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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅲ・宝石と恋人と女王陛下 

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⑭雑踏の中で

 ここまでが長かったけど、あたしとマルロはゼノンに連れられてやっと船を降りることができた。あたしもうれしかったけど、マルロも目をキラキラと輝かせてる。

 ファーガスさんは船に残ってくれてる。船を空っぽにするわけにもいかないし、その他にも十人くらいは残ってるんだ。

 広い波止場を歩くあたしたちをゼノンは苦笑しながら隣で見守ってた。


「十分に注意するんだよ?」


 何回聞いたかわからないセリフだけど、あたしたちはそのつど素直にうなずく。

 港には船乗りだけじゃなくて商人や軍人、見送りの民間人、色々な立場の人がごった返してた。あたしはそういう人たちを横目に、ゼノンにささやく。


「ねえ、ここから情報集めを開始する?」

「……そうだね。でも、気をつけて」


 ゼノンは穏やかな顔を少しだけ厳しくした。

 もちろん町の見物はしたいけど、役割を忘れるわけにはいかない。ちゃんと役に立たなきゃとは思う。マルロも気を引き締めてるみたい。


 多分、女の人が相手なら顔のいいディオンや小慣れたエセルで十分。聞きたいことはすぐに教えてくれるはず。だからあたしとマルロはそれ以外の人に聞いた方がいい。

 例えばお年寄りや子供、男の人。


 きょろきょろと見回して、あたしはターゲットを絞った。ええと、町の噂話に精通してそうなタイプがいいな。うん、あの子にしよう。

 マルロと同じくらいの年頃かな?


「じゃあ、あの男の子に聞いてみる。警戒されても困るからゼノンは少し離れてて」


 あたしが男の子を指してそう言うと、マルロは顔をしかめた。


「あんな子供が何を知ってるって思うんだよ?」


 いや、あの子が子供ならマルロも子供でしょうが――って、心で突っ込みつつ、あたしは説明する。


「肩から下げたカバンと磨り減った靴からして、伝達の仕事なんじゃないかな? すばしっこそうで、どこか抜け目のない顔つきしてるじゃない」


 ゼノンは納得してくれたみたい。


「なるほどね。離れて見てるけれど、ちゃんと俺の目が届くところにいてくれ」


 心配そう。ゼノンって結構な心配性だね。やっぱり優しいからかな。


「うん、ちゃんと見ててね」


 あたしはそう言って安心させるように笑った。それからマルロの手を引く。あたしがお兄ちゃん――いや、微塵も似てないから友達設定でいいか。

 あの子、急がないと走り去りそう。あたしはマルロと一緒にその子に向けて走り出した。あたしは声を少しだけ低めに意識して話しかけた。


「やあ、少しいいかな?」


 少年っぽい口調を意識して声をかけると、その子は胡散臭げにあたしを見た。


「なんだ?」


 つり目がギロリと向けられても、あたしは笑顔を保った。


「君って王都で働いてるんだよね? 見たところ僕たちとあまり年も違わないと思うんだけど? 僕たちにもできる仕事ってあるのかな?」


 すると、その子はちょっと勝ち誇ったような見下すような顔をした。よし、つかみは順調。


「オレは郵便配達の仕事を任されてる。この城下町に知らない道はないんだ。でも、お前らみたいな田舎者には無理だろうな」


 カッチーンと来た顔をしたマルロの足をこっそり踏み、あたしは更に言った。


「さすが都会の子はしっかりしてるんだね。いいなぁ、僕らはヤギやヒツジの世話ばっかりだったよ。毎日刺激的で退屈なんてしないんだろ?」

「まあね」


 フフン、と鼻で笑う。気分をよくしたみたい。

 さてと、ここからが肝心。


「ねえねえ、女王陛下のお顔を拝見したこともあるの? お綺麗なお方なんだよね?」

「ああ、もちろん。身につけた色とりどりの宝石や鳥の羽根に負けない輝きだったさ」

「ふぅん、国中の男の憧れだね。でも、そんなにお美しいなら、そばに近寄れる男はひと握りだろうけど」

「そうだなぁ。陛下は見栄えのする男がお好きみたいだな」


 やっぱり耳年増だな、少年……。

 思い起こすようにしてつぶやく。


「パゴニのセラスとか、パハバロスのディオンとか、アルバトロスのへイリーとか、スプルギティの――」


 おいおい、何人いるのよ?


「そうなんだ? 君の目から見て誰が一番気に入られてると思う?」

「セラスじゃないか? 陛下のところに一番(はべ)ってるし。 うぅん、でもディオンは別格のような気もする――」


 あたしが思わずドキリとすると、少年は不意に嫌な笑顔を作った。


「あ、でも、ディオンは陛下の寝所には足を向けないって噂だ。一見勇ましく見えるけど、女に興味がないかそっちでは役立たずかもな」


 ブ。

 思わずむせそうになるけど、あたしは隣で顔を真っ赤にしたマルロが少年に殴りかからないか、手をつかんで止めるのに必死だった。


「そ、そっか。じゃあそのセラスが女王陛下の旦那様になる可能性があるのかな?」


 その言葉に、少年は再びにやりと笑った。


「だから、セラスに取り入ろうって? 止めといた方がいいぞ」

「え?」

「あいつ、最近なんかやらかしたらしいし、イチバンでいられるのは時間の問題だな」


 風向きがいい方向にやって来た。


「なんかって?」

「さあな。でも、やたら下町をうろついてるし、あんまりよくない連中とつき合ってるんじゃないか?」


 それ、盗られた宝石を探してるんだろうな。ってことは、下町に行けばセラスに会える?

 あたしが更に訊ねようとした時、近くで声が上がった。


「何を油売ってやがる!!」

「げ」


 少年の仕事の元締め? ツルツル頭の怖いおじさんに怒鳴られた途端、少年は一目散に逃げ出した。

 あたしとマルロも慌てて物陰のゼノンの方に走った。でも、ちょっとだけ収穫ありかな。


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