表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅰ・夢と希望と海賊船
12/191

⑫ヒソヒソ話

 その日の夕食はニョッキ。またしても芋を剥いた。今日はマルロと競争で芋を剥いた。まだあたしの方が断然速い。マルロは悔しそうだったけど、こうやって特訓すればすぐに速くなるよ。悔しいって気持ちはすごく大事。


 そして、あたしたちが剥いた芋をファーガスさんが茹でる。それを潰して、粉と塩を加えて、手早くまとめる。ここがポイント。こねすぎるとふわっとした食感にならない。

 で、小さく千切って、また茹でて――。


「できたよ。さあ、配ってくれ」


 チーズが溶け込んだソースと香草が絶妙でいいにおい。うん、おいしそう。


「じゃあ、行って来ます!」


 今回は運ばなきゃいけないものが少ない。鍋にふたをして、その上に木皿の乗ったトレイを乗せれば一人で運べる。マルロはとりあえず、ファーガスさんの手もとを手伝ってた。


「こぼすなよ」


 そんな憎まれ口を言えるゆとりが出たのはいいことだよね。



 そして、あたしがパルウゥスたちのところへ行くと、そこには彼ら以外の人物がいた。低い板で仕切られた漕ぎ手座で、懸命に櫂を動かすパルウゥスたちのそばの通路に立ってる。


「Λίγο περισσότερο」(もう少しだ)

「Ναι」(はい)


 返事をしたのはヴェガスだ。

 その凛と澄ました横顔は、ディオンさん。船長だから船内の様子を見て回ってるのかな。

 隙間からこぼれる夕日に照らされてて――なんかやっぱり綺麗な人だなぁ。男の人に綺麗って言って喜ぶかはわからないけど。


「Μην κουρασμένος? Τίποτα ή όχι?」(疲れていないか? 何か変わりは?)


 それにしても、流暢だ。あたしのたどたどしい発音とは全然違う。

 意味はわからないけど、あたしは思わずその声に聞き惚れてた。すごいなって、正直に言うと尊敬しちゃった。マルロが心酔するのもちょっとわかる。

 ヴェガスは少しだけ笑って答えた。


「Ενδιαφέρουσες πράγμα είναι ένα――」(面白いことがひとつ)

「Ενδιαφέρουσες?」(面白い?)


 何故かそこでディオンさんは複雑な顔をした。そして、そこでヴェガスはあたしが来たことに気づいてくれたみたい。


「Ω, ήρθες――」(ああ、来ましたよ)

「お疲れ様! ここでディオンさんと会ったのは初めてですね」


 あたしは一応挨拶したけど、ディオンさんは無視だった。まさか、ベッド占拠したことを根に持ってる?

 ヴェガスはディオンさんと喋ってるから、すぐにあたしのところへは来なかった。隣のスタヒスに向かって何かを言う。


「Πηγαίνετε αργότερα」(後で行くから)


 スタヒスはうなずくと、あたしのところに来た。


「今日はスタヒスからなんだね」


 あたしが笑顔でスタヒスを迎えてニョッキをよそい始めると、ディオンさんはようやくあたしに声をかけた。


「おい」

「はい?」

「今、なんて言った?」


 怖い顔でそんなことを言う。


「何って、いつもはヴェガスが最初に来るのに、今日はスタヒスからだなって」


 あたしが答えると、ヴェガスは怖い顔をしているディオンさんの隣で笑った。


「Έχει είπε να θυμηθεί το όνομα του καθενός.Για εμάς με ένα αναγνωρίσιμο.Μην ενδιαφέρον?」(彼女はみんなの名前を覚えてくれました。見分けてくれるんですよ。面白いでしょう?)

「Απίστευτος」(信じられないな)


 って、ディオンさんは髪を掻き上げる。……さすがにそんな会話には入っていけない。

 あたしは気にせず次にいたクロノスにニョッキを手渡す。


「Σας ευχαριστώ」(ありがとう)

「どういたしまして」


 そう言ってから、あたしはハッとしてディオンさんに向かって大声で訊ねた。


「ディオンさん、ディオンさん、『どういたしまして』ってどうやって言うんですか?」


 ディオンさんは厳しい顔でぼそりと言った。


「Ευχαρίστησή μου――だ」


 ちょっと難しい。でも、言えるようになりたい。よし。

 次に来たのはアダリス。ニョッキを差し出す。


「Σας ευχαριστούμε」(ありがとう)

「えと――Ευχ αρίστ ησή μου……」(どういたしまして)


 いきなりあんな流暢には無理だけど、なんとか聞き取ってくれたかな? そばかすのあるアダリスはうなずいて笑顔を向けてくれた。ほっ。

 そんなあたしの様子に、ヴェガスとディオンさんはまだ内緒話だ。うう、そのうち内緒話なんてできないくらいにパルウゥスたちの言葉を覚えてやる。


「Είναι σκληρά εργαζόμενος.Και, φιλικό.Ο καθένας θα την αγαπώ」(彼女は努力家です。そして優しい。みんな彼女が大好きですよ)

「Έμεινα έκπληκτος」(驚いたな)


 って、ディオンさんは嘆息した。そんなディオンさんに、ヴェガスは優しく言う。


「Παρακαλούμε να αγαπάμε την」(彼女を大切にしてあげて下さい)


 難解すぎて全っ然わからない!

 ディオンさんは渋々って顔をしてつぶやいた。


「Δεν θέλουμε να σας προσβάλω παιδιά」(お前たちを敵に回したくはないな)


 わからないってもどかしい。

 早く上達したいなぁ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング ありがとうございました! cont_access.php?citi_cont_id=901037377&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ