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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅰ・夢と希望と海賊船
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⑪対抗馬

 暗い……。

 深くて暗い闇。

 気づくとあたしはそのなかに独りでぽつりと存在する。


 誰もいない。何もない。

 あたしも……要らない?


 のどの奥から呻き声が漏れる。


 怖い。

 嫌だ。


 小さく悲鳴を上げて起き上がった。

 あたしはそばにあった何かにしがみついて、気づけば顔を埋めるようにして泣いていた。何もわからないただ、怖くて心細くて混乱してた。

 ひくひくとしゃくり上げているあたしの首根っこを、その『何か』がつかんだ。


「落ち着け」


 でも、あたしは更に力を入れてその『何か』に抱きついて、引き剥がされないようにしがみついた。涙をそこに押しつけて泣いていると、今度は額をぐい、と押されて引き離された。


「寝ぼけるな」


 …………。

 寝ぼけ?

 そばに立っているディオンさんの怖い顔を見た瞬間に、あたしは我に返った。


「あら?」


 そろ~り、とあたしは抱きついていたディオンさんから手を離して後ずさる。あ、ここってベッドの上?

 やっと状況を思い出した。ディオンさんの部屋で着替えさせてもらってたんだった。ディオンさんは部屋を占拠されて寝れないからあたしを呼びに来たんだ。


「オハヨウゴザイマス」


 あは、と笑顔を向けると、ディオンさんのこめかみに青筋が浮いた。


「とっとと出て行け」


 首根っこをつかんでそのまま寝室の外に出された。まるで猫の子でも捨てるみたいに。

 いや、怒っちゃいけない。仕方ない。

 あたしは気を取り直して伸びをしながら歩いた。やっぱりちゃんとした寝床はいいな。体が休まる。

 夢見は悪かったけどね。


 悪かったというか、ほんとは覚えてない。

 時々こういうことがあるんだ。夢の内容も何もわからないのに、悪夢にうなされたみたいな感じになる。パニックになって泣いて取り乱して起きるんだけど、理由はあたしにもよくわかんない。

 要するに、疲れがたまってるとああなるってこと?


 窓の外を眺めると、青い海と空が広がって、光が煌いてた。自由に飛ぶ海鳥が魚を取る。

 ん? 朝?


「あらら、ひと晩あそこで寝ちゃってた?」


 どうりで。そりゃあ疲れも取れるわ。



 あたしは恐る恐る厨房に行った。すると、ファーガスさんは特に何も言わずにあたしに仕事を振った。パルウゥスのところにご飯を持って行きたいって言ったら、もうマルロが行ったって言われちゃった。

 ショック。出遅れた。


 マルロは――あたしに背中を向けていた。こっちを向かない。

 謝れとか言うより先に、不満なら正面からぶつかってよと思わなくはない。とりあえず、このままお互いに無視するのはなんの解決にもならないし、あたしは普通に声をかけた。


「マルロ」


 その途端に、マルロは少しだけ肩を揺らした。でも、あたしの方を向かなかった。だからあたしは自分からマルロに歩み寄って顔を覗き込んだ。


「ねえ!」


 その途端に、あたしの目が点になった。


「……なんだよ」


 ぼそりとマルロは言った。あたしはとっさに言葉が出なかったけど、次の瞬間にはマルロの顔を両手でつかんで叫んだ。


「な、なんてことを! こんな可愛い顔を殴るなんてあり得ない!!」


 マルロの目の周りに青痣ができてる。これ、平手でぺしりなんて可愛いもんじゃなくて、ぐーで殴ってる! ディオンさん、『叱っておいた』なんて軽く言ってたから、ほんとに『めっ』って感じなのかと思ったら……。


 一人で騒いでたあたしの手をマルロは叩きつけるような仕草で放した。そうして、キッとあたしを睨む。あたしのせいって言いたいの?

 でも、それはちょっと違った。


「ボクが殴られるだけのことをしただけだ。ディオンは間違ってない」

「そっか」


 あたしに謝るつもりはないみたい。痛い目見てるし、もういいけどね。

 でも、あたしがあっさりとした反応を見せたのが余計に気に入らなかったのかも知れない。

 ほんの少し、目には涙が浮かんでいた。


「ボクはやっと船に乗せてもらえるようになったところなんだ。これからもっと役に立って、早く一人前になりたいのに、なんで……っ」


 なんで?


「お前みたいなのに敵わないなんて、冗談じゃない」

「え? なんかあったっけ?」


 あたしはマルロの言う意味がよくわからなかった。小首を傾げてると、ファーガスさんがあたしたちのそばに立った。


「芋の皮むきがミリザの方が早いからか? それとも、ディオン以外には寄りつかないパルウゥスたちがミリザを特別扱いするからか?」


 特別扱い? そうかなぁ?

 マルロはキュッと一度唇を結んでから言った。


「ボクが行ったら、あからさまにがっかりしてた」


 それ、マルロはベルを鳴らして食事を配る、ただそれだけの事務的なことしかしないからだよ。あたしは関係ないんじゃないかな。でも、そんなことはまだわからないみたい。


「マルロって、いくつ?」


 あたしが唐突に訊ねると、マルロは眉根を寄せながら答えた。


「十三」

「そうか、あたしの三つ下だね」


 そう言うと、マルロはムッとした。


「馬鹿にしてるのか?」

「なんで?」


 どこら辺を馬鹿にしていると言うのかがあたしにはわからない。だから言った。


「ねえ、三年後のマルロはあたしよりも早く芋の皮が剥けるかも知れない。それから、パルウゥスたちとも仲良くなってるかも知れない。そんなの、まだわからないよ。負けたくないって思うなら、張り合ってみてよ。マルロががんばれば、三年以内に抜いちゃうかも知れないよ」


 そうしてから、あたしはクスリと笑った。


「ま、そんな簡単に抜かれてあげないけど」


 マルロはあたしを睨んで、そうして強い口調で言った。


「大口叩いたこと、すぐに後悔させてやる」

「そう? 楽しみね」


 ファーガスさんは面白そうに眺めてる。マルロはこれから、あたしを倒すべくがんばるんだよね。うん、やっぱりエネルギーはそうやって使わなきゃ。


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