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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅲ・宝石と恋人と女王陛下 

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⑪宝石

 それから昼前になって船員のみんなが帰って来た。……ちょっと香水のにおいがする。

 で、やっぱりやましいんだろうね。出迎えると、なんとなくみんなあたしと目を合わさなかった。

 あたしはそれがわかったのに、わざとわからないフリをしてニコニコと笑顔を振り撒いた。意地悪だけどこれくらいは勘弁してよ。

 そして、着崩した海兵の制服姿のエセルがいた。


「やあ、ミリザ。おはよう」

「おはよう」


 さすがにエセル相手に愛想を振り撒く気にはなれなかった。だって、エセルはやましそうな素振りも何にもないし。

 引きつった顔のあたしに、エセルが逆に笑顔で言う。


「あれ? どうしたの? 帰りが遅いから心配した?」

「してないけど」


 バッサリ言ってやったのに、エセルは怯まない。


「朝帰りだから妬いてる? ミリザが相手をしてくれるならもうどこにも行かないんだけど?」


 クスクスと耳障りな声で笑ってあたしの髪をひと房すくった。あたしはエセルから距離を取った。


「いってらっしゃい」


 にっこり笑ってやると、エセルは更にクスクスと笑った。

 そんな様子をあたしはじっと監察するように見た。


 なんだろ、エセルって女好きだと思ってたけど、ほんとはそれってちょっと違うのかなって気がして来た。どう言えばいいのかな、女の人に酷薄って気がする。


 それはあたしに対しても同じだ。親しみを込めて接しているようでいて、心のどこかでは距離を保ってる。

 ディオンやゼノンもなんだかんだで頼りにしてるし、根っから悪い人じゃないと思うけど……。



     ☠



 そうして、その晩のこと。

 あたしは一応できたところまでの宿題をディオンに提出することにした。今日、ディオンたちは早く帰って来てる。船長室にいるみたいだし。

 扉の前まで来ると、低くボソボソと話す声が聞こえた。あれ? 聞いちゃマズイ話?


 ……どうしようかな? 盗み聞きはマズイよね。でも気にならないかって言われたら気になる。なるけど、あたしだって立ち入られたくない事情があるわけだし、下手に首を突っ込むのもどうなんだろ?

 迷った挙句、あたしは堂々と扉をノックした。

 その途端、話し声はピタリと止んだ。


「誰だ」


 ディオンの尖った声がした。あたしは普通に声を出す。


「あたし。宿題提出に来たの」


 すると、ちょっとだけ間を置いて、それから短く返答があった。


「……入れ」

「はーい」


 じゃあ遠慮なく。

 中にいたのはゼノンとエセル。二人ともなんとなく笑顔だけど、少しだけ顔が硬いし部屋全体の空気も重い。

 ディオン定位置の椅子の上から手をヒラヒラと突き出し、あたしに向ける。


「ほら、出したらすぐに戻れ」


 やっぱり、話してくれる気はないみたい。何かがあたしの知らないところで起こってる。でも、ディオンたちはあたしにそんなことを教えてくれるわけでもなくて、自分たちで解決するつもりなんだ。

 じっとりとした目つきであたしが宿題を提出すると、ディオンはそれに目を通すでもなくあたしを追い払う。


「まだ用でもあるのか?」


 ムッとしても仕方ない。絶対に話してくれない。それだけはわかってる。

 あたしは渋々部屋を出た。



 そうしてその後、あたしはヴェガスに相談した。


「絶対に何かあったんだ。真剣に話してたもん」


 そうぼやくあたしに、ヴェガスは困ったように言った。


「ここはディオンの腕の見せどころだろう」


 あたしはぴたりと動きを止めた。そうしてヴェガスのつぶらな瞳をじっと見つめる。


「……もしかしてヴェガス、ディオンから何か聞いたの?」

「え? ああ、まあね……」


 いつもは落ち着いたヴェガスがちょっとだけ困ったような顔になる。あたしはすかさずグイ、とヴェガスに詰め寄る。


「少し相談されただけだよ」

「なんて?」


 ヴェガスはあたしに話していいものか迷っている風だった。パルウゥスのみんなはそんなあたしたちのやり取りをハラハラと見守ってる。


「ヴェガスとあたしの間に隠し事はなしだよね?」


 あたしはヴェガスにだけは身の上を語ったもん。自分が語ってないくせに他人のことだけ聞きたがってるとは言われないよね? ね?

 ヴェガスはいつになく困ってるけど、最終的にあたしの味方をしてくれることにしたみたい。嘆息すると高めの声を落として語り出した。


「口外法度なんだけどね、まあミリザは私が話さなかったら別の手段を探すだけだろう」


 あたしはあははと笑った。


「ディオンは女王陛下よりある失せ物を探し出すように頼まれたらしい」


 失せ物?

 あたしが首をかしげると、ヴェガスは小さくうなずいた。


「女王へ献上される予定だった宝石だそうだ。それが何者かに盗まれた。それを探し出すことができれば、女王の覚えは更にめでたく、ディオンの地位の向上に繋がる。ディオンとしてはなんとかしてその宝石を探し出したいようだね」

「なるほど。宝石ってどんな?」

「青緑色をした宝石らしい」

「ふぅん。陛下への献上品だもん。よっぽど高価なものなんだよね」


 そんなの盗んだら売りさばく時に足がつくんじゃないのかな?

 ちゃんと裏ルートとかあるのかな?

 そんなこと、あたしが気にしても仕方ないんだけどさ。

 

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