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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検
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⑮帰り道

 麻袋にいっぱいの硝草。口を絞れるところまでギリギリに詰めた。袋は三つ。結構な重量だ。

 でも、ヴェガスとスタヒスはひとつずつを頭上に掲げて持った。やっぱり、すごい力。

 最後のひとつはディオンが持った。


「よし、帰るぞ」

「うん」


 そう返事はしたものの、どうやって?

 そういえば、帰りってどうするんだろ?

 すっごい嫌な予感しかしないんだけど。


 とりあえず、あたしたちは洞穴から海風の吹く方へ歩む。抜ける前にあたしは一度振り返って洞穴の光景を目に焼きつけた。少し減ってすっきりしちゃったけど、でもきれいな眺めだから。今度はいつ来れるかわからないし。次はマルロの番かもね。


「早く来い」


 ディオンに急かされてあたしは外へ出た。一気に風が強まり、あたしの頬を髪が叩く。日差しが目に痛い。

 ディオンはその場に硝草の入った麻袋を置くと、背中のリュックも下ろした。身軽になったディオンは、手首足首をぐるぐると回し始める。……硝草採りで疲れたのかな?

 あたしがそんな風に思ってると、ディオンは次の瞬間にとんでもない行動に出た。今立っている岩場から更に下の岩場にいきなり飛び下りた。着地は軽やかだったけど、いきなりすぎる。


「あ、あぶなっ!」


 おろおろとしているのはあたしだけだった。エセルはあっさりと言う。


「僕たち、船から船へ飛び乗るのが当たり前だからね。いつもこんなもんだよ」


 そういえば、最初に会った時もそうだったかも。それにしても危ない……。

 でも、ディオンは更に下へと岩場を伝って下りて行く。そうして、最後に――海に飛び込んだ。迷いも恐れもない、綺麗な放物線を描いて。


「ディオン!」


 思わず叫んだあたしに構わず、ディオンはまるで海の生き物みたいに悠々と泳いでる。


「大丈夫、ディオンは泳ぎが達者だから」


 も、もうちょっと安全な方法ないわけ? すっごく心臓に悪い。

 あたしが破裂しそうな胸を押えてその場にへたり込むと、泳ぎ去ったディオンが小船に乗って戻って来た。びしょ濡れのまま、櫂を立ち漕ぎして上へ向けて手を振って合図する。

 どこか近くの岩場にあらかじめ小船をもやっておいたみたい。それを取りに行ってたんだ。


 エセルはディオンのリュックからフックつきロープを取り出して麻袋に繋げる。ヴェガスたちもすでに手順はわかっているようで、そのロープを一緒につかんで下に垂らした。あたしもとっさにロープの端をつかんだけど、もうあんまり重さを感じない。


 みんなは慎重に麻袋を下の船に向けて下ろして行く。ディオンは船を操作し、麻袋の真下につけた。そうして麻袋を受け取る。これを同じように三度繰り返した。


「ふぅ、これで終わりだね」


 三つ目を下ろし終えた後、あたしは額の汗を拭いながら三人を振り返った。すると、三人はニコニコと笑ってた。


「いや、後ひとつ残ってるよ」

「え? どこに?」


 あたしが周囲をきょろきょろと見回して荷物を探していると、突然エセルに腰を引き寄せられた。――ん? ベルト? ぎっちりと腰にベルトを再び巻きつけられた。まさか……。

 エセルはカチョン、とロープの先のフックとベルトを繋いだ。そうして、笑顔で言う。


「今回はこれだけで下ろすから、絶対暴れちゃ駄目だよ」


 ……。


「本気?」

「すごく」


 そ、そんなことって……。

 固まったあたしの手をエセルは強く握って自分の頬に寄せた。ぞわ。


「絶対落とさないから、信じて」


 あたしは手を勢いよく振り払ってエセルに笑いかける。


「ヴェガスたちのこと信じてるから大丈夫!」

「え? そっち?」


 ヴェガスたちはロープを強く握り締めてうなずいていた。


「じゃあ、行くよ。風に煽られたら下ろすの止めるから、そういう時はどこかの岩にしがみついててじっとしてて」

「うん」


 あたしは一度だけ下を見た。そこには焦れったそうに船の上で腕を組んで待っているディオンがいる。

 い、今行くってば。

 ここまで下りて来た距離を思えば、今度は短いくらい。変に動かなかったら大丈夫だよね。


 よし。

 とりあえず、岩に手をかけて足をかけて下に下りる。岩が船の進入を阻んでる部分があるから、そっちに行かないように、それだけを意識して下がった。


 よ。

 ちょっとずつ感覚が慣れて来た。早く下りなきゃ三人の負担になる。急げ急げ。

 そして、ディオンの仏頂面が近づいた。あたしの脚がもうちょっと長かったら、ディオンの頭が蹴れるくらいの距離。あ、や、蹴りたいって意味じゃなくてね。

 あたしは岩壁にしがみつきながら下に向けて叫んだ。


「この後どうしたらいいの? 最後は海に飛び込んで泳ぐ?」


 あ、でも拳銃シャル持ってるし、火薬も湿気っちゃうから飛び込みたくないな。


「ロープはそのままにして、岩壁を蹴って船に直接着地しろ」


 なんて、言うのは簡単だけど……できるかな?

 ディオンは上の三人に向けて手を振って合図する。あたしも上を見上げた。

 よ、よし。


 あたしの動きに合わせて、ロープを加減してくれる。あたしは思い切って岩壁を蹴って船に飛び移った。途端にロープに吊り下げられている感覚が薄れて、あたしにかかっていた力が消えた。ロープが邪魔だけど、浮遊感を味わいつつ――って、ディオンが船の中央からどいてくれない。着地予定の場所なんてそんなに絞って飛べない!


 ぶつかるぶつかる!!

 目を瞑るのも怖くて、あたしは逆に大きく目を見開いたままディオンに衝突した。


「っ!!」


 ただ、衝突したと思ったのはあたしだけだったのかも。ディオンは最初からあたしを受け止めるつもりだったのかな。あたしもとっさにびしょ濡れのディオンの首にしがみついちゃったけど。あたしを抱き上げたまま、ディオンはロープのフックをあたしのベルトから外した。その途端、ロープからディオンのリュックが滑り落ちて来た。腕を通す部分にロープを通して落としたんだ。ディオンはそれを船底に投げる。


 そうして、衝撃の後の鈍い痛みと熱の名残を残しつつ、ディオンはあたしをストンと下ろした。で、何事もなかったかのように上を見上げている。フックつきロープを手に、また大きく手を振った。


「ゼノンは来た道を引き返して戻って来るし、エセルたちも今に来る」


 ロープを巻き取って片づけながらディオンはそう言った。


「う、うん」


 なんだろ、少しだけドキッとした。いや、ここは誰だってするよ、きっと。でもなんか悔しい……。

 エセル、ヴェガス、スタヒスはディオンと同じようなやり方で岩壁を伝い、それから海に飛び込んで泳いで来た。……みんなすごいな。あたし、最近あんまり泳いでなかったけど、ちょっと泳ぎの練習しよう。


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