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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅲ・宝石と恋人と女王陛下 

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④情報

 ウキウキワクワク。

 ――そんなのん気なことを言ってられたのは一瞬のことだった。


「さて、昼食の準備に取りかかるとするか。マルロ、ミリザ、行くよ」


 ファーガスさんがあっさりとそんなことを言った。そうして、にこりと笑う。


「ガレー船だからね、乗組員の数は前よりも多い。あんな楽に過ごせると思っちゃいけないよ?」


 え……楽でしたっけ? あの時……。

 あたしとマルロはそろって青ざめた。そんなあたしたちをファーガスさんは満足げに眺めて目を細めた。


「何、人手は増やしてあるから心配しなくていい。掃除洗濯は他の人間に頼んであるから、ワタシたちの仕事は主に食事の支度だ」


 な、なんだ、この人数で何とかしろってことかと思ってびっくりした。

 でも、食事の支度だけでも大変には違いない。がんばらないと!


「マルロ、がんばろう?」


 いがみ合ってる場合じゃないって思ったのか、マルロも小さくうなずいた。



 ヴァイス・メーヴェ号の厨房は、シー・ガル号に比べて内装が整っていた。きっとこっちの方が新しいんだろうな。食堂も広いし、机の数も多い。

 ……散らかさないでよね。お行儀よく食べてよね。掃除大変じゃない。


 さてと。

 出航して間もない間は食材は豊富だ。後半になると保存の効く芋づくしになっちゃうんだけどね。

 今日の昼食はミルク入りの冷製スープとフレッシュな野菜のサンドイッチ。あたしは野菜を切る係り。トマトをスライスしてレタスを千切る。こういうと簡単なんだけどね、量が量だから大変……。マルロはスープ用の玉ネギを切ってるから目が赤い。あ、泣いてる。


 あたしは野菜を切りながら、パンをスライスしているファーガスさんになんとなく訊ねた。


「王都って、パハバロス島から南東の方ですよね? そんなに遠いわけじゃないし、十日はかからないってところですか?」


 ファーガスさんはこくりとうなずく。


「ああ、このガレー船なら精々七日ってところだな。ミリザは王都は初めてらしいな?」

「はい! すっごく楽しみです!」


 力を込めて言うと、ファーガスさんは不安そうな顔をした。


「ちなみにミリザはルースター王国ランドの女王陛下のことをどれくらい知っている?」

「へ?」


 どれくらい?

 そんな質問が来るとは思わなかった。あたしはしどろもどろで答える。


「女性ってことくらいしか……」


 ファーガスさんは嘆息した。そんなことだろうと思ったって顔に書いてある。

 そうしておもむろに語り出した。


「エレアノール=ブロンテ=ド=ルースター陛下。即位されて九年――御年二十六歳だ。金髪碧眼、ご容姿には大層恵まれておられる。未だ未婚だが、陛下に見合うほどの人物がいない。女性と侮られることもないほどに勇猛果敢にして聡明であらせられる……というのが一般的な陛下の評価だ」


 何その含みのある言い方?

 でもまあわかったことは、美人で優秀で未婚。多分気が強い、そんなところかな。

 王様なんて男の人だって難しいのに女性ながらになんだから、そりゃあ気も強くなるよね。


「女王陛下なんて雲の上の存在だし。あたしとは全然縁のない方だってことだけはわかってます」

「まあ、それもそうだが、陛下のことを何ひとつ知らないなんて騒動のもとになりかねないからな」


 そうかな? まあ、知っておいて損はないか。

 でも、ディオンはあたしを陛下の御前に連れて行く気なんてサラサラないでしょ。そこはいいんだ。あたしだって陛下の前で粗相なんてしたくないし、ディオンたちが謁見している隙に王都見物できればそれで。

 自由に使えるお金はほとんどないけど、でもお金はなくても見物くらいできるし。

 不意にファーガスさんがため息をついた。


「なあ、ミリザ」

「はい?」

「王都に着けば口さがない連中も多い。あまり噂話に耳を貸して惑わされてはいけないよ」


 ファーガスさんの言葉はどこか曖昧で、あたしは小首を傾げてしまった。


「ファーガスさん?」

「まあ、ディオンには敵が多い。足もとをすくおうとしている輩ばかり……それだけは確かなことだ」


 えー。

 態度が悪いから敵が多いのはわからないでもないけど。とにかく気をつけなさいってことか。

 そうして、ファーガスさんは凪いだ海みたいに穏やかな目をして言った。


「ミリザがこうしてワタシたちの船に乗り合わせたのは偶然に過ぎない。けれど、案外その偶然がワタシたちにとっては幸運なことであったと思わなくはないんだよ」


 意外なくらい、唐突にそんな言葉をかけてくれた。

 あたしはそれがすごく嬉しかった。


「ありがとうございます」


 あたたかな気持ちで微笑み返す。その間もずっと、マルロは玉ネギと格闘していた。


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