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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅰ・夢と希望と海賊船
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⑯身の振り方

 あたしがやっと目を覚ましたのは、その翌日だったらしい。


 あれ? 天井が……ここ、倉庫の中?

 あたし、どうやってここまで来たんだろ? 覚えてないなぁ。

 ちょっと寝たらすごく楽になった。……熟睡してたから、案外静かだったのかな?

 もううるさいとか言われなかった。


 そっと扉を開くと、船長室の机にディオンさんがいた。あたしが起きたことに気づいたみたいで、こっちに視線を向けた。

 あたしは一瞬、扉を閉めて閉じこもろうかと思っちゃうくらいに顔が合わせづらかった。でも、今更遅い。

 ディオンさんはよく通る声で言った。


「起きたか。こっちへ来い」


 うぅ、呼ばれちゃった。

 仕方なく、あたしはディオンさんのもとへ行く。肩を落として、苦情のひとつくらいなら受け止めるつもりだった。

 すると、ディオンさんは言う。


「お前は厄介なヤツだな」

「スイマセン」


 謝ると、ディオンさんは嘆息した。


「……もうすぐこの船は島へ着く。その後でお前はどうするつもりだ?」

「どうって……」


 言いよどんであたしは言葉を切った。


「一人で生きて行けるように働き口をまず探したいと思ってます」

「島でか?」

「とりあえずは無一文ですから、お金を貯めて他の土地に行くかも知れませんけど」

「島で働くには許可が要る。お前はまずその許可を取得しなければいけない」

「え!」


 そんなの要るの?

 なんて面倒くさい……。


「お前が乗っていた船はアレクトール王国ランドの方角から来た。お前はすくなくともルースター国民じゃないだろう?」

「ええ、まあ」


 国なんて捨てたようなものだけど。


「そう簡単に許可は下りないな」


 ディオンさんの言葉にあたしは意気消沈してしまった。希望いっぱいで飛び出して来たのに、現実は厳しい。


「結局、体を売るしかないってことですか……」


 がっかりしてつぶやいたあたしにイラついたのか、ディオンさんは不機嫌な顔を向けた。


「大人しく家に帰れ。家出娘が」

「嫌です」

「戻るつもりがあるなら、次の航海の時に途中までなら乗せて行ってや――」


 あたしは机の上に力いっぱい手をついた。


「嫌だって言ってるじゃないですか!!」


 叫んだ後、あたしはすぐに顔を上げられなかった。なんでもないって顔ができなかった。

 そんなあたしにディオンさんは呆れたように言う。


「何がそんなに嫌なんだ? 事情によっては最低限度の世話をしてやらないでもないが、大した理由でもなければ放り出すぞ」


 事情? そんなの言わない。

 赤の他人のディオンさんに頼れるなんて思ってない。このまま陸地に降ろしてくれたらそれだけでいいのに。


「あたしには帰るところなんてありません。それだけです」


 それだけ言うと、あたしはディオンさんの言葉を待たずに船長室の外へ飛び出した。そのまま一気に廊下を走り抜けて甲板へ出る。思いきり風に吹かれたい、そんな心境だった。

 船べりに手をかけて空と海を眺める。潮風があたしの髪や服を揺らした。

 どこまでも続くと思っていた海の先には島が見えた。あたしはハッとしてそこに釘づけになる。

 そうしていると、隣にはエセルがいた。


「どうしたの?」


 なんか普通に接してくる。なんにもなかったみたいに。

 あんなの、エセルにしたらなんにもなかったのと同じなんだ。あたしが気にするだけ無駄かも。


「どうもしない」


 それだけ答えたあたしに、エセルはクス、と笑って先に見える島を一緒に見た。


「あれがパハバロス島――僕たちの故郷だ。小さいけど、こうして見ると綺麗なもんだろ?」


 確かに、緑が豊かで綺麗だ。あたしはこくりとうなずいた。


「うん……」

「きっと住み心地はいいはずだから、ミリザも気に入るよ」


 あれ? なんか優しいな。

 あたしがぽかんとエセルを見ると、エセルは嬉しそうだった。


「惚れた?」

「さすがにそれはないけど」

「ないの? 残念。気長に待つか」


 え゛、待つの?


「だって、ディオンがああ言うなら、ミリザが僕を好きになってくれるしかないだろ?」

「えーと……」


 すごいな、この人。真剣にそう思っちゃった。図太い。


「弱ってる時に優しくされるとなびかない?」

「……そういうこと言わなければ、かな」

「おや? 失敗したね」


 そう言って笑うから、あたしもちょっとだけ笑った。そんなあたしを見て、エセルは言う。


「笑った」

「おかげ様で」


 よかった、と言ってエセルはあたしの頭を撫でた。

 こうしてほだされるとそのうちに痛い目に遭うのかな?

 でも、底辺だった好感度がちょっとだけ上がったような気もする。


 ああ、どうしようか。あの島に着いて、それからどうする?

 でも、そんなことは着いてみないとわからない。今から心配してもどうにもならないんだから、その時になってひとつずつ乗り越えて行ければいい。

 ――だよね?


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