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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅸ・未来と絆と海賊船
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㉔手紙

 あたしは、これから一人で生きて行く。

 はっきりとそう決めたんだ。


 あたしはまた情に流されてディオンを裏切るかも知れない。そばにいることで、もう迷惑はかけたくない。

 だから、エピストレ語の知識を二度と使わないように船を降りる。パルウゥスと関わることのない場所でひっそりと暮らす。


 もう船には乗らず、島の中で暮らして行けたらと少しだけ思った。そうすれば、ディオンの許可なく島を出ないっていう約束は果たせるって。

 でも、あたしは自分にそれを許しちゃいけない。

 優しいみんなに囲まれて、あたしは自分がしたことの重みを忘れてしまうから。


 あたしはシー・ガル号に戻ると、パルウゥスたちが船を漕ぐそばでペンを取った。いつもこうしてエピストレ語の予習復習をしていたから、みんなは違和感を覚えていないみたい。


 あたしが今書いているのは、みんなに宛てた手紙なんだ。黙っていなくなるとみんなはあたしを捜すかも知れないから、あたしは自分の意思で出て行くんだってちゃんと伝えなきゃいけない。

 力がこもりすぎて、書き初めにキュッとペン先が紙に引っかかって滲んだ。



 ――ヴェガス


 いつもあたたかな眼差しで包み込んでくれたあたしの理解者。

 ヴェガスに会えなかったらあたし、もっと心に壁を作ったままでいたと思う。

 ありがとう。大好きだよ。

 アリスや子供たち、スタヒスたちと仲良くね。

 トリストラム号のエルミスたちのこともよろしく。

 きっとヴェガスなら、あたしの心を溶かしてくれたみたいに接してくれるよね。

 ヴェガスのこと、忘れないよ。



 エピストレ語でそう記す。

 涙を隠しながら紙をめくった。



 ――ファーガスさん


 たくさんのことを教えてもらいました。

 時に厳しく、優しくあたしに接してくれて、すごく嬉しかったです。

 いつも心配ばかりかけてごめんなさい。

 一緒に働けて幸せでした。

 本当にありがとうございました。



 ――マルロ


 越えてみせろなんて言っておいて、急にいなくなって怒ってるよね?

 でも、あたしがいなくてもマルロは大丈夫。

 マルロは強くなったから。

 これからはマルロがマリエラやご両親を守ってね。

 マルロのヴァイオリン、大好きだったよ。

 もう聴けないのは残念だけど。

 ありがとう、あたしの相棒。



 また、紙をめくった。



 ――ゼノン


 優しいゼノンにあたしは甘えるばかりだったね、ごめんなさい。

 拳銃もせっかく教えてくれたのに、もう使うことはないね。

 シャルもお返しします。貸してくれてありがとう。

 ゼノンの気持ちに応えられなくてごめんね。

 いつまでも優しいゼノンでいてね。

 勝手なことばかりって怒るかな。

 ありがとう。



 ――エセル


 あたしがいなくなるのはエセルのせいじゃない。

 それだけはちゃんとわかって。

 これはあたしの決断だから。

 エセルは真剣にあたしを想ってくれてた。

 その気持ちはすごく、申し訳ないほどに感じれたよ。

 エセルがあたし以外の人をあたし以上に好きになれる日が来てほしい。

 ありがとう、ごめんね。

 お父さんとテルシェさんと仲良くね。

 怪我が早くよくなるように祈ってる。



 そうして……。



 ――ディオン


 許可なく離れて行くことを謝ります。

 それをしないことがエピストレ語を習う条件だったのにって怒ってると思います。

 でも、あたしはみんなのそばを離れることにしました。あたしにはその資格がありません。

 最後まで勝手でごめんなさい。

 あたしのことは最初からいなかったものとして忘れて下さい。

 行くあてのなかったあたしを拾ってくれたことを感謝しているのに、こんな方法しか取れなくてごめんなさい。

 ディオンの人生がこれからも明るく広がって行くことを願っています。

 さようなら。

 そして、ありがとう。



 一気に書き上げた。

 ディオンに宛てた部分だけがよそよそしくなってしまったのは、あたしの気持ちがそうさせたんだ。

 大好きだった。でも、そんなことはもう書けないから。

 書きたくなる自分を抑えるためにこんな文章になった。


 ……泣くな。自分で決めたんだから。

 あたしはインクが乾いたのを確認すると、その手紙の束を畳んであたしがいつも寝ているシーツの下へ入れた。それから、シー・ガル号に戻ってからあたしの手に帰って来た拳銃シャルをつづらの中から取り出してそれもシーツの下へ入れた。


 レオンを埋葬するために、ディオンはどこかへ船を着ける。とても島までは持たないから。

 そこであたしはみんなと別れよう。


 多分それはすぐのこと。

 あたしは漕ぎ手座の太鼓のリズムを体に刻むように目を閉じた。

 海を見るたび、この日々を思い出すんだろうな。


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