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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検
32/191

⑫ヴェガスの秘密

 さすがにそのまま崖下に下りろとは言われなかった。

 ただ、ディオンはリュックから取り出したベルトで唐突にあたしの腰を締めつけた。

 ぐ。ちょっと説明してからにしてくれると嬉しかったんですけど。

 そのベルトの金具と新たに取り出したフックつきロープを繋ぎ、それを引っ張って強度を確認した。


「ひあっ!」


 ちょっと、加減して引っ張ってよ! とっさにスタヒスが支えてくれなかったらこけてたよ!


「踏ん張れ」


 面倒くさそうにディオンは言う。


「そういうことは引っ張る前に言うべきでしょ!!」


 くそう……。


「一応命綱はつけたけどな、慎重に行け。何があっても手は放すな」

「了解」


 あたしは嘆息して覚悟を決めた。その命綱って、どうやらディオンたちとスタヒスが支えてくれるみたい。さすがにそれだけいたら大丈夫だよね?

 ディオンはそれから滑り止めか手を保護するためか、手袋を貸してくれた。でっかいけどありがとう。


 一度だけ崖下を見ると、少しだけ見える出っ張りの部分でヴェガスが手を振ってた。目的地はあそこ。

 ロープにはよく見ると結び目が点々としてる。落下防止のためかな。

 うん、もう下は見ないで行こう。


 あたしは後ろ向きになってそーっと足を崖の岩壁につけた。靴底にざらりとした感覚がやっぱり怖い。

 でも、正面を見ると四人が真剣な顔をしてあたしを見守っていた。なんだかんだで心配してくれてるみたい。……自分で行くって言ったんだから、がんばろう。


 あたしは思い切って踏み出した。少しずつ、少しずつ、手に力を込めて足を徐々にずらしながら下へと下りて行く。

 ヴェガス、ものすごい下り方したよね。慣れてるのかな?


 ――どれくらい来たのかな? 中間くらい? 腕がプルプルして来た。

 そんな時、ヒュールルルって何かの鳥の声がすごく近くでした。あたしの上に影が落ちる。


 え? 何?

 そう思った瞬間に、ズドンって体を震わせる発砲音がした。あたしが思わず身をすくめて背後の海の方へ振り向くと、ヴェガスたちと同じくらい大きな鷲が翼を撃ち抜かれて落下して行くところだった。


 舞い散る羽根が目に焼きついて、あんまりなことにあたしは悲鳴を上げそうになった。撃ち抜いたのはゼノンの小銃だ。あたし今、大鷲のご飯になりそうだった!?

 パニックになったあたしを落ち着けようとしたのか、ディオンの声が空から降った。


「ミリザ! 落ち着け!!」


 その声にハッとして、あたしは気を取り直した。返事を大声で返すゆとりはさすがにないけど、あたしが動けば命綱で繋がってるからわかるはず。慎重にも大事だけど、迅速に、を追加しなきゃ。

 落ち着け、自分。落ち着け……。

 呪文のように頭の中でそれを反芻しながら必死で崖を下りた。下で待つヴェガスの声がする。


「ミリザ」


 あたしはその声にほっとしてようやく下に目を向けた。海に面した崖の一角でヴェガスがニコニコとあたしを迎え入れてくれた。あたしはようやく平らな岩の上に足を下ろしてそこに立つことができた。どうやらこの先が硝草の群生する洞穴みたい。……なんて厄介なところに生えてるんだろ、ほんと。


 ヴェガスに手伝ってもらいながらベルトを外した。そうして、上に向けて大きく両手を負ってみせる。こっちからは逆光になって顔まで見えないけど、みんなの頭が崖から乗り出しているのが見えた。その後でベルトのついた命綱が引き上げられた。次に来るのは誰かな? ディオンかスタヒスってところ?


 あたしはようやくひと息つくことができた。その場にへたり込みたくなったけど、そんなあたしの手をヴェガスが引いた。くいくい、とどうやら洞穴の中に行こうって言うみたい。

 確かに、崖にいるとさっきみたいな大鷲がまた来ると嫌だ。中の安全なところに避難しようってことかな。


「うん、Πάμε」(行こう)


 あたしはヴェガスに連れられて、ディオンたちを待たずに洞穴の中に踏み入った。中は暗いのかなと思ったら、岩の隙間からたくさんの光が漏れてて明るかった。そうして、そこに広がっていたのは、びっくりするくらい幻想的な眺めだった。岩肌にびっしりと、黄緑色のスプーンみたいな葉っぱをした草が生えてる。その葉は漏れる光を浴びて黄色にキラキラと輝いてた。そこを胞子みたいな光の粒が舞っているみたいに見えて、すごく綺麗……。


 黒色火薬の原料なのに、こんなに綺麗なんだ? なんだろ、摘むの勿体なくなるね。

 こんな光景が見れて、やっぱり無理矢理ついて来た甲斐があったな。うん、あたしがんばった。

 硝草に見とれているあたしに、ヴェガスはにこりと笑って語りかける。


「どうだい? 綺麗なものだろう?」

「うん、すっごく。感激しちゃった」

「そうか、それはよかった」


 ん?

 今、あたし誰と喋ってたっけ?

 恐る恐るあたしはヴェガスを見る。ヴェガスは穏やかに微笑みながらとんでもないことを言った。


「実はね、私は君たちと同じ言語を操ることができる。ディオンたちには秘密だよ?」


 ええ――――っ!!


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