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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅵ・人質と月光と女海賊
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⑦ポイ捨て厳禁

 テコでも動かないなんて姿勢を取るとどうせまた担ぎ上げられるだけなんだから、あたしは渋々腹心の二人に連れられて歩いた。……空き部屋って言ってたけど、この狭い船の中、空き部屋なんてあるわけない。要するに、『無理矢理空けた部屋』だ。

 先に行ったアモスさんが荷物を適当にを放り出す。丸めた洗濯物がほとんどなんだけど。


「ここで大人しくしていろ。それから、あんまり船長にたてつくな。どうなっても知らんぞ」


 イーサンさんに野太い声でそんなことを言われた。ムッとして返事をしなかったら、ぽいって感じで船室に放り込まれた。

 バランスを崩して床に手をついたら、あたしが振り返るのと同時に扉は閉まった。鍵は内側には見当たらなかったけど、外には取りつけてあるのかな。ガシャンって音がした。


 壁に備えつけてあるベッドが四箇所。ただそれだけ。窓もない部屋だ。

 でも、扉には小窓がついてた。そこにカーテンがかかってる。と言っても、あたしの腕が通る程度の覗き窓だ。でも、カーテンの前にガラスにぶち当たって、あたしの位置から部屋の外を見ることはできなかった。くそう……。

 脱出は不可能?


 あたしはうぅん、と思案した。

 ここでできることは……仮眠。ただそれだけ?

 体力を温存するって意味ではそれもありかなと思わなくはないけど、とっさに動けないから止めておこう。

 脱出方法を考えても、思いついた頃には明日になってそう。明日になったらいったん外には出されるんだろうし。


 出せ出せって暴れてみようか? でも、そうしたら両手を縛られて猿ぐつわを噛まされるだけで状況が悪化する気しかしない。

 ここはひとつ、今晩は大人しくしておいて、ヒルデさんたちを油断させた方がいいのかも知れない。それで交渉の場になって逃げられたらそれがベスト?


 船の上だもん。上手く逃げるのは難しい。うん、その方がいい。

 考えがまとまったら、やっぱり結論としては仮眠がいいんじゃないかって気がして来た。――寝よう。

 起きてると嫌なことばっかり考えちゃうし。


 備えつけのベッドにゴロンと横になる。……このシーツ、干したのいつよ? なんか色が黄ばんでない?

 シー・ガル号はあたしとマルロとファーガスさんがいるからもっと清潔だもん。

 あたしは起き上がって他のベッドからまだマシなシーツを剥ぎ取って下に敷いた。その上に寝転び直す。

 そうしてると、やっぱり余計なことを考えてしまいそうになる。


 ディオンはあっさり人質に取られたあたしに呆れてるんじゃないかな、とか。厄介払いできたなんて思ってるんじゃないかな、とか。

 でも……。


 呆れてるなら叱ってくれていい。馬鹿にされたっていいんだ。

 だから、このまま捨てて行かないで。

 あたしはキュッとまぶたを強く閉じた。



     ☠



「――おい、どこか具合でも悪いのか?」


 いつの間にか部屋の中に誰かがいた。あたしは寝ぼけ眼をこすって起き上がる。あたしはその声が誰だかすぐにはわからなかった。顔を見てやっと認識する。アモスさんだ。


「え? 別に。することないから寝てただけです」


 正直に言うと、アモスさんは呆れたみたいだった。呆れられる筋合いはないはずなんですけど。


「図太い娘だな」

「面と向かって失礼なこと言わないでくれます?」


 あ、スルーされた。まあいいけど。

 アモスさんは嘆息すると立ち上がった。


「具合が悪くないならいい。もうしばらくそこにいろ」

「えー。じゃあ具合悪いです。出して下さい」

「……そんな元気な病人がいるか」


 いちいち細かい。でも、あたしが倒れてると思って気にかけてくれたのかな?

 アモスさんって、荒くれの海賊にしては理知的な印象だな。こういうタイプを出し抜くのは難しい。

 仕方なくあたしは言った。


「じゃあ、食事はいつですか? お風呂には入れますか?」


 すると、アモスさんは更に面食らった風だった。


「食事は後で運ばせる。ただ、風呂は諦めろ。ここは船の上だぞ?」


 でも、ディオンの船にはちゃんとついてるよ? でもまあ、確かにそんなものない船の方が多いのかも知れない。島の船大工は優秀だからできるのかな?

 そこでアモスさんは改めてため息をついた。


「まったく、ディオンたちが振り回される姿が目に浮かぶな」


 ん? なんか言いました?


「昔なじみだって言うなら、ディオンたちを困らせるようなことしないで下さい」


 どうせ通用しないだろうけど言ってみる。やっぱり、アモスさんは冷静に返して来た。


「お前の乗る船も私掠船だ。つまり、掠奪を生業とする。奪うこと、奪われること、それはこの海では当然だ。ディオンもそれは承知のはずが、まだまだ甘さが残っているな」


 奪うことを繰り返して来た船。自分たちが奪われることもあるんだって、少なくともあたしは考えてなかった。略奪は、自分たちにとっての正義に基づいていたとしても、それは悪行に変わりない。

 理由があれば許されるなんてこともなくて、生きて行くためっていう理由だって、他人を押しのけている時点で傲慢なのかな。


 それでも、そうすることでしか生きられないなら他を押しのけて生きることを選ぶ。だから、非難されても仕方がないのかも知れないけど――。


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