオンに――っ」


 って言いかけてマルロは口をつぐんだ。

 ディオンに役に立つと思われたいってところかな?

 まあ、それはそうなんだけど。……ゼノンには後でそろって怒られるしかないかな。


「あ、セラスが行っちゃう」


 あたしは慌ててマルロと路地を進む。セラスは昼間の閑散とした酒場に足を踏み入れた。酒場には情報が集まるから、これはおかしな動きじゃない。セラスはこうして宝石の手がかりを探してるんだ。

 う~ん、子供が二人で酒場に入ったらおかしいよね。あたしたちは酒場の前でその大きくて派手な看板を見上げた。やっぱりここは戻ってゼノンに報告するしかないかな。


 さて、急いで戻らなきゃ。

 そう思った時、その酒場の中から人が出て来た。


「なんだこのガキは?」


 わらわらと、出て来た。


「怪しいな。とりあえず中で話を聞くか」


 え――っ。

 あ、怪しくないってば!


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