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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅷ・都と檻と恋敵
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⑫準備って

 酒場の外へ出てまず、ヘイリーは意外なことを訊いて来た。


「お前、メシは?」

「え? ……えっと、朝食食べたっきり?」

「そうか。じゃあまず何か食べるぞ。その後、いつ食えるかわからないからな」


 なるほど。気が利くな。


「食べさせてくれるんですか? ありがとうございます」


 あたしが素直に言うと、ヘイリーはどこか楽しそうだった。なんか悪巧みしてるのかななんて勘繰っちゃう。


「まあ、時間が惜しいからな。簡単に済ませるぞ」

「うん、十分です」


 ディオンはマズイ牢屋の食事を食べてるんだと思うと、自分だけ美味しいものなんてほしくないし。

 ヘイリーは下町のパン屋であたしを店の前に待たせてホットドックを買って来た。歩きながら食べろってこと。


 昔、仕事を掛け持ちしてた時は時間が惜しくてよくこういうことしてたな、なんて懐かしく思い出した。ヘイリーにお礼を言ってホットドックにかぶりつく。粒マスタードが利いてて、思った以上に美味しかった。ペロッと食べちゃう。


「ご馳走さまです! 美味しかった」


 感謝を込めて笑いかけると、ヘイリーはちょっと笑った。


「安上がりな女だな」

「まあ」


 貧乏生活長かったもので。

 別に卑下するつもりもないから笑って返した。そうして、下町を歩く。向かう先はどこだろう?

 でも、ヘイリーはどうやら大通りに出るみたいだった。あたしはキョロキョロと周囲に気を配りながら歩く。


「お前、挙動不審だぞ」

「だって、船から降りる許可もらってないんです。見つかったら怒られます」


 いや、心配かけてるのはわかるんだけどね。だからって待ってるだけじゃ駄目なんだ。

 勝手な言い分だけど、少しだけ自由にさせてほしい。

 ヘイリーはそんなあたしにちょっと呆れたみたいだったけど。


「準備って、具体的には何をするんですか? そろそろ教えて下さい」


 あたしが訊ねると、ヘイリーはすぐにわかるって曖昧な返答をした。すぐっていつよ?

 そうして大通りに出た。……大通りは人が多い! 知り合いいないよね!?

 あたしはこそこそとヘイリーの陰に隠れて歩く。うん、人込みだからこそ紛れるにはいいかも。


 大通りをまっすぐ歩いてしばらくすると、ヘイリーはそのうちのひとつの店にあたしを押し込んだ。あたしもさっさとどこかに入りたかったから、その店がなんなのかを確かめもしなかった。


「いらっしゃいませ」


 お上品な挨拶にあたしは振り返る。

 え? 何ここ?

 キラキラした店内。色とりどりの高そうなドレスが飾られてる。


 ……。

 ひと言で言うなら、あたしの人生で縁のない場所――なんですけどね。


「あの、準備ってどういう……」


 思わずヘイリーに訊ねると、ニヤニヤと笑いながら言われた。


「お前の身なりをもう少し見られるように整えるってことだ。その貧乏臭い格好であの人に会いに行っても門前払いだからな」


 うっわぁ。

 ヘイリーはあたしの顔が引きつったのなんてお構いなしに店員さんに言った。


「こいつに合う服を見立てて、多少は見られるようにしてくれ」


 見られるようにって、どういう意味だ!

 ――いやいや、怒っちゃいけない。協力してくれてるんだから。

 あたしは店員のおねえさんににっこりと笑って大人しくする。定員さんはかしこまりましたってヘイリーに頭を下げてた。


 赤い垂れ幕の裏側の試着室に連れて行かれたんだけど、ため息が出ちゃう。正直に言って、あたし、こういうの苦手なんだよね。

 フリルとかリボンとか、ゴテゴテしたの嫌。マリエラの乙女な服も似合わないし……。

 今まで、オシャレより食べることに必死だったんだって。だからって、オシャレに憧れたりしなかった。まあいいやって思ってた。

 それがこんなところで……。


 興味のないあたしは終始お任せしますで通した。店員さんはやりづらかったかもね。スイマセン。



 で、着替え完了。……これって変装ってことかも知れない。

 鏡を見るとそうとしか思えない。

 あたしは店員さんにお礼を言うと試着室から出た。大股で歩かないように気をつけつつ。

 壁にもたれて待ってたヘイリーの前に出て、腰に手を当てて立った。ちょっと仏頂面なのは落ち着かないからだ。


「どうですか?」


 純白のドレス。でも、でっかいリボンが黒くてアクセントになってる。ふんわりとしたスカートとハイヒールが歩きづらい。髪は下ろして、真珠の髪留めをこめかみの辺りにつけてもらった。

 ヘイリーは満足そうにニヤリと笑った。


「ふぅん。黙ってりゃ令嬢に見えるな」

「ありがとうございます」

「手放すのが惜しくなるな」


 はいぃ?

 あたしが固まると、ヘイリーは更にニヤニヤする。かと思ったら、急に真面目な顔つきになった。そうしてると少しは貴族っぽいけど、いきなりだから不気味……。


「なんて、そんなことを言ってる場合じゃないんだよな、正直」

「へ?」

「今回のことは早急に解決しないと。お前が思ってる以上に事態はややこしいんだ。精々がんばってディオンを取り戻して来い」


 よくわからないけど、不吉なこと言うなあ。

 ややこしい事態っていうのがなんなんだかはわからないけど、ディオンのことは取り戻す。それでいいわけだよね?


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