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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅰ・夢と希望と海賊船
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③海の災難

 木箱の中にいても光が漏れて来る。あたしはその隙間からそっと外を見た。

 船乗りたちは前方後方、四方八方に注意をしながら船を進める。ガレー船は主に帆と漕ぎ手の力で動く船だ。船の下層には船を漕がされている奴隷がいる。鎖に繋がれ、鞭打たれ、家畜みたいに船を漕ぎ続ける。そんな噂を聞いたことがある。


 その奴隷というのが人間に限らない。むしろ、人間の何倍もの膂力とスタミナを持つとされている小人族『パルウゥス』――彼らを捕らえて船を漕がせることが快適な船旅の条件だとまで言われている。彼らの力があれば、風に頼るだけの帆船よりも小回りが利くし、波に翻弄されることも少ないないらしい。


 その見たこともない奴隷たちのことを思うと、あたしは少しもやもやとした気持ちになった。

 自由がない、へとへとになるまでこき使われる生活。

 あたしと一緒だなって――。


 そんなことを考えながら、あたしは気づけばうとうととしていた。昨晩は寝てないんだもん。そりゃあ眠いよ。こんな体勢で寝たら体が痛くなりそうだけど、こればっかりは仕方ない。

 そのまましばらくうとうと……いや、寝ちゃ駄目だの繰り返し。でも、一瞬だけオチた気がする。

 ただ、寝覚めがびっくりするくらい悪かった。

 ガン!! って、船が岩礁にでも乗り上げたのかと思った。あたしはおでこを木箱でぶつけて目を覚ました。


「いった……」


 小さくぼやく。けど、木箱の外はもっと大騒ぎだった。


「敵襲だ――!!」


 え? 敵襲?

 あたしは愕然として木箱の隙間から外を覗いた。その細い隙間からではちゃんと見えないけど、甲板では目まぐるしい白兵戦が繰り広げられてるみたい。船員の人たちの野太い叫び声が木箱の中にまで響く。


 敵って何? ルースターの私掠船か何か?

 うわ、最悪。この船、通過料払ってないわけ?

 それとも、払ってても無法者の海賊に絶対なんてないの?

 さすがに怖くなったあたしが木箱の中で成り行きを見守っていると、木箱の右上にドス、という衝撃と共にナイフが刺さった。半分が貫通して、その刃が中にある。

 あたしはそれを見た瞬間にパニックになった。


 このままここに隠れてたら串刺しにされる!

 思い切って木箱のふたをずらして、少しだけ頭を出した。

 でも、みんな戦闘中であたしの存在になんて気づかない。あたしは思い切って木箱から抜け出した。そうしたら、その瞬間をあの番兵――ジェイクに見られてしまった。


「あ! お前、密航者だったのか!!」

「げ」


 お上品さの欠片もない声が思わず出ちゃったけど、そんなことに構ってられない。ジェイクは敵の攻撃を掻い潜りながらあたしの方へ駆け寄って来る。

 うわぁ、つかまったらマズい!

 牢屋にぶち込まれる? それとも、あの救いのない家に連れ戻されるの?


「どっちもまっぴら!!」


 あたしはそれだけ吐き捨てると、銃声と剣戟、火薬の匂いのする甲板を駆け抜けた。

 そして、不安定な跳ね橋を一気に駆け抜ける。その先に待つのは、敵の船だ。

 それは小さなガリオット船。二本のマストと畳んだ帆もある、小さいけれど機能的できれいな船だった。艶やかな船体は、太陽の光を浴びて黄金にさえ見える。


 こんなちっちゃな船で倍もの大きさのガレー船を襲うなんて、船長はどんな神経してるんだろ?

 でも、ガレー船の方が押されてる。ガリオット船の乗組員は少数だけど粒ぞろいだ。動きが機敏だもん。

 この船は、掲げた旗の色からして多分ルースター王国ランドの、それも海賊船。そんなところに飛び込んだらろくな目に遭わないのはわかってる。

 でも、連れ戻されるのだけはどうしても嫌だ。


 跳ね橋の板を蹴って転がるようにガリオット船に飛び込む。その甲板までジェイクが追って来ることはなかった。あたしはその甲板の上で真っ白な髭と髪をしたおじいちゃんと目が合った。なんだろう、この人。でも優しそうだ。

 あたしはおじいちゃんに人差し指を口に当ててシー、という仕草を見せる。おじいちゃんも同じように指を口に当てて小首をかしげた。何かお茶目なおじいちゃんだ。


 とりあえずあたしはその船のメインマストの影に隠れた。そこで息を潜めていると、商船から戦利品を抱えてガリオット船に続々と船員たちが返って来る。人数は少ないのに、略奪の素早いこと。すごく手馴れてる。

 跳ね橋を外されるのと同時に、数人の乗員がマストに下がっているロープを使って振り子のようにこちらに飛び乗って来る。見てるだけで怖い。ちょっと着地を間違えたり、ロープが切れたら海にぽちゃんだ。でも、彼らは鮮やかに降りた。一見すると若い男の人が多い。


 商船は略奪されたものを取り返そうとするのかと思いきや、さっさと船を離して距離を置く。敵いそうにもないって思ったから、命を優先したのかな。

 あたしがマストの影から乗員たちを警戒していると、そんなあたしの背後に最後に降り立った人物がいた。軽やかな足音は、体重を感じさせない身のこなしだった。状況が違えば拍手してあげたいところだけど、今はそれどころじゃない。

 振り向く前からものすごい威圧感がした。恐ろしくてそっちが向けないくらいの。

 案の定、ドスの利いた声があたしの背中に放たれた。


「誰の断りがあってこの船に乗った?」


 誰の?

 えっと、あたしの、かな――?

 

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