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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検

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⑭草摘み

 ディオンは洞穴に踏み入りながらあたしの背中に声をかけた。


「どうだ? 火薬の原料にしては綺麗なもんだろ?」


 そういえば、洞穴にしては声が響かない。風も感じるし、光も漏れてるから、割と隙間があるってことだね。

 あたしは覚悟を決めて振り返った。


「うん、すごく。びっくりした」


 努めて明るく言った。

 でも、笑顔はやっぱりぎこちなかったのかな? ディオンは一瞬怪訝そうな顔になった。

 そうして、少しの間をおいて嘆息する。


「まったく、次は連れて来ないからな」


 崖か、大鷲か、ディオンはあたしがそんな顔をする理由が色々と思い当たる。あたしが恐怖で竦んでるって感じたんだろうな。勘違いを解くつもりはないんだけど。


「どうかな。行きたくなったらまたよろしく」


 ようやく、少しだけまともに笑えた気がした。


「懲りろ」


 なんて、呆れたような顔をされたけど。


「でも、この光景にまた出会えるなら、来たいって思うかも知れないから」


 キラキラと、光を浴びて自身が光そのものみたいに輝く草。あたしはぼうっとそれを目に焼きつけるようにして眺めた。感傷的になってしまうのは、この美しい光景のせいかも知れない。心が震えるくらいに綺麗だと思うから、いつもは塗り固めている心を溶かして弱くしてしまう。

 そんな自分が何かおかしかった。


「迷惑なヤツだな」


 そんな堂々と迷惑とか言わなくても。

 反抗的な目をしたあたしを、ディオンはさらりとかわした。そんな様子をヴェガスがクスリと笑う。


「Ανησυχία δεν έχει εξαντληθεί,Δίον」(心配は尽きませんね、ディオン)

「Δεν υπάρχει τέτοιο πράγμα」(そんなことはない)

「Είναι ψεύτης」(嘘つきですね)


 あ、ディオンが黙った。どうやらヴェガスに言い負かされたっぽい。う~ん、さすがヴェガス。涼しい顔してまたエピストレ語しか喋れないフリしてるし。

 何かがない、とかそんな会話だったよね。何がないって?

 やっぱり、まださっぱりだ……。


 そんな会話をしてると、次にエセルが到着した。あたしと目が合うと、浮かれた足取りでやって来る。


「ああ、ミリザ! 怖かっただろう? 無事でよかった」

「おかげ様で」


 一応お礼は言っておこう。

 両手を広げるけれど、飛び込みたいとは思わない。

 ヴェガスとスタヒスがあたしの前にニコニコと笑顔を振り撒いて立った。もしかして、ガードしてくれてる? エセルのノリが軽いから心配してくれてるのかな。

 そう思うとちょっと笑っちゃった。


「後はゼノンだね」


 あたしがそう言うと、ディオンはかぶりを振った。


「ゼノンは下りて来ない。上に残って見張りとロープの回収と、色々やることがあるからな」


 そっか、全員で下りるのは危険なんだ。上で小銃を手に警戒してるのかな。


「じゃあ、さっさと終わらせて帰ろうか」


 エセルが面白くなさそうに言った。こんなに綺麗な光景もエセルは興味がないのか、見飽きてるのか。綺麗なお姉さんの方がいいんだ、きっと。

 ディオンはリュックから数枚の畳んだ麻袋を取り出した。ここに詰めろってことだよね。


「硝草は根から引き抜くなよ。大葉だけを摘め。次回のことを考えて新芽は残すんだ」

「うん、わかった」


 指示通り、あたしは硝草を摘み始める。思ったよりも葉っぱは硬くて摘みにくかった。難儀していたらディオンにハサミを渡された。なんだ、あるんだ?

 プッチプッチと大葉をちょん切る。慣れたら速い。あたしは手を動かしながら訊ねる。


「硝草って、栽培が難しいんでしょ? それを群生させるなんてすごいね」


 誰か、植物に詳しい人がいるのかな。まあ、都合のいい環境が揃えられなかったら、知識だけでは駄目なんだろうけど。


「これはヴェガスたちの功績だ」

「Νόμιζα ότι ήθελε να μειώσει τον κίνδυνο ενός αγώνα για την πυρίτιδα」(火薬を奪い合うリスクを減らすために考えたんだ)

「火薬がなければ命取りだ。首尾よく買えればいいが、そうでなければ敵の船から奪うしかない。火薬庫や砲弾のある下層まで奪いに行くのはなかなかに危険が伴うからな。こうして自家製の火薬が製造できるようになって、船員たちの生存率も上がった」


 なるほど。樽に入ってる火薬を持って逃げるのも大変だよね。


「Μαζί μας είναι μια φυσική.Ζήτησα από το φυσικό της συνεργασίας」(私たちは自然と共にある。自然に協力してもらったんだ)

「――パルウゥスたちは本来、自然と共に生活して来た。だからこうしたとき、オレたちが知らないような知識も持ってる」

「そうなんだ……」


 ただの労働力としか見なさないなら、そんな知識には気づけない。エピストレ語が理解できてこその恩恵だ。

 ううん、それだけじゃ駄目。パルウゥスたちに認められるように心を持って接した結果だ。

 ディオンはなんだかんだ言っても、ちゃんと心を持って相手を認めているから、今があるんだ。

 

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