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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ・先生と師匠と島探検
21/191

①マリエラ

Ⅱ(全18話)になります。

 ここはルースター王国ランドって国の、パハバロス島ってところ。

 あたし、ミリザ=ティポットはルースターの言わば敵国、アレクトール王国ランドからの――こう言うと聞こえは悪いけど――密航者。家出娘ってヤツ。


 でも、密航した商船が海賊に襲われて、あたしはその海賊船に乗り合わせることになった。でもまあ、海賊って言っても無法者の集団じゃなくて、ルースター女王陛下の許可を得た私掠船だったりする。

 船長のディオン、砲撃手のゼノン、操舵手のエセルバート(通称エセル)、船医兼料理長のファーガスさん、見習いの少年マルロ、漕ぎ手のヴェガスたち。なんとなく仲良くなった船員たちと、あたしはこの海賊たちの本拠地、パハバロス島で生活することになった。


 船長のディオンはこのパハバロス島の領主、フォーマルハウト男爵の息子。漕ぎ手のヴェガスたち『パルウゥス』っていう小人族特有の言葉『エピストレ語』を完全に理解する、すごい人。あたしの語学の先生。

 あたしはディオンについてエピストレ語を学ぶためにこの島に永住することを決めた。難解なエピストレ語をすぐにマスターできるはずもなく、道のりは長いけどね。

 うん、勢いで家出したあたしがこんなことになってるなんて、人生ってわかんない。



 宿無しのあたしは、そのままディオンの家、領主館の一角を借り受けることになった。って言っても、もちろん住み込みの使用人が使う部屋だ。それでも、あたしの生家よりよっぽど綺麗なんだけどね。

 あたしはその部屋の中に備えつけられている姿映しの鏡の前に立った。ゆるく波打った赤毛は伸ばしっぱなしで背中まである。うっとうしいからひとまとめにしてるけど。


 くるぶしの辺りまである赤と白が基調のパッチワークのロングスカート、上は紺地に丸襟フリルのブラウス。なんでもいいんだけどさ、せっかく用意してくれたんだから着ないとね。ちょっと胸がきついけど、それ言ったら殺されそう。

 誰にかって言うと――。


 トントン、と控えめなノックがした。こういうノックはわかりやすい。


「どうぞー」


 軽く答えると、部屋の中にふわりと淡い色が飛び込んで来た。

 淡いピンクのスカートの裾を優雅に捌いて室内に入り込んだのは、まっすぐな金髪の美少女だ。華奢な体に女の子らしい格好がよく似合ってる。ただし、表情が怖い。


 彼女はマリエラ。海賊見習いのマルロの双子のお姉さん。

 顔はそっくり。そして、性格もそっくり。

 マリエラは可愛い顔を盛大にしかめた。


「ディオン様のお言いつけでいくつか服を用意しましたけれど、あなたひとつも似合わないですわね」

「だって、マリエラが持って来る服、可愛いんだけど、あたしはこういうの着慣れないんだもん」


 ……胸きついし。

 マリエラは十三歳。あたしの三つ下。同じ服が似合うわけじゃないんだけどね。

 マリエラの顔には『せっかく用意してやったのに』と、ありありと書いてある。だから、あたしは先に謝った。


「せっかく用意してくれたのにごめんね。でも、できるなら動きやすい格好がいいかな」


 むしろ、弟のマルロの服の方がいいかも。なんてことをあたしが思っていると、マリエラは心底嫌そうな顔をした。


「贅沢な方ですわね」

「はい、スイマセン」


 さあ、そろそろ始まるぞ。

 マリエラはこめかみに指を当て、ふぅ、とため息をついた。


「大体、どうしてあなたみたいな方がディオン様のおそばにいることを許されるのか、私にはさっぱり理解できませんわ。それも、船にお乗せになるなんて……。私でさえも女だという理由で乗せて頂けませんでしたのに」


 はいはい。

 マルロもディオン大好きっ子だけど、マリエラも大概だ。とにかく、ディオンの周りをちょろちょろするあたしが気に入らないらしい。

 あたしが聞き流していることに気づいたのか、マリエラはキッとあたしを睨んだ。


「ディオン様の婚約者はこの私です。それだけはくれぐれも忘れませんように!」

「はいはい」


 ちなみに、これ本当? ってディオンに訊ねてみたら、アホかって返された。多分、もっと小さい頃の、大きくなったらお嫁さんにしてくれる? っていう流れの適当な口約束を信じてここまで来たんじゃないかな。


 でも、後数年待ったらすっごい綺麗になるよ。ディオンの好みかどうかはあれだけど、結構羨ましいと思ってる人もいるんじゃない? あたしのことでさえディオンはガキって言うし、時間は必要かも知れないけどね。その途中で女好きなエセルとかが手を出さないといいな、なんて思う。


 マリエラがきゃんきゃんと騒いでいると、戸口のところに当のディオンがいた。

 屋敷にいる時は船に乗っている時とは別人みたいに貴族令息らしい上品な格好だ。シルクのチュニックがあかがね色の髪と小麦色の肌に案外似合ってる。それでも、眼だけはいつも鋭くてどこか野生的。美形なんだけどね、なんだけどね……。


「うるさいヤツらだ」


 え? 何その複数形。


「あ、ディオン様!」


 マリエラはパッと顔を輝かせた。でも、その顔がすぐに消沈した。


「少し時間が空いた。ミリザ、来い」


 ああ、マリエラの顔が怖くて見れない。でもまあ、仕方ないじゃない。

 ということで、あたしはディオンに続いてそそくさと部屋を出た。


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