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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅰ・夢と希望と海賊船
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⑱パハバロス島

 ディオンさんの寝室でエピストレ語を習って、あたしはそのまま――寝ちゃったのかも?

 途中からよく覚えてない。でも、起きたらベッドの縁に頭を乗せてる状態だった。ディオンさんはあたしに背中を向けて寝てる。――面倒くさいから放置しようって結論だ、きっと。

 体勢的にはつらいんだけど、なんかすっきりしてるような気もする。涙の跡もない。

 疲れてたのかな? それとも、人の気配があると安心するのかな、あたし?


「ありがとう、ディオンさん」


 起こさないように、あたしはそっとささやいた。

 そう言いたい気分だったから。



 パハバロス島はルースター王国ランドの南西にある小さな島。

 思えばあたしは、まだこの船と彼らのことをまだよく知らなかったんだ。パハバロス島へ到着した時に、あたしはそれに改めて気づかされた。

 島の波止場にはこの船の帰還を待ちわびる人だかりで黒々と埋め尽くされてる。乗組員たちは甲板から大きく手を振って答えていた。


 みんなの無事を祝う歓声の中、船から下りた跳ね橋を真っ先に渡ったのは、船長のディオンさんだ。その先に一人の中年女性が待つ。

 割といいとこのマダムっぽくて、波打った長い黒髪の美人さん。ディオンさんはその人と抱擁を交わした。やっぱり年増好みだった!

 あたしがびっくりして甲板からその光景を見下ろしていると、隣でゼノンさんが笑っていた。


「あれはディオンのお母さんだよ」


 あら? そうなんだ?

 続々と降りて行く乗組員たちにはそれぞれ待ち人がいた。ファーガスさんには奥さんとお子さん、お孫さん。あ、エセルが女の人に囲まれてる。でも、なんか空気険悪だよ? 多分、エセルの自業自得だと思うけど。


 マルロも両親と、お姉さんか妹さんと抱き合ってる。うわ、マルロそっくりの美少女だ。

 甲板にいるあたしのそばに下層の漕ぎ手座から上がって来たパルウゥスの面々が挨拶してくれた。


「Στην υγειά μας για την καλή δουλειά」(お疲れ様)


 あたしがそう言うと、みんなは達成感でいっぱいの満面の笑顔で返してくれた。


「Σας ευχαριστώ.Ελπίζω το ίδιο για σας」(ありがとう。君もね)


 ぞろぞろと、みんな降りて行く。波止場にはパルウゥスたちの家族もいた。ヴェガスたちよりももっと小さな体。スカートにみつ編み、女の人だ。小さい子供もいる。可愛いな。

 ヴェガスたちも島に家族がいたんだ。今度、そんな世間話もしてみたいな。

 あたしがパルウゥスたちを見送っていると、ゼノンさんは驚いた顔をこっちに向けていた。


「ミリザ、君……本当にエピストレ語を覚えるつもりなんだね」


 ディオンさんはこのゼノンさんをとても信頼してるみたい。ゼノンさんが色々と知ってることがその証拠だ。


「そのつもりです。ディオンさんは迷惑みたいですけどね」


 おどけて言うと、ゼノンさんは苦笑した。


「そう簡単に覚えられるとも思ってないんだろう。本当に、ディオン以外にはまるで理解不能なんだ。でも君は、こんな短期間でほんの少しだろうと喋れてるんだから驚いたよ」


 あ、ゼノンさんもあたしには無理だと思ったんだ?


「できないなんて、そんな簡単に言えないんですよ」


 あたしはぼそりとそう言った。


「え?」


 ゼノンさんは海風と海鳥の鳴く声にかき消されそうなあたしの声をちゃんと拾った。

 だからあたしはにっこりと微笑む。


「できないで済ませられることなんて、今までなかったんですよ。どんなことでもやらなきゃいけない環境ってあるんです」


 質問は受けつけません。あたしは笑顔にそんな意味を込めた。

 ゼノンさんはそれを感じ取ったのか、深く追求はしないでいてくれた。


「じゃあ、俺たちも行こうか」

「俺たち?」

「君と俺だよ。君のことはディオンに頼まれてるから」


 そうなんだ?

 なんだかんだ言いながら、ディオンさんは気配りしてくれてるんだね。

 でも――。

 あたしがちらりとゼノンさんを見上げると、ゼノンさんはにこりと爽やかに笑った。


「なんだ、俺の家族との再会を邪魔してるとか思ってるの?」

「だって、そうですよね?」

「そんなこと、気にしなくていいよ」


 気にしなくていいとか言われても――いいのかな?


「ディオンは当分忙しいからね」


 略奪した品々を配当したりしなくちゃいけないってことかな?

 確かに忙しいよね。当分、あたしに構ってるゆとりはないんだ。

 予習、復習あるのみ、か――。


「はい、お手をどうぞ」


 って差し出された手は、爽やかな笑顔に似合わないくらい大きく感じられた。


「お姫さま扱いですね?」


 思わず笑ったあたしに、ゼノンさんはうなずく。


「ミリザはお姫さまだよ」


 ゼノンさんはきっと天然タラシだ。全然構えてないのにそんなこと言う。

 そういえば、倒れたあたしを運んでくれた時もお姫さま抱っこだったような。

 でも、エセルと違って紳士だからいいか。


「ありがとうございます」


 あたしはその手を取ってパハバロス島へ降り立つ。


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