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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検
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⑥喧嘩上等?

 あれから、言いにくそうなゼノンにぼそっと、


「ホルスターを太ももにつける時はパンツスタイルの方がいいかもね」


 なんてことを言われた。


「え? パンツ穿いてどうやってつけるの?」

「パンツの上から装着すればいいんだよ」


 ……わあ、ほんとだ。そんな簡単なことが思いつかなかった。


「余計なこと言うなよ、ゼノン」


 ニヤニヤとしながらエセルがそんなことを言う。


「誰かさんと違ってゼノンは紳士なのよね」


 そんな風に庇ったら、何かゼノンは複雑そうだった。なんとなく目をそらし、そんなことよりと話題を変えた。


「硝草採取のために装備ももうちょっと整えないと。蛇なんかもいるからね、ブーツは少し分厚い方がいい。後、虫も多いから、なるべく長袖でね」


 げ。蛇か……。

 できれば遭遇したくないなぁ。

 そんなあたしの感情が顔に出たのか、ディオンは小馬鹿にしたような目をあたしに向けた。


「残ってもいいんだぞ」

「行・き・ま・す!」


 せっかく、あんなに苦労して勝ち取った権利を、蛇くらいのために放棄するなんてあり得ない!

 ディオンはスッと部屋の温度を下げるような口振りで言った。


「言っておくが、硝草採りに行くからと言ってエピストレ語の勉強時間が減ると思うなよ。予習復習は当然だ」


 ぐ。わ、わかってるよ、それくらい!


「はい、先生!」

「返事だけは立派だな」


 『だけ』じゃないし!


「厳しい先生だね。疲れたらいつでも慰めてあげるよ」

「いや、エセルの相手する方が疲れるから」

「ミリザもなかなか手厳しいね」


 あたしとエセルのやり取りをゼノンが心配そうに見守ってる。

 大丈夫、もうあしらうの慣れたし。


「服、どうしようかな? マリエラはスカートばっかりだし、マルロに借りようかな?」

「マルロはまだ硝草採取に連れて行ったことがない。お前に先を越されたとなると、あいつますますお前を敵視するからな、それが嫌ならその選択はするな」


 マルロは早く一人前の船乗りになりたいんだって。で、いちいちあたしに突っかかって来る。

 あたしは大きくうなずいた。


「わかった。じゃあ行って来るね」

「どこへ?」

「マルロのところ」

「……今の会話の流れで何故そうなる?」


 イラッとしたようなディオンの声に、あたしは堂々と言った。


「だって、内緒で行ったらそれこそ次にマルロと会った時ややこしいじゃない。それよりは、最初にちゃんと伝えて喧嘩して来る」

「喧嘩前提なのか? ええと、じゃあ俺も行くよ」


 そう言ってくれたゼノンに、あたしはきっぱりと断りを入れた。


「保護者同伴の喧嘩なんてまったくもって無意味だもん。いいよ。じゃあね」


 後に残された三人は呆れたかも知れないけど、あたしはそういうまだるっこしいの嫌い。やりたいようにやらせてもらいます。



 そのままの勢いで行こうかと思ったけど、時間が夕飯の頃になっちゃったから、そこは遠慮して明日にすることにした。


 エピストレ語の授業も、拳銃の練習もあるからね、朝一で出かける。

 マルロとマリエラの実家は、島では割と裕福。お父さんが腕のいい船大工さんなんだって。


 あたしが乗り合わせた『シー・ガル号』も今は双子のお父さんが手入れしてくれてるみたい。それから、あたしが島へ来てびっくりしたのは、『シー・ガル号』以外の船がいくつかあったこと。用途に合わせて船も換えるみたい。

 あの時は簡単な狩りをしに行っただけだから、小振りでフットワークの軽いガリオット船『シー・ガル号』を使ったんだって。それ以外にもガレー船なんかも所持してる。


 島の崖に面した道を歩くと、潮風と日差しと目に痛いほどの青い海があたしに迫るみたいだった。ふと足を止めて崖から海を眺める。

 あたしの故郷も港町だったんだから、海なんて見飽きてるはずなのに、まるで違う世界のように思えた。澄んだ青い海と空に胸が踊る。


「ここはいいところだな……」


 海鳥の声に混ざり、そんな言葉がこぼれた。あたしの故郷みたいに荒んだ感じがしない。清浄で、島の人たちも優しくて、あたしには楽園みたいだ。

 ひとつ伸びをしてあたしは先を急いだ。



「――なんだって?」


 レンガ造りの大きな家の玄関先で、マルロはやっぱり顔をしかめた。マリエラと同じサラサラの金髪に灰色の瞳。陶磁器みたいな肌。美少年なんだけどね、性格まで――。


「だから、硝草取りに行くから、動きやすい服がほしいの。要らない服あったら頂戴?」


 堂々と言ったら、マルロは爆発した。


「なんでお前がそんなところに連れて行ってもらえるんだよ! 僕だってまだ行ったことないのに!!」

「それはあたしががんばって食い下がったから。マルロも行きたかったらがんばればいいじゃない」


 でも、マルロなりにあたしの言葉に少しでも納得するところはあったみたい。言い返して来なかった。イライラした顔をしながらも一度家に引っ込むと、数枚の畳んだ服を押しつけるようにしてくれた。


「ほらよ! 返して要らないからな!!」


 機嫌は悪いけど、無駄に拗ねたりはしてない。


「ありがと、マルロ。だーい好き!」

「ふざけるな」


 心底嫌そうだけど、そんなところも可愛い。

 ほらね。真っ向勝負すればちゃんとわかってくれる。マルロだっていつまでも子供じゃない。

 先の航海に出る前と後とじゃ別人。日々成長してるんだよ。ディオンたちはその辺がわかってない。見くびっちゃ駄目だよ。

 

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