表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/191

⑪彼はいけない

 森林の中は日差しが木々に遮られるせいか、少し涼しくて快適だった。森って何か神聖で、人間は場違いな気すらした。歩きやすい場所ってわけじゃないけど、ここは結構楽しかった。

 でも、そんな森林もそんなに奥深かったわけじゃなくて、ほどなくして抜けた。ああ、途端に眩しくて目が慣れない。

 それにしても――。


「硝草って、すごいところに生えてるんだね。もっと採りやすいところに植え直せば?」


 思わずそんなこと言っちゃう。だって、結構遠いよ?

 すると、ディオンはあたしを小馬鹿にしたような目を向けた。


「そこら辺に生えてる雑草と同じだと思うな。そんなにも簡単に栽培できるなら、オレたちは海賊なんかよりも農作業で生計を立てるぞ」


 農作業。うわ、似合わな――いやいや、いいんだけどさ、栽培は難しいんだ?


「少しくらいならまだしも、火薬にできるほどの群生地ってなるとね、そうそうないよ」


 ゼノンもそんなことを言う。


「そういえばあたし、硝草って見たことないや。どんなのだか楽しみ」


 ウキウキと弾むあたしのそばで、エセルはボソリと言った。


「硝草はね、引き抜く時に断末魔を上げるんだ」

「え?」


 だ、断末魔?


「その声を聞いた者は命を落とすって言い伝えがあってね、古来犬の首に縄をくくりつけて草を抜かせて来たんだ」


 なんて恐ろしい草……。

 あたしはごくりと唾を飲んだ。エセルはにやりと笑って続ける。


「でも、大丈夫。今では稀にしか命を落とすことはないから」

「いや、あの、稀って……」


 その稀に当たったらどうしてくれる――って、エセルがなんかニヤニヤしてる。と思ったら吹き出した。コイツ……!


「ごめん、冗談」

「悪趣味!!」


 あたしが騒ぐと、ディオンが嘆息した。


「なんだ、今頃気づいたのか?」


 そうでした。出会った時からエセルは悪趣味でした!

 エセルは笑いすぎて浮かんだ目尻の涙を指ですくい取ると、楽しげに微笑んだ。


「やっぱりミリザは可愛いな。一緒にいて楽しいし」


 ぐ。可愛いって言えば女の子は気をよくすると思ってない?


「楽しいのはエセルがあたしをからかうからでしょ! あたしは楽しくないし」


 そっぽを向いたあたしに、エセルは手を伸ばした。


「そんな――」


 けれど、その手を阻むようにスタヒスが間に入った。そして、ヴェガスが急いであたしの手を引いた。二人はニコニコと笑ってあたしと一緒に歩き出す。エセルが何か言いたげだけだけど、まあいいか。


「Αυτός παρακαλώ σταματήστε」(彼はいけない)

「Αυτός παρακαλώ σταματήστε」(彼はいけない)


 二人そろって歌うみたいに同じことを繰り返してる。えっと、『彼はいけません』だったかな?

 ――何が?



 そのまま歩くと、ふわりと風があたしの長い髪を撫でた。潮のにおいがする。

 ようやく辿り着いたその場所は、行き止まりに見えた。


「ここ? この後どうするの?」


 だって、ここは断崖だ。この先は切り立った崖と海原。岩壁にぶつかる波音がする。

 あたしは周囲を見回したけど、それらしい植物はない。

 すると、ディオンは崖に向けて歩み出した。わー、危ないって。

 崖っぷちに何やらしゃがみ込むと、担いでいたリュックから取り出したのはロープだった。かなり頑丈そうな太めの。涼しい顔して担いでたけど、実は結構重たかったんじゃない?


 よく見ると、その地面には大きな鉄製の杭が打ちつけてあった。その先端の輪にロープをきっちりと何重にもしてくくりつける。そして、それを崖に垂らした。……まさか?

 あたしはちょっと血の気が引いた。


「もしかして、その下?」


 ディオンはニヤッと笑う。


「そうだ。この崖の中腹の洞穴に生えている。この崖は、さすがにお前でも怯むか?」


 ムッ。

 カチンと来たあたしに、ゼノンが優しく声をかけてくれた。


「無理しなくていいよ。どうせ一人はここに残らないといけないんだし」


 ここまで来て? そんなのごめんだ。


「これくらい大丈夫!」

「頼もしいなぁ」


 と、エセルがからかうように言う。

 心配そうなのはヴェガスとスタヒスだ。ヴェガスはスタヒスに何かをささやき、それからディオンに言った。


「Θέλω πρώτα θα πάει.Παρακαλούμε συνέχεια πήρε να έρθει να της.Θα είναι ασφαλής με αυτόν τον τρόπο?」(私が最初に行きます。次に彼女に来てもらって下さい。その方が安心でしょう?)


 ディオンは静かにうなずく。


「Παρακαλούμε πράξουν」(そうしてくれ)


 ヴェガスはにこりと笑うと、そのロープに手をかけてこちらを向いた。ハラハラと見守ると、ヴェガスはあっさりと崖の切れ目を蹴って下に降下する。あたしは思わずその瞬間に声を上げてしまいそうになったけど、スタヒスがあたしの手を握ってくれた。心配要らないって言うように。

 ディオンは崖下を見て、それからあたしに顔を向けた。


「よし、次はお前だ。ヘマするなよ」


 し、したら命はないってことだよね?

 あたしは無言でうなずいた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング ありがとうございました! cont_access.php?citi_cont_id=901037377&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ