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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅶ・失意と旋律と愚者火
116/191

①自主トレ

Ⅶ(全18話)になります。

 ギュ、とあたしはシャツの裾を胸の下の辺りで縛った。ショートパンツに足は裸足。

 柔らかな砂浜に立って上を見上げた。ちょっと薄暗い宵闇の中。これくらいがちょうどいいや。


 ここはルースター王国ランドの南部パハバロス島。

 あたし、ミリザ=ティポットが厄介になっている海賊たちの本拠地でもあるんだ。海賊なんて言ってもちゃんとした私掠免許を持ってて、貴族令息のディオンが筆頭。狩りで得た財の一部を女王陛下に献上してるし、ただの荒くれってわけじゃない。

 あたしはたまたまその私掠船に乗り合わせることになったんだけど、行く当てもないから、成り行きでここに置いてもらってる。


 まだ一年も経ってない。でも、結構いろんなことがあった。

 島での硝草採りもスリリングだったし、王都にも行った。魔女の孤島に灼熱のククヴァヤ島で宝探し。で、同じ海賊船にも出くわしていざこざがあったり。


 うん、割と危ない目に遭った。銃が得意なゼノンに拳銃の扱いを学んでるけど、それだけじゃ身を守れないんだって思うことがあった。

 だからね、あたしは独自でディオンから習ってるエピストレ語とゼノンから習う拳銃の他に自主的にひとつつけ足すことにした。


 それが泳ぎの練習。

 海に落ちた時、全然泳げなかった。ロングスカートだったせいもあるんだけど、そうじゃなくても多分とっさには泳げなかった。だから、今後のために少し練習しておいた方がいいなって。

 ディオンたちはみんな泳ぎが達者なんだもん。あたしも少し泳げるくらいじゃ駄目だ。


 伸ばし放題の長い髪もくるっとひとつにまとめた。海の中で邪魔にならないようにしないと。

 さ、準備体操。軽く手首足首を回して屈伸する。


 そうしてあたしは海に入った。海水は昼間よりは温度も低いけど、それでもこの常夏の島では致命的に体温を奪われるほどじゃない。浜だから足は十分につくし。

 そのまま波を蹴るようにして歩く。足の指に砂が挟まった。海面があたしの太ももの辺りまで来る。そのまま進むと、ショートパンツに海水が浸入してちょっと気持ち悪い。水の抵抗が一番なくて泳ぎやすいのは裸だって言うけど、さすがにそんな格好はできないんだから仕方ない。


「よし」


 あたしは思いきって潜った。手を、足を精一杯動かして水を切る。あんまり遠くに行って足が攣ったなんてことになったらシャレにならないから、なるべく足がつくところにいよう。


 バシャバシャバシャ。

 パシャバシャぷはー。

 えへへ、久し振りだからちょっと楽しくなって来た。



 ――なんて調子に乗ってたから、気づいたら結構暗くなっちゃってた。ランタンとか持って来てないし、あんまり暗くなると帰るの大変だ。

 ディオンは見当たらなかったし、ゼノンに言うと駄目って止められそうだから、メイドのリネさんにだけ言づけて来たんだ。そろそろ戻らないと夕食食いっぱぐれちゃうかも。


 あたしは足をつけて海の中で立ち上がった。そこから歩いて浜に戻る。波打ち際まで来て濡れた髪を絞っていると、背中に灯りが向けられた。その柔らかな灯りに振り返ると、そこにはランタンを手にしたディオンがいた。


「あ、ディオン」


 もしかして、帰りが遅いからリネさんから聞いてここに迎えに来てくれたのかな?

 忙しいディオンにそんなことさせて悪いと思う反面、ちょっと嬉しかった。でも、ディオンは顔をしかめている。いつもそんなだけどね。


「お前……」

「うん」

「馬鹿だろ」


 いきなり喧嘩を売られた。

 あたしが唖然としていると、ディオンはガミガミと言った。


「なんだその格好は! しかも今何時だと思ってる? お前、一応は女だろうが! 馬鹿じゃなければなんなんだ?」


 一応って……。

 いや、それより、その格好って?


「服着てるよ?」


 ショートパンツとシャツ。シャツはなるべく水の抵抗を抑えるのに胸の下までまくってるから腰の辺りは出ちゃってる。ちょっと体に張りついてるけど、白じゃないから透けないし。裸じゃない。


「そんなの着ているうちに入るか!」


 ディオンってこういうところうるさいよね。いいトコの坊ちゃんだからか、慎みがないとかよく言うし。

 あたしはそのまま、着替えを入れて置いておいたバスケットに近づく。縛ってあったシャツの裾を解くと、ディオンはギョッとしたようだった。あたしはにっこりと笑ってみせた。


「じゃあ着替える」


 ディオンは舌打ちして背を向けた。お、見る気はない? はいはい、どうせガキに興味なんてないとか言うんでしょ。あたしは岩場の陰で体を拭きつつ着替えた。


「はい、お待たせ」


 すっぽりと被れるワンピース。着替えは簡単。

 あ、振り向かない。何その意地。

 そんなディオンの背中に抱きついたら真剣に怒られた。ケチ。


「迎えに来たのがエセルだったらどうしたんだ……」


 なんてため息混じりに言われた。

 え? エセル……。


「着替え覗かれた?」

「……」


 なんでそんな複雑な顔して黙るの、そこ。

 あたし、結構危ないことしてた?

 今更ながらに反省して、自主水練は幕を閉じるのだった。

 

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