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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検
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⑧もうひとつの授業

 ディオンの授業を終えて、今度はゼノンに拳銃の教えを請う。

 火薬不足なのにいいの? って一応訊いたら、拳銃に使うような量はたかが知れてる。大砲を撃つために心許ない、ってことらしい。なるほど。

 シャルルドミルス――シャルを持ってゼノンのもとへ向かった。部屋で待っていたゼノンは爽やかに笑うと、


「じゃあ行こうか」


 そう言って、あたしが試されたあの原っぱに向かった。

 ゼノンはすぐに撃つわけではなくて、説明から始めた。


「拳銃っていうのはね、的との距離が重要になって来る。特にミリザは経験が浅い。だから、特に動く獲物を捕らえようと思うなら、十分に引きつけてから撃たないとね」

「はい、わかりました」


 あたしが返事をすると、ゼノンはちょっと困った顔をした。


「なんで敬語なの?」


 今は師匠と弟子。あたしはキリリとして答えた。


「気分の問題です。気にしないで下さい」

「あ、そう……」


 やりづらそう? 気にしないでって言ってるのに。

 それでもゼノンは気を取り直して続けた。


「けれど、一番大事なのは、拳銃を過信しないこと。拳銃は殺傷力ストッピングパワーも有効射程も小銃などには及ばない。相手を見て、通用するかどうかを知らなければ駄目だ」


 銃に勝る武器はないと思ったけど、そう簡単なことじゃないんだね。


「はい」

「じゃあ、まずは姿勢からだね。実は、こうして立って構えるよりも膝をついたり下半身を安定させていた方が命中精度は高まる」

「あの時、そんなこと教えてくれませんでしたよね?」

「うん、ごめん……」


 仕方ないのはわかるけど、ちょっとだけ言いたくなった。


「話の腰を折ってごめんなさい。続けて下さい」


 苦笑しながらゼノンは少し離れた位置に空き缶を三つ縦に積み上げた。ん? あれは的?


「じゃあ、俺が言う順番に当ててみて。最初は一番上だ」


 またそんな難しいことを言う。

 ゼノンは拳銃シャルの弾倉に弾薬を装填してくれた。クルルル、カチョンって――ちょっと、目にも留まらぬ早業なんですけど?

 あたしはそれを受け取って、言われた通りに空き缶の塔の正面に立ち、片膝をついた。


 そうして、撃鉄ハンマーを引き起こし、拳銃を構える。両腕を伸ばし、引き金(トリガー)を引く。一連の動作は、まだあたしには大きな緊張だ。だってあたし、普通の町娘で十六歳まで生活して来たんだもん。精々がナイフとか、そんな刃物を持つくらい。銃なんて無縁だった。

 それを練習する日が来るなんてね。


 あ、雑念が多かったかな? 銃弾は大きくそれたみたい。かすりもしなかった。

 すると、ゼノンはあたしの隣に膝をつくと、伸ばしたままの腕をぐい、と下に押した。


「構える腕が高い」

「はい」

「それから、もっと背筋を伸ばして」


 背中を拳でなぞる。背中曲がってた?

 ちらりとゼノンを見ると、その途端にゼノンはあたしからパッと手を離した。


「あ、ごめん」

「何が?」


 おっと、思わず口調が戻っちゃった。あたしが首をかしげると、ゼノンはバツが悪そうに嘆息した。


「えっと、じゃあ次は気をつけて。もう一度上だ」

「はい」


 パァン、と銃声が鳴る。缶に当たる音はしなかった。

 あたし、あの時ほんとによく当てたよね。自分で感心しちゃう。

 そういえば、銃声も最初ほど耳が痛くない。心構えがあるせいか、慣れるものだね。


「うん、さっきよりいいよ。近くなった」

「ありがとうございます」


 ゼノンの教え方はディオンとは正反対。優しいなぁ。

 いや、教えてもらってる以上、ビシビシしごかれるのが嫌とは言わないけど。

 そのまま、ゼノンに細かい部分を注意されながら六発消費した。そのうちやっぱり当たったのは一発だけ。まあ、当たらないよりはいいか。


「こうして上半身が感覚をつかんで命中精度が上がったら、そのうち立ち姿勢での練習に移るから。膝をつく姿勢だと、いざって時にとっさに動けないからね。実戦向きではないんだ」

「なるほど」

「今日はまず、弾薬の装填の仕方を教えるよ」

「はい」


 あたしは空っぽになった拳銃シャルをゼノンに手渡す。ゼノンはカチリ、と拳銃シャルをばらすように動かした。そこには六発の残骸がある。


「これは回転式拳銃って呼ばれる部類のものだ。弾倉シリンダーをこう左にずらして、空になった薬莢ケースを出す。ああ、かなり熱いから素手で触っちゃ駄目だよ」


 と、弾倉シリンダーを逆さに向けて叩くようにして空の薬莢ケースを落とす。そうして、自分のポケットから新しい弾薬を取り出した。それを詰めながら説明してくれる。


「この穴を弾室って言って、弾薬の先端が弾丸ブレット、後ろの平らな部分を抽筒板リムって言って、弾丸ブレットを先にして詰めるんだ」


 ふむふむ。


「詰めたら弾倉シリンダーを戻して、終わり」


 ニコ、と爽やかに笑ってゼノンは拳銃シャルをあたしに手渡す。ゼノン、今はゆっくりしてくれたけど、最初の装填がすっごく速かった。もたもたしてたら命取りだってことだよね。


「はい、素早くできるように練習します」


 それから、再び射的の練習。せめて半分くらいは当たるようにならなきゃ。

 ゼノンは、あたしは筋がいいって褒めてくれた。褒めて伸ばすタイプ?

 間に受けていいものかよくわかんないけど、硝草採りまで日もないし、とりあえずがんばろう。 


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