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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検

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③貸して下さい

 自分の身も守れないようなヤツは足手まといだって。

 そりゃあそうだ。その言い分はすごく正しいと思う。


 じゃあ、どうしたらいいのかってあたしは考えた。あたしか弱いから無理、なんて発想はもちろんない。


 明後日なんて、剣とか習ってたんじゃ間に合わない。どうしようかって考えた時、思い浮かんだのはゼノンの部屋でのこと。ゼノンの部屋にはたくさんの銃があった。砲撃手って言ってたけど、大砲を扱うだけじゃなくて、場合によっては小銃なんかを使った狙撃もするみたい。

 あの中にはあたしでも扱えそうな小振りの拳銃もあった。あれ、貸してもらえたらなんとかならないかな?


 とりあえず、ダメもとで頼んでみることにした。ディオンが所用で去った後、まとわりつくエセルを追い払ってゼノンのところに行った。部屋で銃の手入れをしていたゼノンは、あたしの来訪に嫌な予感がしたのかも知れない。爽やかな笑顔が一瞬凍りついた。


「ゼノン、お願いがあるんだけど」


 猫なで声と満面の笑顔にゼノンの予感は強まったのかな。


「なんだろう……なんとなく予想がついてしまうよ」

「そう?」


 タタタ、と室内に入り込むと、勢いよくソファーの上のゼノンの隣に座り込んだ。なんとなく体をそらしたゼノンに、あたしは詰め寄る。


「あのさ、拳銃一丁貸して?」

「……ミリザ、君、自分がすごいこと言ってる自覚あるかな?」


 なんでだか疲れた調子でそう言われた。


「君が無闇やたらと銃を人に向けると言うわけじゃないけれど、誰かの手に渡ればそれだけ危険なものだ。第一、そう簡単に扱えると思っちゃいけない。コンパクトな拳銃は的に当てることだって容易じゃないからね」


 的に当てられないって?


「そんなの、やってみないとわからないじゃない?」


 やる前からそんなこと言わないでほしい。

 ゼノンは深々と嘆息した。


「俺が独断で貸すことはできないから、せめてディオンの許可をもらっておいで。そうしたら、一度触らせてあげるよ」

「わかった。絶対ね!」


 とりあえず、ディオンに直談判だ。



     ☠



 ――で、まあ予想はしてたけど、失笑された。


「お前はとことんオメデタイな」

「なんでよ? 自分の身は自分で守れるようにならなきゃ駄目でしょ?」


 間違ったことは言ってない。ディオンはそのことを否定するわけじゃなかった。


「確かにお前には他に漏らされたくない知識を与えている。身を守れるに越したことはないが……」

「ほら!」


 あたしが勝ち誇ったように言うと、ディオンは何かの書類から顔を上げた。


「そんなに言うなら試しにやってみろ。ただし、できるなら、だ」


 あ、すっごい意地悪な顔した。銃の扱いは難しいんだから、お前には無理だろって顔に書いてある。

 上等だ!



 というわけで、あたしはディオンとゼノンと一緒に領主館の敷地の外の野原に来た。ゼノンは渋々って具合。小振りの拳銃がゼノンの手のうちで銀色に輝いている。そして、もう一方の手には空き缶。あれが的ってこと?


 あたしとディオンは横に並んでゼノンから距離を取った。

 ゼノンはふぅ、と嘆息すると特に構えた様子でもなく空き缶を高く放り投げた。見上げると、日差しが眩しくて目が眩む。落ちて来る空き缶の影を見ると、その瞬間にゼノンが動いた。


 パァン、とおなかに響くような甲高い銃声がして、それが缶の縁に当たる。弾が缶を弾き、缶はもう一度跳ね上がった。その僅かな隙にゼノンの手は銃を撫でるようにして動く。あまりの素早さに、何をしたのかがよくわからなかった。

 そうして、また銃声が響く。キィン、と缶に当たる音がする。その繰り返しだった。ゼノンはそれを弾倉が空になるまで続けた。一度も外すことなく、空き缶は舞い続けた。

 カン、と虚しい音を立てて地面に缶が落ちた時、あたしは拍手喝采した。


「すごい!!」


 もっと褒め称えたいけど、とっさにはそれしか出て来なかった。あんまりにもすごいから、感激した!

 普段の穏やかな様子からはこんな姿は想像できないよ。


「ありがとう」


 にこ、と笑うゼノンはキラキラといつもの何倍も素敵に見えた。

 さて、とディオンが目を輝かせていたあたしを現実に引き戻す。


「弾薬が尽きるまでに一度でいいから缶に当ててみろ。それができなきゃ諦めるんだな」


 え? 一回でいいの?

 さっきのゼノンを見ていた限りで、装弾数は六発。六回のうち一回でも当てればいいんだって。

 なんだ、ディオンも優しいところあるんだ?


「うん、わかった。当てたら拳銃許可してね。それから、硝草採りにも連れてって」

「なんて図々しい……」

「いいじゃない、それくらい」


 あっさりと言ったあたしに、二人はやれやれと言った表情をする。失礼な。


「まあいい、好きにしろ」


 ディオンがさらりと言った。あれ? やけに簡単に言われたような?

 引っ掛かりを覚えながらも、あたしはとりあえず喜んだ。


 ゼノンは弾薬を再装填リロードしてから拳銃をあたしに貸してくれた。思ってたよりもずっしりする。銀の銃身に薔薇の模様があって綺麗だ。

 一応、使い方だけは教えてくれた。


「一度発砲すると、引き金を引く前にこの撃鉄ハンマーを起こさなきゃ撃てないよ」


 ふむふむ。


「じゃあ、用意はいい?」

「うん!」


 あたしは銀色の銃身を両手で構える。ゼノンは片手で撃てるみたいだったけど、これ、引き金自体も結構固い。

 ディオンは無言でそんなあたしを見ていた。

 

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