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夢と希望と海賊船  作者: 五十鈴 りく
Ⅵ・人質と月光と女海賊
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⑥怖いもの知らず

 完全に跳ね橋が外され、お互いの船が一定間隔を保って海を漂う。

 あたしは敵船にぽつり。孤立状態。

 ウラノス号の船べりからシー・ガル号を食い入るように見る。エセルとゼノンが何かを叫んでいたけど、海鳥の声がうるさくて聞き取れなかった。


「さてと」


 あたしの背中でヒルデさんの声がした。あたしはぎくりとして振り返る。

 お供の二人に加えて、二十人くらいの厳つい男たちが物珍しげにあたしを取り囲んでいた。あたしは珍獣か。

 そんな船員たちにヒルデさんは言う。


「この娘に手ぇ出したら切り刻んで海の藻屑にしてやる。返事は?」


 野太い声がいっせいに上がった。誰も逆らわない。ヒルデさんならほんとにやるってことかな?

 あたしは船べりを背にヒルデさんを見上げた。


「飛び込もうとか思わない方がいいよ。そんな格好じゃろくに泳げもしないからね」


 確かにあたしはロングスカート。水を含んだらとんでもなく重たい。

 はあ、とあたしは思わずため息を漏らした。

 そうして立ち上がると、腰に手を当てて言う。


「――冗談じゃない」

「は?」

「冗談じゃないって言ったの! 宝だかなんだか知らないけどいい加減にして! 人様に迷惑かけないでよ!」


 怒りがフツフツと湧いて来る。人質なんて、またしてもお荷物になって……ほんとに、冗談じゃない。

 思わずヒルデさんに啖呵をきったあたしに、船員の人たちは信じられないものを見たような目をした。その途端、ヒルデさんは高らかに笑い出す。でも、その笑い声がぴたりと止んだ瞬間に、鋭い平手打ちがあたしの頬に決まった。……いったぃ。打たれた頬もだけど、弾みで船べりで背中を打った。


「元気な娘だね」


 面白そうな、からかうような声だった。でも、目はあんまり笑ってない。

 敵わない相手に喧嘩売るなって言われるかも知れない。でもね、残念ながらあたし、殴られ慣れてるんだ。

 酒に酔って殴る親父に比べたら、ヒルデさんの平手打ちなんてまだ優しい。あたしはキッとヒルデさんを睨んだ。すると、ヒルデさんは呆れたみたいだった。


「あんたは人質だからね。あんまり手荒なことはできないんだ。だから、そう反抗的な態度は取らないでおくれ。ほら、手加減できなくなると困るんだよ」


 こわっ。

 でもここで引いちゃ駄目だ。あたしは立ち直ってふんぞり返る。


「残念ですけど、宝なんてほんとになかったんだから」

「なかったならなかったでいい。それに代わるものを用意すればいいんだ」


 そんな高価なもの、あの船にはないよ。価値があるとしたら、船の漕ぎ手パルウゥスたち?

 そう考えてあたしはゾッとした。そんなの絶対駄目だ。ヴェガスたちが差し出されるくらいなら、あたしが人質になってよかったんだ。あたし一人ならどうとでもなるもん。

 そう考えたらふっと楽になった。


「言っときますけど、ディオンは変なところが真面目だから案外蓄えがないし、あんまり期待しない方がいいんじゃない?」


 あたしがニッと笑って見せると、ヒルデさんたちは複雑そうだった。


「あんたは人質なんだから、もう少ししおらしくできないのかい?」

「攫ったのそっちじゃない。勝手なこと言わないでよ」


 抵抗されても怖くないから女のあたしにしたんだろうけど。あ、マルロも攫われなくてよかったかな。あの子はあれで神経細いし。


「とんだじゃじゃ馬だな」


 誰かがそんな失礼なことを言った。

 ヒルデさんの腹心っぽい人だった。ちょっと細身の方。

 ムッとしてあたしが睨んでも、平然としてる。


「まあ、ディオンの船に乗るくらいだからな。普通の娘では無理だろう」


 いや、あたし十分フツーだと思うんだけど?

 ヒルデさんはひとつため息をつくとその人に言った。


「アモス、イーサン、この娘を空き部屋へ放り込んで来い」


 細身の人がアモスさん、でっかい人がイーサンさんって言うらしい。……別に仲良くするつもりもないから名前なんてどうだっていいんだけどね。


 あたしは閉じ込められるみたいだけど、交渉は一日後。一日経てば出られるの?

 でも、ディオンがあたしのために損をするような交渉に応じるのかな?

 あたしには貴重な知識を与えてくれてる。パルウゥスたちと会話ができるエピストレ語。

 それをあたしが漏らしてしまわないか、今頃やきもきしているんじゃないかとは思うんだけど。手間隙かけて教えた分、ここであたしがいなくなったらさすがに勿体ない……よね?


 ゼノンやエセル、ヴェガスたちがあたしを助けようとはしてくれると思う。でも、最終的な決定はディオンにある。ディオンが切り捨てればそれまでだ。

 ……最近うっとうしがられてたからなぁ。


 少しの不安を抱えながらあたしは腹心の二人に連れられてウラノス号の甲板を下りた。シー・ガル号が視界から消えたことが不安を増幅するけれど。


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