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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅶ・失意と旋律と愚者火
117/191

②聞いた話によると

 のんびりとしたパハバロス。でも、現在島ではちょっとした事件が起こっていた。

 これから言うことは、全部後になって聞いた話。

 誰からって言うとね、マリエラから。

 あたしが水練をしていたその翌日の夜のこと。


 マルロの部屋で、マリエラはマルロと一緒に不思議な灯りを見たんだって。窓の外にぼんやりと。

 マルロの部屋は二階で、見晴らしがよくて海がよく見える。そのともしびは海の上にあったんだって。


 最初は小舟か何かかと思ったみたいだけど、それにしては波に揺れている様子もなかった。正直、気味が悪かったって。

 だからマリエラはもう見るのよそうって言って窓を閉めた。マルロは怖くないわけじゃなかったと思うけど、少し意地っ張りだから。あんなのただの超常現象ですぐに消えるだろって言ってたみたい。


 その日の晩は、二人とも気になってたけどそこまでだったんだって。

 朝になって、マリエラはあの灯りがすごく悪いものかも知れないって不安になって、マルロと一緒に教会かディオンのところに行こうって言った。

 そうしたら、マルロは自分は浜の様子を見て来るからマリエラが一人で神父さんかディオンかに知らせろって言ったみたい。


 自分が怖がってるなんて思われたくなかったんだろうってマリエラは言ってた。さすが双子の姉。よくわかってる。

 まったく、背伸びしたいお年頃なんだから。


 でもね、そこでマルロを一人で浜に行かせたことをマリエラは今、すごく後悔している。



 マルロは浜で平たい木箱を見つけたんだって。しっかりと鎖が巻きつけられて鍵がかかっていたけど、古い鍵はマルロが触れたら壊れちゃったみたい。海を漂ってこの島へ打ち上げられたなら、鍵も弱ってたのかも。


 そうして、その箱の中には厳重に布と油紙で包まれた、古びたヴァイオリンケースが入っていたんだって。そうして、それを開けた……。


 海を漂っていたヴァイオリン。そんなの痛んでると思うんだけど、古びていても大きな傷や損傷はなくて、その鈍い艶は触れたくなるには十分だったみたい。


 マルロは上手にヴァイオリンを弾く。そんなマルロがこれを見つけたことはある意味運命だったのかな。

 ひと目見た時からマルロはそのヴァイオリンに魅入られていた。マリエラが神父さんを連れて浜に来た時、マルロはこれを手に入れた経緯を話してくれたけど、意識はずっとそのヴァイオリンに向けられていたって。

 マリエラや神父さんがそのヴァイオリンを取り上げるんじゃないかって疑うような目を向けたらしい。


 神父さんがそのヴァイオリンに触れないようにって言った瞬間に、マルロは人が変わったみたいに神父さんを睨みつけた。マルロは生意気だけど、誰にでも反抗的なわけじゃない。神父さんに逆らったことはなかったんだって。


 そうして、その言葉を無視してヴァイオリンを手に取ると、そのまま逃走したらしい。

 で、近くの小屋に逃げ込んで篭城してるんだってさ。中から鍵をかけて閉じこもってる。でも――。

 中からは絶えずヴァイオリンの音がするらしい。弾いているのはマルロのはずなんだけど、音が違うってマリエラは言う。マルロはあんな弾き方はしないし、その曲も聴いたことがないって。


 神父さんは、あのヴァイオリンに悪魔がついていて、マルロの体に乗り移ったんじゃないかって怖いことを言い出した。まずはここから引きずり出すことが先決だって話になって、マリエラはディオンを呼びに来たんだ。今は双子の両親が小屋についてるらしいけど。



 これだけの情報を一気にまくし立てるようにして吐き出したマリエラは、気丈に話していたと思ったら急にぼろぼろと涙を零してディオンに抱きついた。ディオンは慰めるようにしてマリエラの髪を撫でる。こんな状況だからか、あたしの時とは随分と扱いが違わない? ――なんて言ってる場合じゃないんだけど。


「……ディオン、バースさんの作業小屋だ。急ごう」


 一緒に話を聞いてたゼノンも厳しい面持ちで促した。

 マルロ……。大丈夫かな。

 

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