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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅷ・都と檻と恋敵
154/191

㉑聞きたくない言葉

 船に戻った時、みんなが出迎えてくれた。


「ディオン、大丈夫だったかい?」


 ファーガスさんはディオンの顔を見るなりほっとした様子で表情を和らげた。

 ディオンは不敵に笑ってみせる。ほんと、強がりだよね。


「ああ、見ての通りだ。陛下にはちゃんとご理解頂けた。私掠免許も取り上げるつもりはないと仰って下さったしな」


 うん、終わりよければすべてよし、ということで。

 なんてディオンの後ろで思ってたあたしに、ファーガスさんはニコニコと笑顔を向けた。


「ミリザ」


 ギク。


「その格好はなんだい?」

「あ、や、色々あって」


 イヤー、怖い! でも、ディオンは庇ってくれる気がない!

 そういえば、マルロはさっきからあたしのこと睨んでるけど、ゼノンとエセルがいないような?


「ファーガスさん、ゼノンとエセルは……?」

「どこかのじゃじゃ馬娘を捜しに行ったっきりだよ」


 ぐ。

 ディオンが呆れたようにため息をついた。ファーガスさんも段々と厳しい面持ちになる。


「あの状況でいなくなったら、もう戻るつもりはないのかと心配させるとは思わなかったのか? あんな変な伝言ひとつで納得するわけがないだろう」


 あの子、一応伝えてくれたんだ。

 でも、あれだけじゃ十分ってわけにはいかなかったね。


「あんまり細かいこと言ってられない状況だったから、ごめんなさい」


 一応素直に謝ったら、ファーガスさんはまたニコニコした。でも、でも、目が全然笑ってない!


「次はないよ?」

「……はい」


 しょんぼり。

 ディオンはいい薬だとでも思ってるのか、やっぱり放置だ。



 ディオンは全員戻って来たら島に戻るって言った。

 あたしはとりあえずこの格好は落ち着かないからいつもの服に着替えることにした。パルウゥスのみんなにはあたしがいなくなったってことを伝えられる人が誰もいなかったのが幸いした。みんなが物珍しそうに、その格好はどうしたの? って訊いて来た。

 似合うとか可愛いとか褒められて浮かれていられる状況でもなかったんだけどね。


 そこははぐらかしつつ、ディオンが無事に戻ったことを伝えた。みんなは素直に喜んでる。

 ヴェガスだけは何か察してるっぽいな。何も言わないんだけど、ちょっと目が厳しい。

 はい、心配ばっかりかけてごめんなさい……。



 そうして着替えると、あたしはちょっとおなかが空いたなって思った。多分ディオンも空いてるんじゃないかな? バタバタして夕食どころじゃなかったし。

 あたしは厨房へ行くと、リゾットでも作ることにした。二人分くらいならすぐだ。エセルたちが戻っておなかが空いてたらまた追加で作ればいいや。


 トントン、とベーコンを刻んで、トマトも切って、ハーブも少し。最初にベーコンを炒め始めた頃、ひどく荒っぽい足音が廊下を駆け抜けた。

 ドン、って壁に勢いよく手をついた音もしてあたしは振り返った。


 そこには息せききったエセルがいた。ちょっと怖いくらいの視線をあたしに向けると、何かを言うでもなく駆けつけて調理するあたしを抱き締めた。手加減がまるでなくて痛い。


「ちょっ……危ないよ」


 少しの抵抗くらいじゃびくともしないどころか、あたしが力を込めたら余計に締めつけがきつくなった。軽口ばっかりでお喋りのエセルが何も言わない。


「エセル?」


 恐る恐る声をかけると、エセルはかすれた声で言った。


「もう戻って来ないつもりなのかと思った」

「戻るって伝言したでしょ?」

「あんなの信用できるわけないじゃないか」


 エセルがこんなに心配してくれてても、あたしはあの時ディオンのことしか考えられなかった。そのことが心苦しくて、あたしはどうしていいのか困った。


「えっと、夜食作ってるんだけど、エセルも食べる?」


 当たり障りのないことを言ったあたしの言葉をエセルは聞き流した。


「こんなに好きなのに。ミリザはひどいな」

「いや、あたしは――」


 ディオンが好きだって言ってるじゃないって言いたかった。でも、エセルが息が詰まるほど締めつけるから苦しくて何も言えなかった。


 ジュウジュウとベーコンの焼ける音とにおいがする。……焦げるよ。

 結構長くそうしてた。やっぱりベーコンは焦げた。勿体ないな。

 でも、いつも身綺麗なエセルがどこかくたびれた様子であたしを探し回ってくれてたのは本当。


「……ごめんね」


 エセルの腕がゆるんだ途端、すぐに体を離した。そう言うと、エセルは意地悪な顔をした。


「それ、一番聞きたくない言葉だよ。大体、迷惑だろうと気持ちは押しつけるから」


 えっと……。

 まあ、しつこいのはあたしも同じだから人のことは言えないのが苦しいところ。

 押しつけるって言いながらもこれ以上言うとあたしが困ると思ってくれたのか、エセルはそれから少しだけ穏やかに笑って言った。


「夜食、頂くよ。ゼノンもミリザのこと探してるみたいだし、あいつの分も戻ったら作ってやったら?」


 う。ゼノンもごめんね。


「はい……」


 焦げたベーコンを諦めて切り直すあたしの背中を、エセルがずっと見つめている気配があった。

 やりづらい。でも、ちょっと悪かったなって思うから我慢した。

 こんなに想われても一番ほしい人の心は別なんだ。贅沢かも知れないけど、自分に嘘はつけないから、やっぱりごめんねって心で謝った。



     【 Ⅷ・都と檻と恋敵 ―了― 】


以上でⅧは終了です。

お付き合い頂いてありがとうございました!

ぼちぼち物語は終盤へ、です。Ⅸが終章になります。

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