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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅸ・未来と絆と海賊船
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⑤苦悩

 あたしはそのままエセルと別れると、パルウゥスたちの集落に向かった。今はとりあえずヴェガスに会いたかった。会って話をしたかったんだ。

 気持ちが急くからか、気づいたら駆け出してた。集落の手前で落ち着きを取り戻してペースを落とす。

 あたしはそのまままっすぐにヴェガスの家に向かった。みんなに挨拶を交わしながら。


 小人族パルウゥスの住居はあたしたちのに比べると全体的に小さい。日差しをたっぷりと浴びた茅葺の屋根を眺めながらあたしは急いだ。

 今はまだ、みんなに戦いのことを伝えるのはためらわれる。だから道中、普段と変わりなく振舞ったつもり。戦いのことはあたしが伝えるよりもヴェガスからみんなに言ってもらった方がいい。


 ヴェガスの家の扉を叩くと、ヴェガスの奥さんのアリスが迎え入れてくれた。そうして少し手狭な入り口から中に入ると、ヴェガスが奥からやって来た。

 ヴェガスはいつも察しがよくて、笑顔で接するあたしの様子からでも何かを感じてくれたんだろう。アリスに子供たちを託すと、リビングにあたしと二人、ぽつりと残った。小さめの椅子に腰かけて、あたしはヴェガスと机を挟んで向かい合う。


「ヴェガス、あの……」


 どう話そう。考えがまとまらないままに口を開いた。

 ヴェガスは神妙にうなずく。


「このところ、海が騒がしい。あまりよくない騒がしさだ。そのことだね?」


 パルウゥスたちは基本的にエピストレ語しか話せない。けれど、この島で彼らを束ねるリーダー格のヴェガスだけはあたしたちの公用語を話す。ヴェガスは発明なんかも好きだし、パルウゥスたちの中でも特に頭がいいんだ。


 でも、ヴェガスが公用語を理解しているのは内緒。ディオンも誰も知らない。あたしにだけ打ち明けてくれた秘密。

 あたしはヴェガスの言葉にうなずいた。


「うん……。戦いが起こるって」


 苦々しい思いでそう答えると、ヴェガスもあどけなく見える顔をしかめた。


「戦いか。ディオンからほのめかされてはいたけれどね。我々も生きるために奪う生活をしている以上、一方的な非難はできない。けれど、虚しいものだ」


 そうだね。本当にそう。


「戦に多くの船が出る。ならば多くの同胞が鞭打たれ、船を漕がされることになるのだろう。私たちのように恵まれた環境にいる者の方が圧倒的に少ないのだから」


 意思の疎通が困難だけど膂力のあるパルウゥスは、捕まれば奴隷として船を漕がされる。言葉を理解しようとか分かり合おうなんて考えてくれる人ばかりじゃない。伝わらないなら恐怖で支配して、鞭の痛みで伝えればいいって。

 悲しいけど、そのすべてを救ってあげることはできないんだ。だから、ヴェガスも苦しんでる。


 あたしはディオンの考えをヴェガスに伝えた。あたしがパルウゥスたちの通訳としてシー・ガル号に乗るって言ったら、ヴェガスは愕然としてた。


「それは……」

「うん、あたしなら大丈夫」


 ヴェガスは何が大丈夫なんだって顔をした。


「通訳が必要なら私がシー・ガル号に乗ろう。私がエセルバートの指示を伝える。それでいいだろう」

「ヴェガス、公用語が話せるの秘密にしておきたいんでしょ?」

「さすがにそんなことを言っている場合ではないよ」


 あたしのためにそう言ってくれるのは嬉しい。でもね、それじゃ駄目だ。


「主戦力はヴァイス・メーヴェ号の方なの。だからあっちの方が主力を集中させなきゃいけないし、難しい動きになるから、ヴェガスがいないと無理だよ」


 危ない方の船に乗れっていうのも申し訳ないんだけど、でも――。


「シー・ガル号は頭数として用意するだけで戦うためじゃないっていうし、そんなに危険はないと思う」

「だが……」

「ヴェガス、ディオンをお願い」


 ヴェガスに一番言いたかったことはこれなんだ。

 あたしは別の船に乗る。戦いの真っ只中に赴くディオンのそばにはいられないんだ。必ずまた会えるって保証はなくて、考えたくないけど勝てる戦いなのかどうかもわからない。あたしは、あたしがどうにかなるよりもディオンがいなくなってしまうことの方が怖いんだ。


 ヴェガスはそんなあたしの気持ちをわかってくれてる。だから、それを言われると何も言えないみたい。

 パルウゥスのみんなにしても、ディオンに何かあったら困るはずだから、ディオンの補佐をすることはヴェガスにとっても重要なはず。ただ、そのためにあたしを犠牲にするような気分になってしまうのかな?


 ヴェガスは苦悶の表情だった。

 だから、あたしは言ったんだ。


「ねえ、ヴェガス。あたしはあたしの心に忠実に動いてる。ヴェガスが以前言ってくれたみたいに、この島に根を張って生きて行きたいって思えるから、今ががんばり時なんだよ。この戦いが終わったら、きっと落ち着いて暮らせるって信じてる」

「……そう願いたいね。ミリザ、決して無理はしないように。せめてスタヒスをつけるよ」


 スタヒスはヴェガスの片腕。ありがたいな。

 あたしは精一杯笑ってうん、とうなずいた。


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